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泣かせて、傷つけて 後 〚茜〛
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計画当日。まんまと罠にかかった愚かな男を嘲笑(わら)って、青褪めて逃げ出す葵を見送る。
―――あは、この男の顔も傑作。
ようやくすべてを理解して呆然として、ほんとうに愉しい。
けれど愉しいのはそこまでだった。
いつも葵が逃げ場としていたところをいくつ探しても見つからず。
もしやと思って学校に行ってもいなかった。
親に怪しまれるから捜索を断念して家に帰り、じりじりと葵の帰宅を待って。
けれど全然帰ってこない葵にとうとう痺れを切らして電話して。
1度目は、長くコールしたけど出なかった。
2度目は、電源が入っていないか……とのアナウンス。
―――電源を切られた。まさか、葵が?
何度掛けても繋がらない携帯に焦り、闇雲に探そうと家を飛び出した時、携帯が鳴る。
飛びつくように出て名前を呼べば、くつくつと低い笑い声。
―――早苗。
「光栄だね、声だけでわかってもらえるなんて。―――葵なら、今俺の横で寝てるよ。」
やられた、まさか、こんな時に。
歯噛みする俺を、早苗が冷たく嗤う。
―――大切なものを傷つけることしか出来ないガキが、いい気になるなよ。
―――葵は、俺がもらう。日曜日の夜には返してあげるから。それまで指を咥えて待ってなよ?
ぶつっと切れた電話にただ呆然として、のろのろと家に帰るしかなかった。
それから2日。ほんとうに葵は帰ってこなかった。
親に訴えかけても、もとより葵に興味もない人たちは役に立たない。
ここにきて、家族から孤立させていたのが裏目に出た。
日曜日。うろうろと葵を探してから家に帰れば、早苗が両親に耳触りのいい言葉を並べ立てていた。
切磋琢磨。通学時間の有効活用。生徒会の仕事。内申。自立心の養成。
もとより扱いやすい両親。
厄介払いをしたい気持ちに美しい理由をつけた早苗が、俺を見て嗤う。
『言ったでしょ?葵は俺がもらうって。』
そう聞こえるような、勝ち誇った笑顔に歯噛みする。
どうしてこうなった。
葵は俺のもので。
あとすこしで、そのしなやかな心も砕くことが出来たのに。
このまま盗られるというのか。
俺の半身を。掌中の珠を。
ぽっと出のカラスに。
―――許せるはず、ない。
✢
両親が部屋に下がった21時過ぎ。
葵の部屋に行けば、何かを探していた。
何か?いや、ノートだ。あの、付箋の。
本命は志摩かと思っていた。
だけど現状を見れば、いつの間にか心は変わっていたのだろう。
傷ついたところを、慰めて寄り添って?―――この短期間で葵を心変わりさせるなんて、有り得ない。
―――そう思っていた俺が、甘かった。
怯えて後退る葵が、掠れた声で俺を呼ぶ。
―――憎い。
俺と似たこの声で、喘いだのか?
無垢な身体の奥の奥まで、俺以外に明け渡したのか?
煮え立った頭で胸倉を掴んで―――首筋に咲いた、紅い花。
まがい物ではない、ほんものの鬱血。
驚きは一瞬にして激烈な怒りへ変わり、思い切り葵を突き飛ばす。
―――憎い。にくい。
俺以外がつけた痕にぎりりと噛み付いて、あがった悲鳴に興奮して。
涙声で訴える葵に、ぞくぞくと残酷な気持ちが湧き上がる。
このまま犯して、犯し尽くして、それを撮って早苗に送れば、葵はきっと泣くだろう。
早苗はどんな葵でも受け入れるだろうが、葵自身がそれを許せないはず。
これだけは葵が俺を受け入れてからにしたかったけど、しょうがない。
あの抜け目のない早苗を出し抜くには、もうこれしか。
―――くそ、早苗、見せつけやがって、
びりと服を裂いて顕わになった噛み跡をれろりと舐めあげる。
この2日で何回しただろうか。
この白い体を、あいつは何回貪った?
片手で押さえつけれるほどの、この華奢な体を。
片手でもどかしく服を剥いでいたら、その手に葵の手が掛かった。
今更抵抗なんて遅い、
そう思ったのに、小指だけを思い切り捻り上げられて、痛みに怯んだところを蹴りのけられて。
「―――っ、あおいっ!」
俺の声に振り向きもせず、駆けていく。
落ちたときに打ち付けた肩を押さえながら追いかけようとして、けれどその一瞬が命取りだった。
物音で降りてきた母に捕まり、なんとか振り切るも既に葵の姿はなく。
『大切なものを傷つけることしか出来ないガキが、いい気になるなよ。』
葵の、あの動き。
間違いなく、早苗が仕込んだんだろう。
俺の行動も予測して。
あるいは、そうなるように仕向けて………?
怒りと屈辱と、強い敗北感で、産まれて初めて膝を折った。
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