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恋の心理学

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「初恋とは、相手の事に興味を持ち『もっと知りたい』と思うこと。特定の人物とすれ違うと目で追い、目が合えば頬を赤らめ、そして話すだけで鼓動が――」

 今ここにいる生徒の八割は女の子(担任の先生も女の人)だ。

 そんな中、これだけ素敵な天使様……もとい、が目の前で『恋愛』について説明をしているのだから、落ち着いていられるわけがない。キャッキャッと可愛い声が教室の所々から聞こえてくる。

「何も手につかない、という精神状態が起こり――」

 今日初めて心理学科の講師として呼ばれたという心先生。そうとは思えないほどに落ち着いた雰囲気と分かりやすい授業……そして何より今、教室中のハートを見事に掴み、キュンとさせていた。

「はぁ」
 ふと、私は溜息がもれる。

 改めて見ると先生はとても背が高く、細身の身体はスラッとしている。なのになぜかがっちりとした印象。ウルフカットで残した長めの後ろ髪は緩く結び、これがまた恰好良いのだ。

「感じ始める相手への好意は、家族などに持つ感情とは違うもので――」

 低すぎない潤った美声が響くと、その声色が耳の辺りを優しく包み込む。

「はぁぁ」
 少し席が遠いのが残念だけれど、ホワイトボードへ滑らかに文字を書く先生の指先は細くて長くて、美しい。

「ねぇ、あの指先見て! めっちゃ細いし綺麗すぎない?」
「やぁ~ん、しかも美文字」
「確かに! もぉーキュンとしちゃう」

 皆が小さな声でキャッキャと話す度、私の胸はなぜかギュッと締め付けられた。それでも私の視線は先生から離れない。

――でも。
「あの指先を近くに感じたのは、きっと……」

 ふと、あの日に髪についていた桜の花びらを、心先生が取って下さった映像が、頭の中で思い出される。

(やだ私、何考えてるの!)
 ふと呟いた内心、「この教室では私だけだ」なんて考えてしまった。

「……ということだ」

 文字を消す先生の背中で揺れる髪。光が当たると艶が増し金色こんじきに輝く。

みたい。可愛く見えてきちゃう)
 思わずフフッと笑みが零れる。

「さて、ここまでの説明で君たちからの意見や質問は?」

(こっち向いた!)
 見惚みとれていた私は振り返る先生と目が合った気がして、ビクッと肩を上げた。

「では、続きを。生まれて初めて持つ感情に戸惑い、その思いを抱く間。つまり相手を好きだと想う期間。それが初恋だと気付かない者も少なからずいるであろう」

(良かった)
――笑ったの、気付かれてないみたい。
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