僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
121 / 568
二章

120.加速する気持ち

しおりを挟む
 
 
「ママ!」
 シルにも心配をかけてしまった。
 飛びついてくるシルを抱き上げて、背中を撫でる。
「ただいま」
 そう言ったら、周りの騎士から拍手が湧き起こった。

 僕が行方不明になったことで、一般公開が中止されて捜索されていたのだと知った時は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「みなさん、ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、このような危険な場所を発見してくださり助かりました。それに継ぎ目が見えない扉など貴重な発見です!」

 一般公開されている場所にこんな危険な罠があるとは知られておらず、観光に来た一般の人が巻き込まれなかったのは幸いだったと感謝された。
 そして、大発見だと研究者の人たちからは握手を求められてしまった。

 そんな感じで、今日はもう迷宮の見学はできないから、街に帰ることになった。
 貴重な体験をしたかもしれないけど、少し残念な気持ちだ。

「マティアス、怖かった」
 ラルフ様が僕の手を強く握って呟くように言った。
「ラルフ様が怖かったんですか?」
「そうだ。マティアスを失うことが一番怖い」
「大丈夫ですよ。ラルフ様がいつも僕を守ってくれるし、いつも助けに来てくれるから」

 壁の奥に入ってしまった時、初めは大声を出したり叩いたり、どうにか出られないかと色々試してみた。どこかに扉が開く仕掛けがないかと、壁や床を色々確認してみたんだけどダメだった。
 ずっと立ってるのも辛いし、真っ暗な中で移動もできない。
 一歩進んだら穴だったりしたら怖いし、地面を確かめてしゃがんで過ごしていた。

 だんだん時間が過ぎていくと、本当に出られないのだと実感して怖くてたまらなかった。真っ暗だから時間の感覚が分からないし、物音一つしない空間はとても不安だった。
 声を出しても真っ暗な中に吸い込まれるように音が消えてしまう。
 このまま死ぬんだろうかとも考えた。誰にも発見されずに死んで、何年も何十年も経ってから骨が発見されるなんてことになったら……なんて考えが頭をよぎったりもした。
 だから急に光が差して、見上げたところにラルフ様がいたから、安心してちょっと泣いてしまった。

 ラルフ様にも心配かけてしまったな。そのせいか、いつもより繋いだ手に力が込められている。ちょっとだけ痛い。手を繋いで隣を歩いているのに、何度も僕がいるか確認する視線を感じる。それほどまでに不安だったんだ。

 今回はわざとじゃないけど、危険なことをしたことに変わりはない。みんなから離れていたし、勝手な行動をしたのは本当に反省している。

 リーブとリズも、僕の姿を確認するとホッとしていた。いつも冷静な二人の額には汗が滲んでいたから、二人も心配してくれていたんだと分かった。
 本当に反省しています。

「ラルフ様、トイレにまでついてくるんですか?」
「また壁の裏に入ってしまうかもしれない」
 ここは迷宮じゃなくて宿だから大丈夫だと思うけど……
 それに用を足しているところを見られるのは恥ずかしい。そう何度訴えても、ラルフ様は手を離してくれなかった。

 食堂で食事をする時まで、手を繋いだままなんだ。
「ラルフ様、片手ではナイフを使えません」
「分かった。リーブ、俺とマティアスの肉を切ってくれ」
 そうじゃなくて……
「大人しく食事しますから。勝手にどこにも行きません」
 座って食事しているのに壁の向こうに行くことはない。

「よし分かった。マティアスは俺の膝の上で食事をしろ。それなら手を放していてもいい」
 分かったって言ったけど、全然分かってない。
「一人で食べられない幼児じゃないんですから、そんなことできません。みんなに笑われます」

「そうか……」
 見える場所にいるから大丈夫でしょ?
「それなら食事は部屋でとろう。それなら恥ずかしくない」
 そうじゃない。だけど心配かけてしまったのは僕だから、大人しくラルフ様の言葉に従った。

 翌日は、迷宮の中を研究者の人が案内してくれた。
 もちろんラルフ様は僕の手をしっかりと握っているし、シルもリズと手を繋いでいる。そして前後左右を騎士に挟まれて移動するという、どこかの要人のような対応をされ、色々見せてもらったけど、自由に見られなかったのは残念だった。

 ちなみに土でできた人形が襲ってきたり、宝箱があったり、金銀財宝が発見されるということはなかった。
 銅像のようなものはあったけど、たぶん当時の権力者の姿を模ったもので、迷宮を守ってるわけではなかった。
 現実はこんなもんだ。
 迷宮には罠があって危険もあるけど、古くて大きな建物があるだけだった。

 最終日は、街の郊外を馬で散歩した。僕はラルフ様と相乗りだ。シルはパンに乗っている。今日パンの手綱係はルーベン。結構な速度で走るパンの隣を平然と並走している。
 もうあと半月もしたら雪が降る。今年の遠出はこれが最後だ。街道に雪が積もったら交通網が麻痺するから、街の間を移動する人はとても少なくなる。しばらく会えないのかと思うと急に寂しくなった。

 ラルフ様は僕たちが王都へ帰ると言うと、「俺も帰る」とごねた。
「お仕事なんですから、頑張ってください。またお休みには王都に戻ってきてくれるんでしょう?」
「ずっとマティアスのそばにいたい。そばにいなければ守れない。いなくなったことにも気づけない」
「大人しくしていますから。一人で行動しないようにしますから」
 ラルフ様は納得はしていなかったけど、渋々といった感じで迷宮の街ラビリントに残ることに了承した。

「マティアス、寂しい」
「うん、僕もしばらく会えないのは寂しいです」
「会えない分まで愛していいか?」
「いいですよ」
 帰る日の前日の夜、僕は初めて寝かしてもらえなかった。馬車の中で寝よう……

 まるで捨てられたような悲しげな顔で見送るから、僕も思わずラルフ様を連れて帰ると言いそうになった。


「え? シルその金貨みたいなのどうしたの?」
 馬車の中でシルが掌の上に乗せて眺めている、見かけない金色の金貨のようなものが気になった。
「きれいなの。ひろったの」
「どこで?」
「めいきゅー」
 持ち帰って問題にならないだろうか? 一枚くらいいいかな?
 シルはしっかり迷宮で財宝を見つけていた。やっぱり迷宮にはお宝があるんだ。夢が広がっちゃうな。

 
しおりを挟む
感想 219

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい

よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。 王子の答えはこうだった。 「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」 え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?! 思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。 ショックを受けたリリアーナは……。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

処理中です...