僕の過保護な旦那様

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二章

131.拗ねたい気分

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 家に帰るとラルフ様にそのまま抱えられて部屋に向かった。
 どうせまた僕は膝の上に乗せられたまま話すんだろうと思ったら、ソファの隣に下ろしてくれた。
 でも手はしっかりと握られている。指を絡める握り方で、その手はラルフ様の膝の上だ。僕の手は小さくて、ラルフ様の手は大きいから、指の間がグワっと広がってラルフ様を感じるからちょっと恥ずかしい。

「セルヴァ伯爵はお礼を言いにきてくれただけです。アマデオと僕がポポ軍団を作ったでしょ? エドワード王子が必要になったら追加発注するかもって言ったから、セルヴァ伯爵の領地で作っているって教えたんです。それで注文が入ったからお礼ってことで、それだけです」
「家にあげなくてもいいだろ」
 ラルフ様の心情的にはそうかもしれないけど、現実的にはそうはいかないんだ。

「僕たちより身分が上の人がお礼を言いたいと訪ねてきたら、玄関で追い返すなんてできません」
「む……」
 むってなんだ……?

「ラルフ様、僕のこと信じてないの?」
「そんなことはない。マティアスにその気がなくても、相手は分からないだろ? 何かあってからでは遅い」
 何もないよ。何かあると思う方がどうかしてる。

 何を話したのかを聞かれ、夜会で僕たちが早々に帰ってしまったから話したい人がたくさんいたと言っていたこと、ヴィートも探していたみたいだから、そのうち茶会の招待状が来るかもしれないことを話した。

「夜会など行くべきではなかった。マティアスが狙われた」
「違いますから。きっと勲章をいただくほど戦争で活躍されたラルフ様とお話ししたい人がたくさんいたんだと思います。それに、あの日のラルフ様はとても格好よかったから、狙われたのはラルフ様だと思います」
 僕も夜会の件は不安に思っていた。高位貴族の令嬢なんかがラルフ様を寄越せと言ったら、無理やり引き離されたりするのではないかと不安だ。

 ラルフ様は一瞬ニヤっとして急に厳しい顔をした。ニヤっとしたのって、もしかして格好いいって言われて嬉しかったの?
「それは無い。あの日のマティアスは可愛かった。マティアスはいつでも可愛いが、やはりあんな敵の拠点のような場所に連れて行くべきではなかった」
 敵の拠点って……
 僕は花屋を通して結構な数の貴族と知り合っているし、狙われたりしていないことは分かってる。だいたい特に何か秀でたものがあるわけでも無い僕のことを狙う人なんていないよ。タルクみたいな爽やか好青年だったら狙われるかもしれないけどさ……

「とにかく僕は誰からも狙われていませんし、ラルフ様の夫を奪おうなんて誰も思うわけありません。僕なんかを狙っても何の得にもなりません」
「『僕なんか』などと言うな。マティアスはとても可愛くて、俺の大切な夫だ。危なっかしいが、本当に強くて輝いていて、非の打ちどころの無い素晴らしい人物だ」

「ラルフ様……僕のことそんな風に思ってくれていたんですね。嬉しいです」
 どうしよう、愛されたくなってしまった。僕はラルフ様の膝の上に自分から乗った。

「ラルフ様、大好きです。寂しかった。会いたかったです。ラルフ様が疑うようなことは何もありませんし、せっかく帰ってきたんだからキスして?」
「分かった」
 ラルフ様の「分かった」は信用ならないけど、今はラルフ様に甘えていたい。

 ラルフ様の分厚い胸にもたれてラルフ様を見つめたら、温かい手が頬に触れて唇が重なった。
「ん……」

 少し唇がカサついているのはラビリントの街が乾燥してるからだろうか。
 頬に触れていた大きな手が後頭部に回ると、ぬるりと舌が入ってきてキスが深くなる。
 でもすぐに舌は出ていって唇も離れてしまった。

「ラルフ様、もっとキスしたいです」
「まだ午前中だ。これ以上は我慢できなくなる」
「我慢しなくていいよ」
 僕はギュッと抱きついてラルフ様の首筋に顔を埋めた。

 ふわっと浮いた体。僕は次の瞬間にはもうベッドの上で裸だった。
 ラルフ様が覆い被さってきて、たくさんキスをしてくれたのが嬉しくて、僕はラルフ様の背中に手を回したんだ。

「む?」
 ラルフ様は急に起き上がって僕の手を掴んだ。何?
「これはどういうことだ?」
「え? 何のこと?」
「こんなに手が荒れて、ヒビ割れて血まで滲んでいる」
 血? そんなに酷くなってたっけ? ちょっと痛いとは思ってたけど血が出てるなんて気づかなかった。

 ラルフ様はすぐに僕に服を着せた。そしてラルフ様も服を着た。ラルフ様の早業は脱がす時だけでなく着せる時にも発揮された。やっぱりこの早業は戦場で必要だったんだろうか?

「行くぞ」
「え? どこに?」
 僕はラルフ様に抱えられて運ばれた。玄関には馬車が停まっていてリーブが待ってたんだけどなんで?
 リーブの有能さのカラクリを知りたい。

「リーブ、治療院に向かってくれ」
「畏まりました」

 僕の体は手荒れの治療よりラルフ様を求めてたのに……
 パンのように拗ねたい気分だ。目の前でお預けを食らって、ちょっと不機嫌になってしまったのは許してほしい。

 治療院で薬をもらって、ラルフ様は帰る前に花屋に寄った。
「店主殿、うちの夫の手がボロボロで血だらけだ。しばらく休みをいただきたい」
 ラルフ様はマチルダさんを呼び出すと、休むと告げた。確かにちょっとボロボロだけど、血だらけではない。休むなんて大袈裟じゃない?
「え? 休むのは構わないけど、マティアスくん大丈夫なの? 血だらけって何があったの?」
「血だらけってほどではなくて、手荒れがひどくてヒビ割れて血が出てしまいました」
 こんなことで休むとか申し訳ない。指先一本一本に包帯が巻かれて痛々しい見た目にはなっているけど、大したことはないんだ。

「あら、それは痛いわね。薬液が入った水だと沁みるでしょうし、しばらく休んでいいわ。マティアスくんの指名が入ったら付き添いくらいはしてもらうかもしれないけど」
「分かりました。ご迷惑をおかけします」
 僕はお休みをいただくことになって、そのまま家に帰った。
 続き……馬車の中でラルフ様をじっと見つめたけど、僕の頭を撫でただけで気づいてくれなかった。


 
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