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6章 黒土の森

第294話 封印されていたのは

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『帰る手立てを探すために俺の加護が欲しいのだな?』

「帰る手立てとは少し違うかもしれませんが......。」

『......変な奴だ。』

俺の思考を読んだのか、仙狐様が呟く。

『お前の仲間も加護が欲しいのだろ?連れてくると良い。』

「ありがとうございます。」

仙狐様は端的で話が早いね。

「......性分だ。」

「......すみません。」

うぅ......余計な事を考えるな......。

『気にするな。新鮮で良い。』

......恐縮です。

『加護を与える前に、召喚されたものを確認してくれ。長年共にあってはな......非常に気になる。』

そう言って仙狐様がこちらに背を向けて歩き出す。
仙狐様が封印している召喚物か......応龍様の所に召喚されたものは俺の知識にはなかった。
まぁ、俺は世界の全てを知っているわけでは......というか俺の知らない物の方が多いわけで、あの球体が俺の世界の物じゃないかどうかは分からないけど......ここにあるものはどうだろうか?
危険度や用途の分かるものならいいのだけど......。
俺は仙狐様の後ろを着いて行きながら母さんの所にあった俺のスマホ、そして応龍様の所にあった銀色の球体の事を思い出す。
召喚物は全て鳳凰様が魔神を倒すために召喚したものだ。
つまり何らかの方法で魔神を倒すことの出来るもののはず......銀色の球体は用途が分からないけど......スマホでどうやって魔神を倒すんだ?
実は魔神ってカメラで撮ったら倒せる霊的なやつだったのかな?

『天狼の神域にあるのはお前の持ち物だったな。スマホ......といったか?どういう物なのだ?そのカメラとやらで魔神を殺すものなのか?』

「いえ......スマホは武器ではないので......魔神を殺すことは出来ないと思います。」

『ふむ、確かに、お前の考える通り......鳳凰が召喚したにしてはおかしな話だな。』

俺が疑問に思っていたことまで伝わっているね。
それはそうと、スマホってどう説明したものか......。
通信機器って言いたいけど......そもそも通信の概念がこの世界と元の世界ではかなり違うからな......。
一言では言い表せない程色々なことが出来るしな......。

『......興味深いな。』

俺がスマホでやれることを色々と考えていると、それを読み取った仙狐様が立ち止まりこちらを見る。
こういう風に伝えられるのはかなり便利だね。

「動力を確保出来れば仙狐様にも色々とお見せ出来るのですが......現状では空間魔法を解除したとしてもすぐに使えなくなってしまうと思います。」

『......口惜しいな。』

ナレアさんなら魔術で何とかしてくれそうな気もするけど......一番の問題は俺が充電のメカニズムを説明出来ないってことだ。
いくらナレアさんが凄くても、そもそも説明出来ないことをやってもらえるわけがない。
ニュアンスだけ伝えれば再現出来るってものではない。
そしてスマホは壊れればもう直すことは不可能......どう考えても無理だ。
俺は色々なことを知らないまま生きて来ていたんだと......こっちに来てからつくづく思う。

『知らないというのは面白い。新しく学ぶ余地があるのだからな。知らないことを知ったのなら後はどうするべきか、自明の理だ。』

「......はい。」

仙狐様のおっしゃる通り......電気について学べば充電する方法も自分で理解できる日が来るかもしれない。
幸い......俺に寿命は無いしね。
仙狐様は一度鼻を鳴らした後、移動を再開する。
学ぶことは面白いか......。
閉ざされた空間の中で気の遠くなるほど長い時を生きる神獣様達は......ずっと退屈と戦っているのだろうな......。
この前帰った時、母さんも本当に楽しそうに外の世界で俺が見て来た話しを聞いていたしね。
俺が思うのは烏滸がましいのかもしれないけど......何か無聊を慰めるようなことが出来ればいいのだけれど。
先を歩く仙狐様の後ろ姿を見ながら俺は何かできないかと考えを巡らせた。



