幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第9話 心地よい日差しと悪い知らせ

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 リルシュタイン公爵家が誇る「エルメリア王国最大の書庫」を暇つぶし感覚で入り浸っていた私ですら、「魔王」に関する書物など数えるほどしか読んだことはない。
 「魔王」について書かれた本は、今から約500年程前に書かれた本が数冊だけ残っているだけなのだ。
 そもそも、500年も昔の本がこの世界に残っている時点で奇跡である。
 紙が高級品であるということもあり、あまり本が世に出回ることもない時代の書物だからレアなのだ。
 それに比べると、近年は比較的安価で本を作れるようになったらしく、「王家の歴史」とか「算術入門」といったようなお堅い本はそれなりに出回っている。

「博識なお嬢様が分からないとなると、エルメリアからの増援は期待できないかもしれませんね」

 知識量は王国で一位二位を争うとまで言われた私でさえ知らないことは、王国では誰も知らないとまで言い切るアリシア。
 こう聞くと「博識なお嬢様」であり、なんだかすごそうなのだが実体はそんなにかっこいいものではない。
 王家にも嫁げないちびっ子は誰にも相手にされないから「図書館」に引き籠っていただけである。
 あと、私と好意的に付き合ってくれていた「厨房」にも頻繁に顔を出していた。

「まあ、最初から私の救出なんて期待はしてないけどね」

 「アルテミシア」の公爵令嬢を厄介払いできたくらいにしか感じていないだろう貴族たちが、私を救出するために動くとは考えにくい。
 精々王家からの勅命で嫌々動くか、報酬や名声目当てで成り上がりを目指す下級貴族が無駄死にするくらいだろう。
 公爵家や第二王子は動いてくれるかもしれないが、あまり期待してもいけない。
 それよりも、好意的に接してくれている魔族を手中に収める努力をするべきなのだ。

「それじゃあ、夜も更けたことだし準備して寝ましょうか」

 成す術もないので、とりあえず明日に備えて今日は寝るということになった。


-----


 私の眠る大きなベッドの枕元に陽の光が差す。
 外部からの攻撃を受けにくいお屋敷の構造上、客室のベッドを窓際に設置することも可能なのだ。
 魔王城の中に屋敷があるメリットの一つであるといえる。
 私は、公爵家にいた時というよりも「生前の実家」で目覚めたような懐かしい感覚に胸が少し軽くなった。

「ここも意外と悪くないわね」

 魔物という武闘派集団に囲まれての暮らしも、案外「人間界」よりも気楽でいいのかもしれない。
 私は布団の中から身を起こし、はしたなく大きく口を開けて欠伸を一つする。
 気持ちよさそうに背中を伸ばして両腕を開く様は、休日の朝の幼女といった感じであった。
 朝ご飯を食べて変身少女モノのアニメでも見ていそうである。

「おはようございますお嬢様。早朝に巡回に来ました使用人の方から伝言がありました」

 既に起床していたアリシアは、昨日までのパーティ用の使用人服ではなくラビアンローズ達が用意してくれたメイド服を着用していた。
 ロングスカートタイプのワンピースの上に、白く清潔感のあるエプロンスタイルのメイド服である。
 美しい金色の髪は一つに縛り、頭上にも白いヘッドドレスを付けていた。
 うむ、やはりアリシアは我がリルシュタイン家が誇る美女メイドであるな。うむ。

「あら、素敵なお洋服をいただいたのね」

 後でお礼を言わなくてはいけないわと微笑む私。
 アリシアと同様にガウェインも室内用の軽装鎧を魔族から提供されていた。
 こちらもよく似合っており、私がそのことについて褒めると「そ、そうでしょうか?」と照れるガウェイン。

「それで、伝言ってなにかしら?」

 私は、先ほどアリシアが言っていた「使用人からの伝言」について聞く。
 昨晩話していた魔王城の立地について、ある程度情報が分かったとのことであった。
 どうやら、この城は私のいたエルメリア王国から大分遠い位置にあるらしい。
 王国最速の「空中魔法船」を使っても1週間程度かかる距離にあるのだとか。

「とんでもなく遠いわね……」

 人口1000万人をもつ大国であるエルメリア全土のどこにでも1日で到着する「空中魔法船」でも7日かかるほどの距離。
 私たちは、途方もない遠方に飛ばされてしまったことを認識するのであった。

「そしてお嬢様、このあと朝食の準備がございますので魔王城の中にある食堂へと向かいます」

 ご飯ですよ!お嬢様!とアリシアから告げられる。
 公爵家に住んでいた時は「厨房」に足しげく通って料理を学んだ私にとって、食事とは一大イベントなのであった。
 なので、私に仕える者たちからすると「食事」の時間は緊張の瞬間なのである。

 魔王城はどれほどの腕のコックを用意しているのか。
 実は魔王城の立地なんかよりも気になっていたことであり、楽しみなイベントの一つであった。
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