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第3章 幼女、王都へ行く
幼女、違和感に気付く
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図書館の研究室に戻り、私はすぐさまメリュンの手記を手に取った。
まずは最後のページを確認。
予想通り、転生を意味する暗号文字が記されている。
メリュンはどうしてあんな隠し方をしたのか。
さらには転生について彼女は何を知っているのか。
知りたいことはいっぱいある。
完全に謎は解けなくとも、何か手掛かりが得られるんじゃないか。
そう思って本文を読み始めたんだけど……。
「ダメだこりゃ」
全くもって謎は解けない。
新たに分かったのは、私が死んだ後も4人の助手たちは毎日一緒にご飯を食べていたということくらい。
例によって4人の手記を集めれば詳しいことが分かるというだけで、転生については何も書かれていなかった。
一瞬、裏意味らしき暗号文字が記されているようにも思えたのだが、どう読んでも意味が繋がらなかったので思い違いだったのだろう。
こうなると、シエルがユーゲルの手記を読み解きイリナたちがルーガティウスの手記を持ってくるのを待つしかない。
「ねえ、ミリア」
立ち上がり、大きく伸びをしながらシエルが言った。
「ずっと考えてたんだけど」
「うん」
「どうにも気になって集中できないからはっきりさせたくて」
「何を?」
「ミリアの正体のこと」
シエルは私の向かいに座ると、さらに話を続ける。
「暗号文字を読めて、さらに裏意味なんてことまで知っていて、2つの手記を見つけたうえにメリュン様の声まで再現できる。冷静になって考えてみたんだけど、さすがに信じるしかないかもって」
おっ、やっとですか。
いくつもの証拠を総合的に照らし合わせて考えるとは、いかにも学者らしい。
そして優秀なシエルは、最終的に正しい結論へとたどり着けたようだ。
「ミリア、本当に大賢者リスターニャ様の生まれ変わりなの?」
「そうだよ」
私のその一言が聞きたかったというように、シエルは何度も頷いた。
ふぅ、だいぶ信じてもらうまでに時間がかかったな。
でもこれで、調査がよりスムーズになることは間違いない。
「私は何の因果かこの時代にミリアとして転生した。“元”大賢者としては、どうしてこんなことが起きているのか調べずにはいられない。それで図書館に来たら、シエルが転生について研究しているようだったから食いついたってわけ」
「そうだったの……。リリスちゃんやイリナさんたちは知ってるのよね?」
「知ってるよ。だけど今の私はリスターニャじゃなくてミリア。彼女たちもそれを分かって接してくれている。だからシエルも、今まで通りでね?」
「分かったわ」
シエルはすっきりした様子でもう一度伸びをすると、お茶を飲んでから元の机に戻った。
そして晴れやかな顔で手記と向かい合う。
少しして彼女は、突然食い入るように手記の一部を見つめ始めた。
「ミリア」
「何?」
「これ、もしかして裏意味じゃないかしら?文字の形が違うように感じるの」
「どれどれ?」
私はシエルの指さす部分を注視する。
確かに文字の形が微妙に違うようだ。
これは裏意味の開始を意味している。
そこから読んでいくと……
「あれ?」
「どうかしたの?」
「裏意味の暗号文字で間違いないはずなんだけど、どう読んでも意味が繋がらないんだよね」
「じゃあ、私たちの思い違い?」
「うーん……」
メリュンの手記にも、同じように裏意味に見えて意味の繋がらない箇所があった。
アイツらがそろってこんな書き間違いをするかな。
……それは考えにくい。
「えっと……ニノの手記は……」
すでに一度目を通したニノの手記を、もう一度ざっと流し読みする。
これはシエルが作った写し。
文字の形をきれいに写したから裏意味があっても気付けるはずと言っていたが、写した時点で彼女は裏意味のことを知らない。
本当に微妙な字形の違いだし、見落としている可能性も否定できないな。
「ニノの手記の原本はどこ?」
「資料室よ。持ち出しは出来なくて、その場で見ることしかできないけど」
「連れて行ってくれる?」
「分かったわ。でも資料室は本来、学者の認定試験に合格した人しか入れないからこっそりね」
「はーい」
私はシエルの羽織ったローブの内側に隠れ、資料室へと忍び込む。
誰もいないことを確認して手記を手に取ると……
「あった」
やはり裏意味を示唆する文字がある。