『ここだ。』

先導してくれていた仙狐様が立ち止まる。
先程までいた場所とは違い、この辺りはむき出しの岩壁に他には何もない空間。
流石にこの場所まで装飾を施すようなことはしないみたいだね。
俺は仙狐様に並ぶように立つ。
クレーターのようなくぼみの中心にあるのは......。

「......戦闘機?」

どう見ても映画とかで見る飛行機......戦闘機だ。
丸みを帯びた、太平洋戦争時代の物ではなく......なんというか、シュッとしたスマートな感じの......格好いい奴だ。
ただまぁ......戦闘機とかよく知らないから以外と古いものかもしれないけど......とりあえず、今までで一番分かりやすい兵器だね。

『どうやら知っている物のようだな。』

「......えっと知ってはいますが......使い方は分かりませんし......結構危険な代物だと思います。」

『どういったものなのだ?』

「人を乗せて空を飛ぶものですが......。」

ってちょっと待てよ?
誰か乗ったりしてないよね......?

「すみません、仙狐様。少し近づいてもいいでしょうか?」

『構わぬぞ。人が乗っている様には見えぬが。』

俺は仙狐様に頭を下げた後クレーターの中心地に向かう。
誰か乗っていたらどうしよう......。
俺はもう少し近寄ろうとしたのだが......何故かこれ以上前に進めない。
......妖猫様の空間魔法か。
母さん達の神域と違って者が大きいから空間魔法で固定化されている範囲も大きいんだな。
魔法を使い、少しだけ宙に浮いて視力を強化する......コックピットには......人影は見えない。
よかった......他に人が入れるような場所って......なんかあったようなはするけど......戦闘機に詳しいわけじゃないからな。
多分大丈夫......だと思う。

『人はいないようだな。一安心といったところか。』

「仙狐様はこれについて調べなかったのですか?」

『気にならなかったと言えば嘘になるが。』

そう言って目を瞑る仙狐様。

『鳳凰が召喚した物の恐ろしさは身に染みている。』

なるほど......確か鳳凰様の召喚魔法で辺り一帯を魔神ごと吹き飛ばしたって母さんが言っていたな。
それを目の当たりにしたのなら慎重になるのは当然か。
俺も応龍様の所で封印されている得体のしれない球体を弄り回したいとは思えないしね。

『お前の世界では身近にあった物か?』

仙狐様が視線を戦闘機に戻してから尋ねてくる。

「いえ、僕らの世界においてもこれは縁遠いものです。国の兵士の......その中でも一部の人だけが乗ることが出来る代物ですね。」

正確には兵士ではないと思うけど......まぁ、今は細かいニュアンスはどうでもいいだろう。

『なるほど......馬のようなものか。あの上で戦うのか?』

......上?

「あ、いや、違います。あれは中に乗り込んであれ自体が攻撃能力を持っているのです。」

そう言いながら俺は映画で見た戦闘シーンなんかを頭に浮かべる。

『実に興味深いな。人はこのような物を作り出せるのか。』

仙狐様が感慨深げな声を出しながら戦闘機を見ている。
俺がこういう兵器とかに詳しかったら色々と説明してあげられただろうけど......生憎と音速より速く飛べるとか何百億円もするとかくらいしか......。
って普通に考えてどこの国の戦闘機か分からないけど......これ持って行かれた国では大問題になっているんじゃ......。
俺みたいな一般市民一人が攫われるのとではスケールが違い過ぎる......大丈夫かな......これがきっかけで戦争とか起こってないよね......?
俺が内心戦々恐々としていると仙狐様が戦闘機から目線を切ってこちらを向く。

『どうした?』

どうやら俺の心の声を仙狐様は聴いていなかったようだ。
まぁどうしようもないことで心を乱させる必要もないだろう......これは俺の心の中にしまい込んでおけばいい。

「いえ、少し元の世界の事を考えていました。」

『......そうか。』

そう言って仙狐様は戦闘機に背を向けて歩き出す。
俺はクレーターから出てその後ろを追う。
四千年も前の出来事だし、国際問題だとしても余裕で時効だよね?

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