6 / 9
恋の心理学
しおりを挟む「初恋とは、相手の事に興味を持ち『もっと知りたい』と思うこと。特定の人物とすれ違うと目で追い、目が合えば頬を赤らめ、そして話すだけで鼓動が――」
今ここにいる生徒の八割は女の子(担任の先生も女の人)だ。
そんな中、これだけ素敵な天使様……もとい、先生が目の前で『恋愛』について説明をしているのだから、落ち着いていられるわけがない。キャッキャッと可愛い声が教室の所々から聞こえてくる。
「何も手につかない、という精神状態が起こり――」
今日初めて心理学科の講師として呼ばれたという心先生。そうとは思えないほどに落ち着いた雰囲気と分かりやすい授業……そして何より今、教室中の心を見事に掴み、キュンとさせていた。
「はぁ」
ふと、私は溜息がもれる。
改めて見ると先生はとても背が高く、細身の身体はスラッとしている。なのになぜかがっちりとした印象。狼カットで残した長めの後ろ髪は緩く結び、これがまた恰好良いのだ。
「感じ始める相手への好意は、家族などに持つ感情とは違うもので――」
低すぎない潤った美声が響くと、その声色が耳の辺りを優しく包み込む。
「はぁぁ」
少し席が遠いのが残念だけれど、ホワイトボードへ滑らかに文字を書く先生の指先は細くて長くて、美しい。
「ねぇ、あの指先見て! めっちゃ細いし綺麗すぎない?」
「やぁ~ん、しかも美文字」
「確かに! もぉーキュンとしちゃう」
皆が小さな声でキャッキャと話す度、私の胸はなぜかギュッと締め付けられた。それでも私の視線は先生から離れない。
――でも。
「あの指先を近くに感じたのは、きっと……」
ふと、あの日に髪についていた桜の花びらを、心先生が取って下さった映像が、頭の中で思い出される。
(やだ私、何考えてるの!)
ふと呟いた内心、「この教室では私だけだ」なんて考えてしまった。
「……ということだ」
文字を消す先生の背中で揺れる髪。光が当たると艶が増し金色に輝く。
(尻尾みたい。可愛く見えてきちゃう)
思わずフフッと笑みが零れる。
「さて、ここまでの説明で君たちからの意見や質問は?」
(こっち向いた!)
見惚れていた私は振り返る先生と目が合った気がして、ビクッと肩を上げた。
「では、続きを。生まれて初めて持つ感情に戸惑い、その思いを抱く間。つまり相手を好きだと想う期間。それが初恋だと気付かない者も少なからずいるであろう」
(良かった)
――笑ったの、気付かれてないみたい。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる