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6.くすぐり拷問(元祖編)

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 状況を説明します。
 わたしは今、服を着たままで。とある金属製の台の上に、仰向けにされて、両手両足を伸ばして、手首足首の4点をガッチリ固定されています。例によってX字拘束です。それと足は裸足です。
 金属台は、わたし1人が寝っころがるのにはちょうどいい大きさで、高さや角度の調整が可能です。今は一般的なベッドよりは高めに、頭の方が少し高めの斜め向きになっています。寝心地は最悪です。
 あなた様は・・・まあ、お好きな位置にどうぞ。お手元のスイッチを操作するなり、わたしの隣に立って煮るなり焼くなりと、ご自由に。
 シチュエーションとしては、スパイであるわたしが敵アジトに潜入したものの、捕まってしまってこんなザマになった、というところです。場所は大きな会議場の、その中央。見世物としてはちょうどいい位置なので、お望みならばギャラリーもご用意できますよ?オプションとしてスポットライトや大型モニターも使用可能です。
 また、これはスパイに対する拷問――情報を吐かせるのが目的ではなく。ただ単に、わたしを苦しめて、その様子を見て楽しむために行われるものです。
 ・・・これは、処刑です。わたしは今から、殺されます。
 実際、元ネタでコレを食らった人は、君は死んでいくことになる、と敵のボスから断言されています。実際はギリギリのところで助けられたのですけどね。

 なお。この元ネタというのは、テレビアニメです。放送されたのは1971年。これこそが、日本におけるくすぐり責めの元祖、と言われています。
 実際は漫画作品も含めると、これ以前にもいくつかはあるようですが。名実ともに一番有名なのがコレなので、この作品においてはコレを諸悪の根源・・・失礼、くすぐり責めの元祖と定めさせていただきます。
 本格的なくすぐりプレイであれば、1991年頃にくすぐりプレイを題材にしたエッチなビデオと、それを作った監督が始まりとされていますが。そのビデオ監督が、どうしてくすぐりに目覚めたかと聞かれた際、小学生の頃にそのアニメを見たのがきっかけだった、と答えたそうです。
 ゆえにこれが、日本におけるくすぐり責めの元祖なのです。元祖の時点で処刑目的とは、冷静に考えてみれば中々ブッ飛んだ発想ですねぇ。全国テレビ放送だから、R-18確定のエッチな事だとか、アッハァイィイイイィィなグロいものは放送できなかった、という事情もあるかとは思いますが・・・。
 話によると、アニメによる影響でくすぐりに目覚めた、という方々は一定数いらっしゃるようですよ?特に子供向けアニメがきっかけとなって。
 くすぐり以外にも、登場人物がギチギチに締め付けられたり、磔にされたり、痛めつけられたり、電気責めを食らったり等のシーンを見て、そういうものに目覚める人も・・・という話はやめておきます。闇深いので。
 ただ、1つ言えるのは。その手のことは、あくまでもフィクションの話。状況にしても、設定にしても、受ける責めの内容にしても。現実ではどうやっても再現が不可能、もしくは犯罪行為になるものばかり。仮にできたとしても、必要経費が膨大すぎるために実現することができない。
 これらはすべて、架空の話だからこそ、できるものなのです。いくら科学が進化した現代であったとしても、このくすぐりの元祖の責めは、いまだに現実では再現不可能なのですよ。このマジックハンドがそうですからね。

