【完結】うちの子は可愛い弱虫

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30.エリオの変化

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「副団長って、怖いと思っていたが最近優しくないか?」
「よく考えてみれば怒鳴られたりしたことはないな。」
「この前、教えてくれた時は優しかった。」
「剣士部隊では一緒に走ったと聞いたぞ。」
「副団長が走るのか?というか走る必要はあるのか?あの人飛べるよな。」
「だよな。走る必要など無いように思う。」

 そのような話が囁かれるようになると、エリオは騎士団の廊下を歩いていても声をかけられることが増えた。

「副団長、おはようございます!」
「・・・。」

「副団長、またうちの隊にも教えにきてください。」
「・・・。」

 一瞬ピタリと歩みを止めるも、返事はせず足早に去っていくエリオに、やはり気軽に声をかけるのはいけないことかもしれないと迷う者もいた。

 一方のエリオは、さっと副団長室に戻ると、突然話しかけられたことに緊張して何も答えられなかった自分を恥じていた。

 話しかけられたのに、何も答えられなかった・・・。挨拶すら・・・
 あれは本気か?それとも社交辞令か?私を揶揄ったのか?今まで廊下ですれ違っても、敬礼しかされたことがないのに、なぜ突然話しかけられるようになったのかが分からない。

 しかし、騎士団の底上げ、特に魔法騎士たちの底上げはしなければならないのだからと、今日も緊張しながら隊の訓練場へ向かった。
 ふぅ、さっきは失敗してしまったから、今度はちゃんと答えられるようにしなければ。

 一通り訓練を眺めて隊長に指示を出す。
 先日渡した訓練メニューに沿って進めてくれているようだ。
 様子を見てもう少し難易度を上げてみるか、それとも他を強化するか考えなければ。
 そう思って訓練の様子を見ていると、休憩の時間になった。

「副団長!」
「この前の風魔法もう一度見せてください。」
「魔力操作の精度を見てもらえませんか?」
「俺も見てほしい。」
「俺も。」

 わらわらと寄ってくる部下たちに私は思わず後退りし、囲まれる前に足速に立ち去って部屋へ引き返した。
 あんなに一気に寄ってこられたら怖い。
 1人や2人なら何とか対応できると思ったが、私が輪の中心などとてもじゃないが無理な話だ。

「まだ直接教えてもらうには俺たちではレベルが低すぎるということか。」
「その程度の腕で副団長に教えてもらうなど無理ということだな。」

 エリオが逃げたあと、取り残された騎士たちのモチベーションは意外と落ちはしなかった。

 魔法騎士たちの底上げという使命感から、エリオは震える足に弱い雷魔法を浴びせながら、毎日のように訓練場へ通った。

 ふぅ。今日は剣士部隊の方へ行って走るか。

「副団長! う、機嫌、よくなさそう、ですね・・・」
「・・・。」
 そっと距離をとる剣士たちと、今日も一緒に訓練場を何周か走った。

 走っていると少しは顔の強張りもマシになってくる。

「副団長、嫌なことでも有りましたか?」
「別にない。」
「そうですか。」
「剣士たちは身体強化くらいは使うのか?」
「使う者もいますが、あまり多くはないです。」
「そうか。教える者がいないのか?それともあえて使わないのか?」
「教える者がいないです。」
「分かった。教わりたい者がいるなら手配しておく。」

「教わりたいです。」
「俺も。」
「私も。」
「分かった。」

 そうなのか。魔法剣士たちを派遣すればいいのに、なぜ今までしなかったんだ?
 私は部屋への帰り道、その辺にいた魔法騎士2人を捕まえた。

「お前ら、明日から三日、剣士部隊に行って身体強化を教えろ。」
「は、はい。」
「第3訓練場だ。」
「わ、分かりました。」

  
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