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二章
182.変わらないもの
しおりを挟む最近、イーヴォ隊長がうちに来る頻度が高い。いつもシルとパンと遊んでミーナやリズと少し話をして帰る。
ミーナは分かるけどリズとは何の話をしてるんだろう?
まさかミーナかリズを引き抜こうとしてるんじゃないよね?
イーヴォ隊長は独身だけど大隊長という役職に就いているから、寮には住んでいない。
ラルフ様と同じ伯爵家の出身だとか。それで実家である伯爵家の王都の屋敷に住んでいるらしい。
屋敷を管理するためにも使用人は何人かいると思うんだけど、うちの使用人はみんな優秀だから自分の家で雇いたいと思う気持ちも分からなくはない。
リーブは結婚しているし、バルドはラルフ様の部下とお付き合いしているから、そうそううちを出て行こうなんて気にはならないと思う。だけど、メイドの三人とチェルソは好条件を提示されたら移籍してしまうかもしれない。
ラルフ様は知らない人を家に入れたがらないし、この中の誰かが抜けてしまうなんて嫌だ。
「チェルソ、何か困ってることはない?」
「特にありませんね」
「そっか、何かあったらすぐに僕かラルフ様に言ってね」
「分かりました」
チェルソは特に困ってることはないみたいだ。困ってることはなくても不満があったりとか……
僕は聞き方を間違えたのかもしれない。
「メアリー、何か要望とかある?」
「要望ですか? 特にありませんが、どうかしましたか?」
「無いならいいんだけど、職場環境はいいに越したことないでしょ?」
「そうですね。私は現状で満足していますよ」
メアリーは要望は無いと言った。それって本当? 僕に言い難かったとか、そんな可能性もあるんじゃないかと思ったら、また聞き方を間違えたのかもしれないと思った。
「リズ、何か仕事の面で改善してほしいことはある?」
「すぐには思い浮かびませんが、特に不満に思うことはありませんよ」
「そっか。何か思い浮かんだら僕かラルフ様に言ってね」
「畏まりました」
改善してほしいこともないのか……
どうやって聞いたら、もっとこのうちを好きになってもらえるんだろう? やっぱり給料を上げるしか方法はないのかな?
「ミーナ、うちで仕事をしていて、給料面とか待遇面で不満とかあったりする?」
「特にありません。色々自由にさせていただいていますし、最近は刺繍や編み物を教えるなんて楽しいこともさせていただいています。何も不満はありませんよ」
「そっか。他にも何か僕やラルフ様にしてほしいこととかあったら気軽に言ってね」
「畏まりました」
ミーナは刺繍や編み物を教えるのが楽しいんだ。それはよかった。だとしたら、メイドではなく先生になりたいとか思ったりするんだろうか? 聞いておけばよかったな……
「 リーブ、リーブってなんでこの家で働こうと思ったの?」
「シュテルター伯爵に誘われまして、気軽な気持ちで執事を始めてみましたが、旦那様とマティアス様、シルヴィオ様に出会い、今では天職だと感じております」
え? 執事って気軽な気持ちで始められるものだっけ? こんなに完璧な執事なのに、前職ってなんなんだろう? 僕は気になったけど、ちょっと怖くて聞けなかった。
バルドはロッドとお出かけしていて聞けなかった。バルドは引き抜きの話とかきていないし、庭師は有能かどうかって判断が難しいから大丈夫かな。今度、不満がないかだけは聞いてみよう。
「ラルフ様、イーヴォ隊長ってもしかしてリズかミーナを引き抜きたいとか思ってたりしますか?」
「引き抜きとは聞いていない」
「え? じゃあ何か他のことは聞いているんですか?」
「あいつはリズに気があるそうだ。まだ片思いだと聞いている」
「ええーー??」
そっち? 引き抜きではないけど、もしリズがイーヴォ隊長と結婚するってことになったら、うちを出ていくんだよね? ってことは実質引き抜き?
困った。ただの引き抜きなら阻止したい気持ちがあったけど、恋愛は個人の自由だ。もしリズがイーヴォ隊長とお付き合いや結婚をと考えているなら、僕には止められない。リズが幸せになる未来がそこにあるのなら、応援したいとも思う。
「マティアス、どうした? まさかイーヴォのことが気になっているのか?」
ラルフ様の目が僕を責めるように見た。
「そんなことはありません。使用人の誰かがうちを辞めてしまうのかと思ったら、寂しいと感じました」
「そうか。それは仕方のないことだ。そうなったらその時に考えるしかない。大丈夫だ、マティアスの安全は必ず守るから」
それは心配してない。王都は元々安全だし、この要塞と呼ばれる家に住んでいるんだから、それだけで過剰防衛なんだ。
でも、そっか……
ずっと変わらないでいるなんて無理なんだよね。僕とラルフ様はずっと一緒にいるけど、シルだっていつか家を出るかもしれないし、結婚したり、仕事を引退して、うちを出ていく人もいると思う。
ずっと先か、すぐなのかは分からないけど、いつかはそんな日が来るんだ。
少しだけ感傷的な気持ちになったら、ラルフ様が僕の髪を大きな手でそっと撫でてくれた。
「俺はずっといる」
僕はその言葉ですごく安心した。一番大好きな存在が「ずっと」を約束してくれる。何ものにも変えがたい絶対的な存在。
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