 一応ながら説明しておきますが。
 この作品におけるマジックハンドとは。機械仕掛けで、人間の手とほぼ同じ動きをするもの、という扱いにします。これ以上は説明するつもりは――。
 まあ少しばかり説明するならば、本来のマジックハンドの定義や、業務用と玩具用の違いからお話をしないといけません。
 それとマニピュレータと産業用ロボットとオペレート・ティーチング・プログラミングの基本概要と近代工業科学の歴史とあとえっと・・・。ええと、どこから説明をいたしましょうか?・・・はぁ、不要ですか。
 ですが、機械責めを行う以上はこの手の機械的な話も必要で、ってお待ちください!?あの、そのスイッチを押すのはまだ早いと言うか、もうちょっとだけ覚悟する時間が欲しいと言うかで――ひいいっ!?
 ああもう!だから長ったらしい説明で時間を稼ごうと思ってたの、に、ぎゃあああああああああ!?やっぱヤるんじゃなかったあああぁっ!
 孫の手ほどの大きさの、小さなサイズのマジックハンドが。磔にされているわたしの、両隣の。金属台から、大量に、出てくる。
 上半身は、肘から脇までに左右それぞれ3本。肘と脇と、その間。それと胴体にも左右4本ずつ、胸元から脇腹、お尻の所まで。
 足に至っては、それぞれ8本。太ももにふくらはぎに足裏まで、ほぼ全域を。つまるところ、合計30本のマジックハンドが、わたしのまわりを取り囲んでいます。そしてもう一度言いますが、わたしは磔にされているので動けません。逃げられません。力ずくで破壊・・・するプログラムは解除されてやがります。

 あ、あの、あなた様。セーフワードの設定は・・・ハイそうですか、無しですか。まあそうですよね、これは処刑ですから、は、はは、はははは、くすぐられてないのに渇いた笑いが出てきますよ。
 ヒイィィィ、眼の前でマジックハンドをワキワキさせないでくださいぃ、もうそれだけで屈服してしまいます、怖いです、もうわたしの震えと涙は止まりません。
 あ、ああ、死ぬ、死んでしまう、普通のくすぐりでは死ぬことはないけれど、こんな一斉攻撃を、身一つで受けてしまっては、マジで死んでしまいます・・・。
 えっ?死なないようには配慮する?なるほど、ギリギリのところで休憩を与えてくださると。適度に水分や栄養も取らせて、気を失わないようにする、と。おおう、それは中々・・・ふざけんなああああっ!
 それってつまり、延々とヤる、ってことですよね!?機械仕掛けで、わたしの体調管理から細かい微調整まで、徹底的な管理のもとで、終わる、こと、なく――。
 あはは。こういう機械的な管理のテクノロジーも、現代科学では未だに実現不可能ですからねぇ。18禁作品において、機械仕掛けでアレコレ酷い目に遭わせる作品が出続ける理由が分かりますよ。動機や使用目的がどうであれ、機械――ロボットに夢を馳せるのは、いつの時代も変わりはしませんから・・・ハハハ。
 アハ、アハは、はは・・・ぎゃはははははははっ!?
 ひひゃっ!?ははは、ひゃはっ!?あああああああああッ!
 死ぬッ!死んじゃいます!もうやめ、あはははははははは!?
 ふああああああ!いやぁっ!苦し、ゴホッ!?がふ、ああ、あ――。

 何が起こったか、分からなかった。
 いや、分かる。全身が、くすぐったい。
 腕先から、足の裏まで。全身に、一斉に、襲い掛かる、くすぐったさ。
 こんなの耐えられるわけが無い。すぐに限界になって、動けないのに暴れ回って、笑い尽くして、酸欠になって・・・あ、ああ、ゲホッ。
 世の中には、くすぐりを快楽に変換できる人・・・いわゆる、ぐらと呼ばれる人だったり、あるいは真正のマゾだったりと、そういう嗜好を持ってらっしゃる人もいますが。わたしはやっぱり、くすぐりを快楽には変換できません。
 辛いです。苦しいです。息苦しくて、目眩がします。
 だけど、ひとしきり、目いっぱい、くすぐられて。つかの間の休息を与えられ、息を整え、薄暗くなった視界が少しずつ、回復する度に。
 ちょっとだけ安堵する、というか。こうして、少しずつながら、息を吸えるようになるのが、心地良く感じるのです。これはどちらかと言えば、窒息や呼吸管理プレイに含まれるかもしれませんが・・・ふぅ。
 ・・・ええ、どうぞ。お好きにしてくださいな。
 わたしは、くすぐり奴隷ですので。こうされるのが、仕事なのですから。
 このために。私のような存在が、生まれたのですから。

