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第3章 幼女、王都へ行く
イリナ、先祖と戦う(イリナ視点)
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……強い。
私――イリナは、尊敬する先祖、七賢人ルーガティウス様と向かい合い、何とか呼吸を落ち着かせようとしていた。
ミリアはルーガティウス様を、ポンコツとか七賢人で一番戦闘能力が低いとか言っていた。
それでも十二分に強い。
ルーガティウス様の背中越しに、他の七賢人と戦うミリアやリリスの姿が見える。
わざわざ7人の中からルーガティウス様を引きはがしてまで、ミリアが作ってくれた成長のチャンスだ。
ものにしたいのはやまやまだけど、私は劣勢に立たされていた。
「……」
ルーガティウス様が何も言葉を発さずに動く。
ジグザグにステップを踏みながら、最後は私の腹部へと剣を突き出してきた。
何とかそれをかわし、彼の首めがけてジオネアスを振るう。
しかしその攻撃は回避され、今度は相手の剣が正面から振り下ろされた。
それをがっちりとジオネアスで受け止めると、両剣に宿った炎が激しく揺らぐ。
力で押し合って大の男に勝てないと判断した私は、素早く距離を取った。
「……」
またしても何も言葉を発さず、ルーガティウス様が剣で空を薙ぐ。
すると燃える斬撃が飛んできた。
体をひねってかわしたはずが、右足に焼けるような痛み。
傷は浅いが、それでも確実なダメージが入る。
「くっ……」
何とか態勢を立て直したところに、再び斬撃が飛んでくる。
「【炎千斬り】!」
今度は避けず、炎を斬ることで対応した。
斬れるは斬れる。
それでも私の方の【炎帝】の炎が削られ、斬る度に威力が弱まっていく。
「【炎帝】!」
再び発動した【炎帝】も成功し、ジオネアスの炎に勢いが戻った。
しかし、これがいつまでも続くとは限らない。
次に【炎帝】が成功する保証はないし、【炎豪】で太刀打ちできる相手ではない。
思い切って【炎聖】に挑戦してみる……?
いや、ないな。
【炎聖】に関してはまだ一切訓練をしていない。
今ここでやるのは、挑戦や勝負というよりただの無謀だ。
ミリアたちも激しい戦闘を繰り広げている。
それでも、6人より2人の方が優勢に見えた。
2人が伝説の賢人たちをねじ伏せるのは時間の問題かもしれない。
私だって、せめて1人くらいは倒さなきゃ……!
「【炎刃】!」
ミリアに指導してもらって身に着けた【炎刃】。
まっすぐに斬撃が飛んでいくが、ルーガティウス様に斬り伏せられてしまう。
そして今度は相手の逆襲。
高速の斬撃に対応できず、私は再び右足の同じ箇所を斬り裂かれた。
「うぐぁ……っ!」
右足から頭の奥へと痛みが突き抜ける。
その激痛が、ふと私の頭に閃きを産んだ。
右足だ。
ミリアに頼まれてリリスと手記を取りに行った道中、暗号文字が読めない私は普通の字で書かれたものを読んでいた。
そこに記されていた、ルーガティウス様が悪竜との戦いで右足を負傷したという事件。
その右足の傷はずっと残り続けたという。
古傷を狙うなんて卑怯だという人もいるかもしれないけど、知ったこっちゃない!
私はここでやらなきゃダメなんだ!
手記には傷の場所も書かれていた。
狙うべきは右足の膝上――!
「【炎刃】!はぁぁぁぁ!」
斬撃を放つと同時に駆けだし、ルーガティウス様との距離を詰める。
姿勢を低くして、右足の膝上へとジオネアスを振るった。
「……」
キインッという音がして、2本の剣が火花を散らす。
見上げると、ルーガティウス様の右肩がえぐられていた。
【炎刃】での攻撃を防御せず、こちらに意識を集中させたのだ。
やはり右膝が弱点みたい。
「見えた」
初めて見出した糸口。
逃すわけにはいかない。
「イリナ!」
戦いの最中にいるミリアから声が飛んだ。
「ルーガティウスの弱点は右膝!」
「もう分かってる!」
私の答えに、ミリアは少し目を見開いてからニカッと笑った。
「さっすがー!」
そんな合間にも、ミリアはメリュン様を斬り裂いている。
私だって……
「【炎刃】!【炎刃】!」
右膝への集中攻撃。
連続で放つことで精度は落ちるが、それをカバーする量で勝負する。
「【炎刃】!【炎刃】!【炎刃】!はぁ……はぁ……【炎刃】!」
連射は消耗が激しい。
呼吸を荒くしながら、それでも意地で攻撃を繰り出した。
「……!」
最後の一発が、防御をかいくぐってルーガティウス様の右膝へと命中した。
相手の体がぐらりと揺れ、崩れかける。
千載一遇のチャンス。これを逃したらもう勝ち目はない。
私はジオネアスを強く握り締め、全身全霊の攻撃を叩き込んだ。
「【流炎の舞い】!」
首、背、腹への3段攻撃。
はぁはぁと荒い息をする私の後ろで、どさりと音がした。
ジオネアスと膝を地面について振り返ると、無言でルーガティウス様が倒れこんでいた。
「はぁ……やった……」
全てを出し切った私も倒れ込む。
いつの間にか、右足の痛みも感じなくなっていた。
「偉い!」
