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しおりを挟む「ニコラ、防具は? 武器は持っていかないのか?」
「僕は戦うわけじゃないから。それにそんなの持ってないし」
「危険はないのか?」
「後方だから敵が来たりはしないし、たまに魔術が飛んでくるくらいかな。でも結界の魔道具もあるから大丈夫」
ロッソは何だか考え込んでしまったけど、歩みは進めてそのまま僕についてきた。
ゴミ捨て場に着くと、僕は魔道具を探して浄化をかけ、分解して素材をそれぞれに分けていった。
「ニコラ危ない!」
ガキーン
分解するのに夢中になっていて周りを確認していなかった。
ロッソの声にハッと顔を上げると、ロッソがその辺に落ちていた折れた剣で、飛んできた炎の矢を叩き折るところだった。
あれは魔術で作り出した炎の矢で、弓で射るよりかなりスピードが速い。それを使い物にならないような折れた剣で……
そもそも岩とか氷とかなら分かるけど火だよ? 実態があってないような炎の魔術って剣で切れるの?
ロッソってもしかして、ものすごく強い?
「ロッソ、ありがとう」
「こんな折れたものでなく、もう少しまともな剣が要るな」
「え? もしかしてロッソ、戦場に戻るの?」
「戻らない。俺はニコラを守ることにした」
「僕、そんな護衛とか雇えるほど稼いでないから、ロッソは自分に合う仕事見つければいいんだよ」
「嫌だ」
嫌だって言われても……僕はロッソを雇えるほどお金はない。
それにゴミ捨て場に攻撃が飛んでくることなんて殆どない。行き帰りの途中でたまに飛んでくることがあるけど、結界の魔道具もあるし。
ロッソは瓦礫の中から使えそうな剣を探してるみたいだけど、使えるものならゴミとして捨てたりしないよ。
僕が魔道具の浄化を終えて分解をしていると、ロッソが何をしているのかと聞いてきた。浄化して魔道具が暴発しないようにしているのと、売れそうな素材を集めて持って帰って売るのだと説明した。
「そうか、ゴミだから売っていいんだな。どれが売れる?」
僕は魔道具の触媒の部分に使われてるアダマンタイトや、稀にミスリルなんかもあるから、それら貴重な金属を探していることを伝えた。
これは売れないのか? と折れた剣を持ってきたから、売れるけど重いから持って帰るのが大変だし、一本や二本では大したお金にならないと伝えた。
そう言ったから諦めたのかと思ったら、剣や防具の金具部分をたくさん集めてきて、魔術の青い炎で炙っていた。
何してるんだろう? と思って見てたら、その金属が溶けて流れて地面に開けた穴に溜まっていった。そんな色の炎も金属が溶けるのも初めて見たよ。
「ニコラ、もう帰るか?」
「あ、うん」
ロッソはその後もたくさん金属を溶かして塊を作ると、それを持って帰るみたい。
重そうな塊を、ゴミ捨て場にあった革鎧を裂いて紐状にして縛って担いでいた。
「金属の塊か、これはいいな、また見つけたらうちに売ってくれよ」
「分かった」
金属を買い取ってくれる店に行くと、僕が分解して集めたミスリルやアダマンタイトという貴重な金属より、ロッソが持ち帰った金属の塊の方が重宝がられて、量も量だから結構な高値で買い取ってもらっていた。
あんな高い魔術の腕があるのは羨ましい。
僕の側でゴミ処理係の手伝いなんてしなくても、ロッソならどんな仕事でもできると思う。
帰り道、僕たちは今日の夕飯のための野菜と肉とパン、明日の朝用のパンも買って帰った。
「パンの概念が覆る」
「え? これ普通のパンだよ? もっと高いのがよかった?」
「違う。俺が今まで食べていたものは、もっと硬くて、殴れば怪我をするほどだった」
「えーー??」
そんな硬いパンなんてあるの? パンで殴って怪我をする?
全然想像できない。それって本当にパンなのかな?
「それに、もっとカビ臭かった」
「それって、食べられるパンだったの?」
カビ臭いって、たぶんもうカビが生えて食べれないやつだと思う……
そんなの食べてたの? 戦場の食事事情ってそんなに劣悪なの?
「兵器と呼ばれるような奴らはみんなそれを与えられていたな」
「そうなんだ……」
国を守るために必死に働いているのに、そんなものしか食べさせてもらえないなんて。
肉も、干し肉しか見たことがなかったらしい。だから昨日のスープとパンに驚いてたんだね。
「ニコラ、俺も食べていいのか?」
「うんいいよ。二人分作ったから」
「ありがとう。兵器の俺にこんなに優しくしてくれたのはニコラが初めてだ。金はこれで足りるか?」
「いらないよ」
ロッソはさっき金属を売ったお金を全部僕に差し出してきた。
僕の料理にそんなに価値があるわけない。今日は危ないところを守ってもらったし、元々お金なんて取る気はなかった。
「でもこれは受け取ってくれ」
「これはロッソが頑張って稼いだお金だからロッソのものだよ。もらえない。あ、剣欲しいって言ってたでしょ? これで買えるか分からないけど、貯めて買ったら?」
「俺は、ニコラが好きだ」
「す……あ、うん。ありがとう?」
いきなり好きだなんて言われて、どうすればいいのか、なんて答えればいいのか分からなかった。だってその好きって人として好きとか、友達として好きって意味じゃないんでしょ?
ロッソの赤くなった頬と、熱のこもった目を見れば、それがどういう意味なのか、僕にも分かってしまった。
ロッソは好きだって言ったけど、僕に返事は求めなかったし、恋人になってくれとかそんなことも言われなかった。伝えたかっただけってことかな?
「ニコラ、おやすみ」
そう言ってロッソは僕をそっと抱きしめてきた。
「うん、おやすみ」
そんなことサラッとしてしまうって、兵士の訓練ってそんなことまで学ぶの?
僕はびっくりして、一ミリも動けなかったんだけど、嫌じゃなかった。
まだ数日しか一緒にいないけど、ロッソに気を許してる自分にも驚いてる。
一緒に寝たいとか言うのかと思ったら、そんなことはなくて、ロッソはベッドの下の床に寝転がって、目を閉じてしまった。
普通に寝られるんだ。
抱きしめられたのなんて初めてだったから、僕は全然寝れなかった。
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