【完結】睨んでいませんし何も企んでいません。顔が怖いのは生まれつきです。

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14.誘いの断り方 ※

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「ふぅん、お前が孕み腹か」
 壁際でそっと気配を絶っていたのに、僕の目の前には好戦的な笑みを浮かべた男が立っている。
 怖いとか無理だとか、そんなことを直接言いにきたんだろうか? だとしたら酷い人だ。僕を下から上までまるで品定めするようにジロジロと見てくるし、何だかその視線が不快だ。

「そうですが、僕に何か用ですか?」
「お前みたいな凶暴そうな男を組み敷いて、孕ませてみるのも面白いかと思ってな。夜会で睨みをきかせているのなんてお前くらいだ。その野蛮な雰囲気が気に入った」
 凶暴そうな男……睨みなんてきかせてないのに。
「お断りします」
 そんなの答えは断る一択しかない。僕はベルガー家に嫁いだんだし、不貞を働く気はない。

「テオ、大丈夫か?」
 兄さんが僕を心配して駆けつけてくれた。
「はい。誘いを今断ったところです」
 断ったんだから心配には及びませんよ。この人もすぐに別のお相手を探すと思います。きっと僕に声をかけてきたのも揶揄っているだけでしょうし。

「俺は諦めてないけどな。リシャールなんかより俺の方が金を持っているぞ」
「シアスター卿、我が弟にちょっかいをかけないでもらえるか? あなたは男には興味ないはずだろ?」
「弟? へえ~、じゃあリシャールのものではないんだな。それなら俺のものになれよ」
 この人、僕を揶揄って何をしたいんだろう?
 僕は結婚してるんだ。あれ? 結婚は延期だと言われたっけ。じゃあまだ結婚はしてないのか? それだと婚約ってことになるんだろうか? 婚約の書類なんて書いたっけ?
 もしかして、僕とフィリップ様はまだ何の関係もないのかもしれない。それは困った。どう言って断ろうか……

「僕はベルガー辺境伯と結婚するので、あなたの誘いにはのれません」
「ははっ、ベルガー? あいつは結婚などしないだろ。狙ってるのかは知らんが残念だったな。お前に望みはない」
 僕をバカにしたように男は鼻で笑った。フィリップ様も本当は僕と結婚したくはないんだろう。たぶん王命で仕方なく……
 そう考えたら気が重くなった。この会場には見目麗しい人たちがいくらでもいる。僕は子を産むためにいるけど、愛を注ぐ相手はここで見つけたりするんだろうか?

「おい! 何してる。勝手にいなくなるな」
 いつの間にか近くまで来ていたフィリップ様が、僕の腕をグイッと引っ張るから、バランスを崩してフィリップ様の胸に倒れ込んだ。
 人目があるからと、すぐに離れようとしたのに、そのまま腕の中に閉じ込められてしまった。

「これは俺の夫なんでね。返してもらうよ」
「おい、ベルガー卿、冗談だろ? お前が結婚とか笑えねぇな。冗談を言うならこんな凶悪顔の男でなくもっとマシなの選べよ」
 そうか……何を言われても我慢すればいいって思ってたけど、僕が一緒にいるとフィリップ様までバカにされるのか。
 やっぱり何か理由をつけて欠席すればよかったな。

「お前のような奴にはテオの良さは分からないだろうな。お前が何を思おうがどうでもいいが、俺のテオに手を出したら領地は消し炭になると思えよ」
「お前本気か?」
「それが何だ。お前には関係ない。俺の前から消え失せろ」
 殺気が飛ばされてるな。ピリピリと肌を指すような感覚がある。

「ひぃっ……」
 チラッと見たら、男は真っ青な顔で後退りしていた。
 兄さんはこんなの慣れているから平然としてるけど。

「で、お前は俺のテオに何の用だ? 俺の殺気に怯まないとはなかなかやるな」
 矛先は離脱した男から兄さんに向いたみたいだ。
「何の用って、テオは弟なんだから話くらいするだろ」
「はははっ。なるほど、兄弟だから俺の殺気を浴びても平然としているのか。戦士のような体格でもないのにおかしいと思った」
「うちには殺気を日頃から撒き散らす父がいるからな。ベルガー卿、テオのこと大切にしてやってくれ」
「もちろんそのつもりだ」
 兄さんも心配してくれていたんだな。兄さんにも早くいい人が見つかるといいね。

「テオ、帰ろう」
「いいのですか? まだ夜会は終わっていませんよ」
「テオが狙われたからな」
 フィリップ様は僕の手を引いて会場を後にした。そしてすぐに馬車に乗って、本当に帰る気だ。

「フィリップ様、いいのですか? その、愛人を見つけたり……」
「は? お前、まさか愛人を探しに夜会に来たのか?」
「僕はフィリップ様だけです。不貞を働くつもりはありません」
 僕の愛人になろうなんて人はいませんしね。

「何を言われたのか知らんが、俺も不貞を働く気はない。テオだけでいい」
 そうなんだ。そっか。なんか、ありがとうございます。僕に気を遣っていただいて。

「今夜は抱いていいか?」
「いいですよ。早く子ができるといいですね」
「そういうことじゃないんだけどな……まぁいいか。お前は本当に難攻不落だな」

 その晩、フィリップ様は僕に全ての熱をぶつけるように抱いた。苦しくて、でも気持ちよくて、フィリップ様の熱に溶かされていく。

「テオ、気持ちいいか?」
「はい。ああっ……きもち、いい、です」
「ん、いい子だ」

「ほら、上に乗れ」
 フィリップ様の上に乗せられて、どうしたらいいのか分からなくて困った。
「あ、できな……」
「いいぞ。ほら、ゆっくりでいいから動け」
 フィリップ様の汗ばんだ胸筋に手を置いて、ゆっくり腰を落としていく。

「下からテオを眺めるのも悪くないな」
 僕は上手く動けなくて、こんなのでいいの? って思いながらゆっくり腰を上下に動かした。

「可愛いな。ほら、もっと動け」
「やっ……ふかい……」
 フィリップ様が僕の腰を掴んで下から突き上げてくるから、いつもより深くまできて、怖くなった。
 ちょっと涙が出たかもしれない。

「フィリップさま、おくに、いっぱいください」
「お前はまたそんなことを言って……」
 抱きしめられたまま、上下が入れ替わると、激しい抽挿が始まった。
 わけが分からないまま僕が手を伸ばしたら、ちゃんとその手を握ってくれた。フィリップ様は優しい。

 
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