うちの兄がヒロインすぎる

ヒロイン爆誕？

1

　何事においても、初手でミスをすると致命傷になる可能性がある。

　もっと慎重に進めるべきだったのに。アレさえなければ。
などと、後悔するハメになるからだ。





　お兄様と共にホールへ向かうと、扉の前で執事長が待ち構えていた。
　お父様たちの姿はない。


「お嬢様。本日はおめでとうございます」
「ありがとう。お父様は中かしら？」
「はい。エスコート役をノア様が務められるとのことで、奥様と招待客のご対応を」


　執事長の表情からして、お父様をホールに送り出すのは、大変だったに違いない。
まあでも、会場はあたたまってるってことね。
ありがとう、お父様！
そして、ナイスフォロー、お母様！


「よし、お兄様。行きましょう」
「うん」


　お兄様の腕をギュッと掴んで、気合いを入れ直す。
　私は今から、ノアお兄様を守る盾になるんだから。


「わあ、すごいわ」


　扉が開かれると、眩しい光景が広がっていた。
　コレが、10歳の子供を祝う誕生日会ですって？
豪華すぎるわ。いったい、いくら注ぎ込んだのかしら。
いつもは飾ってない骨董品まで出しちゃって。
　正直やりすぎだと思う。


「そうでしょ！　実はね、僕も飾りつけを手伝ったんだ。
えーっと、あそこの花とか！」
「お兄様が？　嬉しいですわ」


　さすがです、お兄様。だけど、使用人の仕事を奪ってはダメよ。
きっと誰も止めなかったんでしょうけど。


「伯爵家ウチって、お金持ちだったのね」
「そうだね。国内の伯爵家ではトップクラスだと思うよ。
まあ、侯爵家のレオンには遠く及ばないけど」


　急にお金持ちになった気分。
……というか、緊張してきた。
　招待客の皆様は、まだ私たちに気づいていないっぽい。


「それにね、今回はレティシア姉様の時より豪華だよ」


　なんですとっ？！


「お、お兄様？」
「ソフィは、幼すぎて参加できなかったけど、僕は一応出たから覚えてるんだ」


　終わった。
　あの完璧令嬢のレティシアお姉様より、豪華ですって？
　お客様の期待値爆上がりじゃない。
無理。お姉様より上手くできる自信がないわ。
何よりハードル上がりすぎでしょ！


「お兄様っ、私はどうしたら」
「ソフィが主役なんだから、楽しめばいいんだよ！」


　おおぅ。天使の笑顔が眩しいぜ。
だけど、何故かしら。この裏切られた感じは。


「心臓が口から出そう」
「ええっ！　大丈夫？　延期してもらう？」


　延期なんて無理に決まってるでしょうが。
そんなことしたら、私の評判どころか、ドラモンド家の信用がガタ落ちじゃない。


「それは、ダメ。
……ふぅ。もう大丈夫ですわ、お兄様」
「そ、そう？」
「ええ。それより、私のお誕生日会がどうして一段と豪華なのか、何か知ってて？」


　脚の震えは、全然治らないけどね！
　誰だ。余計なことをしてくれた奴は。
　私が今日受けるダメージ分だけ、やり返してやるわ。


「レティシア姉様だよ」
「へっ？」
「ほら、レティシア姉様って、兄妹の中で1番ソフィを可愛がってるだろう？
父様は、例年通りに手配してたんだけど、姉様が地味だって。学園で親交のある生徒に声をかけて、色々お友達価格で提供してもらったわ、って言ってた」


　お姉様ー！！
なんてことをしてくれたんですか！
　
　レティシアお姉様には、何も言えないじゃない！
　まさか、こんな恐ろしい爆弾が近くにいるなんてっ。


「そうでしたか。お姉様ったら、本当に……」
「ねっ、すごいよね」


　違う。そうじゃないんだ、お兄様。
　無情にも、私の諦め切った顔を準備OKだと勘違いした執事長によって、入場のアナウンスがなされた。


　ごめんなさい、お兄様。
　ちょっと、守るどころじゃないかもしれない。