それでも、その先の意味は繋がらない。
私は素早くその部分を書き写すと、またシエルのローブに隠れて資料室をあとにした。
まずは最後のページを確認。
予想通り、転生を意味する暗号文字が記されている。
メリュンはどうしてあんな隠し方をしたのか。
さらには転生について彼女は何を知っているのか。
知りたいことはいっぱいある。
完全に謎は解けなくとも、何か手掛かりが得られるんじゃないか。
そう思って本文を読み始めたんだけど……。
「ダメだこりゃ」
全くもって謎は解けない。
新たに分かったのは、私が死んだ後も4人の助手たちは毎日一緒にご飯を食べていたということくらい。
例によって4人の手記を集めれば詳しいことが分かるというだけで、転生については何も書かれていなかった。
一瞬、裏意味らしき暗号文字が記されているようにも思えたのだが、どう読んでも意味が繋がらなかったので思い違いだったのだろう。
こうなると、シエルがユーゲルの手記を読み解きイリナたちがルーガティウスの手記を持ってくるのを待つしかない。
「ねえ、ミリア」
立ち上がり、大きく伸びをしながらシエルが言った。
「ずっと考えてたんだけど」
「うん」
「どうにも気になって集中できないからはっきりさせたくて」
「何を?」
「ミリアの正体のこと」
シエルは私の向かいに座ると、さらに話を続ける。
「暗号文字を読めて、さらに裏意味なんてことまで知っていて、2つの手記を見つけたうえにメリュン様の声まで再現できる。冷静になって考えてみたんだけど、さすがに信じるしかないかもって」
おっ、やっとですか。
いくつもの証拠を総合的に照らし合わせて考えるとは、いかにも学者らしい。
そして優秀なシエルは、最終的に正しい結論へとたどり着けたようだ。
「ミリア、本当に大賢者リスターニャ様の生まれ変わりなの?」
「そうだよ」
私のその一言が聞きたかったというように、シエルは何度も頷いた。
ふぅ、だいぶ信じてもらうまでに時間がかかったな。
でもこれで、調査がよりスムーズになることは間違いない。
「私は何の因果かこの時代にミリアとして転生した。“元”大賢者としては、どうしてこんなことが起きているのか調べずにはいられない。それで図書館に来たら、シエルが転生について研究しているようだったから食いついたってわけ」
「そうだったの……。リリスちゃんやイリナさんたちは知ってるのよね?」
「知ってるよ。だけど今の私はリスターニャじゃなくてミリア。彼女たちもそれを分かって接してくれている。だからシエルも、今まで通りでね?」
「分かったわ」
シエルはすっきりした様子でもう一度伸びをすると、お茶を飲んでから元の机に戻った。
そして晴れやかな顔で手記と向かい合う。
少しして彼女は、突然食い入るように手記の一部を見つめ始めた。
「ミリア」
「何?」
「これ、もしかして裏意味じゃないかしら?文字の形が違うように感じるの」
「どれどれ?」
私はシエルの指さす部分を注視する。
確かに文字の形が微妙に違うようだ。
これは裏意味の開始を意味している。
そこから読んでいくと……
「あれ?」
「どうかしたの?」
「裏意味の暗号文字で間違いないはずなんだけど、どう読んでも意味が繋がらないんだよね」
「じゃあ、私たちの思い違い?」
「うーん……」
メリュンの手記にも、同じように裏意味に見えて意味の繋がらない箇所があった。
アイツらがそろってこんな書き間違いをするかな。
……それは考えにくい。
「えっと……ニノの手記は……」
すでに一度目を通したニノの手記を、もう一度ざっと流し読みする。
これはシエルが作った写し。
文字の形をきれいに写したから裏意味があっても気付けるはずと言っていたが、写した時点で彼女は裏意味のことを知らない。
本当に微妙な字形の違いだし、見落としている可能性も否定できないな。
「ニノの手記の原本はどこ?」
「資料室よ。持ち出しは出来なくて、その場で見ることしかできないけど」
「連れて行ってくれる?」
「分かったわ。でも資料室は本来、学者の認定試験に合格した人しか入れないからこっそりね」
「はーい」
私はシエルの羽織ったローブの内側に隠れ、資料室へと忍び込む。
誰もいないことを確認して手記を手に取ると……
「あった」
やはり裏意味を示唆する文字がある。
それでも、その先の意味は繋がらない。
私は素早くその部分を書き写すと、またシエルのローブに隠れて資料室をあとにした。
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