「ナイス、イリナ!」
ミリアとリリスが声を掛けてくれた……気がする。
私の意識は完全に途切れた。
私――イリナは、尊敬する先祖、七賢人ルーガティウス様と向かい合い、何とか呼吸を落ち着かせようとしていた。
ミリアはルーガティウス様を、ポンコツとか七賢人で一番戦闘能力が低いとか言っていた。
それでも十二分に強い。
ルーガティウス様の背中越しに、他の七賢人と戦うミリアやリリスの姿が見える。
わざわざ7人の中からルーガティウス様を引きはがしてまで、ミリアが作ってくれた成長のチャンスだ。
ものにしたいのはやまやまだけど、私は劣勢に立たされていた。
「……」
ルーガティウス様が何も言葉を発さずに動く。
ジグザグにステップを踏みながら、最後は私の腹部へと剣を突き出してきた。
何とかそれをかわし、彼の首めがけてジオネアスを振るう。
しかしその攻撃は回避され、今度は相手の剣が正面から振り下ろされた。
それをがっちりとジオネアスで受け止めると、両剣に宿った炎が激しく揺らぐ。
力で押し合って大の男に勝てないと判断した私は、素早く距離を取った。
「……」
またしても何も言葉を発さず、ルーガティウス様が剣で空を薙ぐ。
すると燃える斬撃が飛んできた。
体をひねってかわしたはずが、右足に焼けるような痛み。
傷は浅いが、それでも確実なダメージが入る。
「くっ……」
何とか態勢を立て直したところに、再び斬撃が飛んでくる。
「【炎千斬り】!」
今度は避けず、炎を斬ることで対応した。
斬れるは斬れる。
それでも私の方の【炎帝】の炎が削られ、斬る度に威力が弱まっていく。
「【炎帝】!」
再び発動した【炎帝】も成功し、ジオネアスの炎に勢いが戻った。
しかし、これがいつまでも続くとは限らない。
次に【炎帝】が成功する保証はないし、【炎豪】で太刀打ちできる相手ではない。
思い切って【炎聖】に挑戦してみる……?
いや、ないな。
【炎聖】に関してはまだ一切訓練をしていない。
今ここでやるのは、挑戦や勝負というよりただの無謀だ。
ミリアたちも激しい戦闘を繰り広げている。
それでも、6人より2人の方が優勢に見えた。
2人が伝説の賢人たちをねじ伏せるのは時間の問題かもしれない。
私だって、せめて1人くらいは倒さなきゃ……!
「【炎刃】!」
ミリアに指導してもらって身に着けた【炎刃】。
まっすぐに斬撃が飛んでいくが、ルーガティウス様に斬り伏せられてしまう。
そして今度は相手の逆襲。
高速の斬撃に対応できず、私は再び右足の同じ箇所を斬り裂かれた。
「うぐぁ……っ!」
右足から頭の奥へと痛みが突き抜ける。
その激痛が、ふと私の頭に閃きを産んだ。
右足だ。
ミリアに頼まれてリリスと手記を取りに行った道中、暗号文字が読めない私は普通の字で書かれたものを読んでいた。
そこに記されていた、ルーガティウス様が悪竜との戦いで右足を負傷したという事件。
その右足の傷はずっと残り続けたという。
古傷を狙うなんて卑怯だという人もいるかもしれないけど、知ったこっちゃない!
私はここでやらなきゃダメなんだ!
手記には傷の場所も書かれていた。
狙うべきは右足の膝上――!
「【炎刃】!はぁぁぁぁ!」
斬撃を放つと同時に駆けだし、ルーガティウス様との距離を詰める。
姿勢を低くして、右足の膝上へとジオネアスを振るった。
「……」
キインッという音がして、2本の剣が火花を散らす。
見上げると、ルーガティウス様の右肩がえぐられていた。
【炎刃】での攻撃を防御せず、こちらに意識を集中させたのだ。
やはり右膝が弱点みたい。
「見えた」
初めて見出した糸口。
逃すわけにはいかない。
「イリナ!」
戦いの最中にいるミリアから声が飛んだ。
「ルーガティウスの弱点は右膝!」
「もう分かってる!」
私の答えに、ミリアは少し目を見開いてからニカッと笑った。
「さっすがー!」
そんな合間にも、ミリアはメリュン様を斬り裂いている。
私だって……
「【炎刃】!【炎刃】!」
右膝への集中攻撃。
連続で放つことで精度は落ちるが、それをカバーする量で勝負する。
「【炎刃】!【炎刃】!【炎刃】!はぁ……はぁ……【炎刃】!」
連射は消耗が激しい。
呼吸を荒くしながら、それでも意地で攻撃を繰り出した。
「……!」
最後の一発が、防御をかいくぐってルーガティウス様の右膝へと命中した。
相手の体がぐらりと揺れ、崩れかける。
千載一遇のチャンス。これを逃したらもう勝ち目はない。
私はジオネアスを強く握り締め、全身全霊の攻撃を叩き込んだ。
「【流炎の舞い】!」
首、背、腹への3段攻撃。
はぁはぁと荒い息をする私の後ろで、どさりと音がした。
ジオネアスと膝を地面について振り返ると、無言でルーガティウス様が倒れこんでいた。
「はぁ……やった……」
全てを出し切った私も倒れ込む。
いつの間にか、右足の痛みも感じなくなっていた。
「偉い!」
「ナイス、イリナ!」
ミリアとリリスが声を掛けてくれた……気がする。
私の意識は完全に途切れた。
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