 ――奴隷。
 現代においては、日本に限らず世界中で。人道的、あるいは人権的な観点で、こういう存在はあってはならない、とされているもの。
 わたしやあなた様が知らない、あるいはニュースにならないだけで、実際にはそういう扱いを受けている人もいるかもしれませんが、今はそれについて語るのはよしましょう。これもまた、架空の物語だからこそ許されるものです。
 ――くすぐり奴隷。
 およそ、四半世紀・・・25年以上も前に生まれた概念。
 インターネットでこの言葉を調べれば、多くの作品が出てきます。そのほとんどは18禁作品なので、詳細を深く語ることはできませんが。
 時には、性的な描写を交えたり。時には、苦痛を与えることに特化した拷問として。時には、純粋にくすぐり尽くすのを目的として。架空の世界とはいえ、今までにどれだけのくすぐり奴隷が生まれてきたのでしょうかね?
 ただ、共通して言えるのは。どれもこれも、人によっては嫌悪感を抱いてしまうような、えげつない目に遭うことがほとんどです。だって奴隷なのですから。そういう作品なのだから、これについては仕方の無いことです。
 それでも、これからも。くすぐり奴隷は生まれ続けるでしょう。真偽のほどは不明ですが、現実にもくすぐり奴隷を自称しておられる方もいますからね。
 中にはくすぐり奴隷モノの作品を見て、現実のくすぐりプレイに目覚めた人もいらっしゃるようです。ぐり・ぐらの概念を生み出した方も、その1人のようですし。

 ・・・マジックハンドが、動き出します。
 きゃふ、はは、あはは、ひゃは、あああっ。
 く、くふふ、今度はゆっくりですか。弱火でじっくり炒めるつもりですね。ひゃふ、ふあああっ、きゃは、あははは、ははっ・・・。
 激しくくすぐられるのもキツいですが、こっちも中々の地獄です。激しくされないから、深い酸欠に陥ることはない。だから、休める頻度が減る。
 じわじわと、苦しくなって、だけどギリギリ耐えられるから、くすぐりの手は止まらない。しかも相手は機械仕掛けのマジックハンドだから、疲れることもない。
 あふっ、そこ、あひゃひゃひゃひゃ、はあっ、やめ、やめて、もうやめ・・・と言って、やめるわけがないですよね。あふっ、ひゃふふっ。
 あうう、まだ、続け――!?ぎゃあああ!ぎゃはっ!?がはっ!?ぎゃははははは!いきなり強くするのは卑怯で、ひひひひひひひーっ!
 ――が、ああ、もう少しで、気を失えたのにぃ・・・ひぃっ、また、弱いの、全身に、ひゃふ、はは、いやっ、こんなの、気持ち、よくは・・・ふ、ふふ、こうやって、くすぐりとは別に、マッサージのような事を交えるのも効果的なのですよ。
 そしてこれはマジックハンドですから、道具を使うこともできます。筆に、羽毛に、ブラシに、猫じゃらしに・・・複数を、一度に、目いっぱい。
 はああああああん!?耳を羽箒でヤるのはやめ、ギャアアアア何ですその巨大ローラーは!?そんな自動車の洗浄機みたいなデッカイのはやめ、ぎゃははははっ!いやああああまだまだヤるのですか!?ひ、ひひゃははははははーっ!
 ――あ、はは。これ、マジで、終わら、ない・・・。


 だけど。物事には、終わりがやってくるものなのです。
 なので。せめて、1つだけ。お願いを、聞いてください。
 トドメは、あなた様の素手でお願いします。部位はお任せします。
 ・・・これもまた、機械では実現不可能なのですよ。
 人間の指の動きや、骨格の再現だけではない。力の加減具合や肌の質感、そして体温のぬくもり。どうやっても、機械では再現不可能です。
 元々マジックハンドは、高電圧や高所作業や放射能に化学薬品などと、人間が立ち入れない危険領域において、人間の代わりに働かせるために生まれたもの。人間が立ち入れる領域ならば、人の手でヤった方が確実なのですよ。
 ・・・だから、お願いします。あなた様の手で、ヤってください。
 だってわたしは、あなた様のくすぐり奴隷なのですから。
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