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初恋とは

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 私は今まで、こんなに眉目秀麗びもくしゅうれいな男の人を見たり会ったりしたことがない。それくらい先生は綺麗だ。

「はぅ」
 あともう一つ、先生の素敵さを押し上げるアイテムがある。

「――と、初恋とは無意識に始まることが多い。そして」

(それは、眼鏡。心先生、似合い過ぎです)
 先生から見つめられたら、例え男の子でもドキッとするのではないだろうか?

「はふぅ」
 もはやこれは溜息ではない。心の内から溢れでる私の“想い”。

「誰よりも輝いて見え、頭から離れずに――」

 先生の声が私の心身に沁み入り、ぽかぽかする。
(そう、初めて出会った日のお陽様のように)

 あの桜を思い出し、ぼんやり夢見心地。もちろん講義はしっかり聴いている(はずである)。

 コツ、コツ。

「初恋。それはあわい感情」

――まさか、私。
(心先生の事……いや、そんな)

 コツ、コツ、コツ。

「そして、純粋な想い」

――でも、もしこれが“好き”って感情だとしたら?

 自分でもよく分からなかった感情の正体が見え始め、急にドキドキが止まらなくなる。それから私の思考回路は停止、あの美文字をうつろな目で見つめていた。

『キャッ……ちょっと』
『先生近くに来てる!』
 すると周囲が急にひそひそ声になったのに、ふと私は気付く。

(熱があるみたいに、なんだかぼーっとして)
「あれ? 先生が近くにいるような……」

「ふわりってば!!」
「ぅん、え、ふぇぇぇッ?!」

――目の前に、金色髪の天使様がぁ!

 あの日と同じように微笑する先生は、ゆっくりと眼鏡を外して、花びらを取ってくれた時と同じ表情で私の髪に触れ、優しく撫でた。

「初恋、とは」

――『何歳いくつで経験するかなんて、決まっていない』

 耳元で囁かれた、声。

 ドキッ……ン――――。
 一回だけ大きく高鳴った、心臓。

 私は、その身体中に響いた音に驚き、紅潮する頬を両手で隠す。

「「「きゃぁぁーッ♡」」」
「じょ、じょー、城ヶ崎先生?!」

 歓声にも似た皆の声と、心理学科の先生が真っ赤な顔で震えながら「何をやっていらっしゃるんですかぁー!?」と上擦うわずり怒鳴る声が、教室中に木霊こだましていた。
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