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7章 西への旅路

第331話 メリットデメリット

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「まぁ、大規模ダンジョンだからな。いくらなんでもダンジョンの外から攻撃するだけで魔物を全滅させられるわけじゃない。だがダンジョンの境界までおびき寄せたりすればかなりの数を減らすことが出来る筈だ。」

レギさんが平地のダンジョンに対しての攻略法を告げると、カザン君に生気が戻った。

「軍隊による集団戦法と遠距離からの攻撃......さらに魔物を誘導......うん、確かに軍による制圧が出来そうです。少しダンジョンという言葉に踊らされていたかもしれません。平地での魔物討伐と考えれば良かったのですね。」

「そうだな。平地におけるダンジョンでは、冒険者よりも軍隊の方が攻略が容易だ。冒険者は集団行動が苦手だからな......。」

そこで若干レギさんが苦笑する。
まぁ......自分達の好きなようにやりたいから冒険者になるのだろうし......我の強い人が多いのだろう。
俺は、そんなことを考えながら絶対に横を見ない様に力を込めた。

「何やら言いたいことがありそうじゃな?」

しかし、そんな努力も空しく......何故かナレアさんから声を掛けられる。

「え?何がですか?」

「......しっかりと話し合う必要がありそうじゃな。」

視線すら向けなかったというのに!?
一体何がいけないのだろうか......。
そんな俺達を尻目にレギさんはダンジョンの話を続ける。

「有利とは言え、油断はするなよ?相手は魔物だ。個体としての強さは兵一人一人よりもほぼ間違いなく強いぞ。」

「......はい。勿論油断はしません。兵の皆も魔物の怖さは十分理解していると思います。」

カザン君の返答にレギさんは一度頷き、話をさらに続ける。

「ダンジョンのボスさえ倒すことが出来れば攻略は出来るが、基本的にボスはそのダンジョンで一番強い。」

「基本的にという事は、そうではない場合もあるのですか?」

「あるぜ。搦め手が得意なボスも少なくないからな。付近を固めている魔物の方が強いことはある。ダンジョンの魔物は通常の魔物とは違うからな、群れを率いているわけじゃない。必ずしも一番強いってことは無い。まぁ、基本的に一番厄介ではあるがな。」

「なるほど......次のダンジョンは私が指揮を執らなくてはいけませんし......やはり魔物の情報の収集は急務ですね。」

カザン君が呟くように言う。

「集めておくに越したことはないが、今すぐダンジョンが生まれたとしても、攻略するのは数年先だろう?暫くはダンジョンの魔物の調査を続ける感じだろうな。」

「それもそうですね......少し気が急いていました。」

カザン君が落ち着く為か、ソファに深く座り直す。
まぁ、まだダンジョンは生まれてもいないからね。
ダンジョンの発生が事前に分かるっていうのは初めての事だし、あとどのくらいで生まれるかも定かではない。
今この時かもしれないし、十日後、或いはは十年後かもしれない。
まぁ、シャルの所見ではそう遠くない内にダンジョンになりそうってことだったけど。

「それと最後に一つ。」

カザン君の顔がまた険しくなるが、レギさんは片手を上げて大丈夫だと言う様に笑いかける。

「大規模ダンジョンはその広さから大量の魔晶石が採れる。しかも中小規模のダンジョンに比べて品質の高い物が多い。ダンジョンの管理や攻略に掛かる費用を考えても、元が取れるどころじゃないはずだ。」

「......なるほど......。」

「前回発生したダンジョンの魔晶石はまだ採れているかもしれないが......次のダンジョンを攻略する頃には枯渇していてもおかしくないからな。」

「そうじゃな。魔道具の普及を目指すのであれば今回のダンジョンは渡りに船といった所じゃ。」

俺の事を睨んでいたナレアさんが、魔晶石や魔道具の話になったので俺から視線を切る。

「そうですね......攻略の難易度や経費、欠点ばかりに目が行っていましたが......グラニダにとっては良い事の方が多いかもしれません。」

メリットとデメリットを纏めて伝えられたカザン君は目まぐるしく表情や気分を変化させていたが、最終的にはメリットがデメリットを上回ったようだ。

「まぁ、ダンジョンが出来た場所は通行できなくなるから、道があった場合は迂回路を作らなければならないがのう。」

「それにダンジョンの監視用の拠点......冒険者がいれば近くに寝泊まり出来るような村なんかがあると結構栄えるけどな。」

「あの辺は開拓を進めていた場所なので......近くに拠点となりそうな場所はまだありませんね......一番近い場所でも馬車で数日かかると思います。」

「まぁ、斡旋事業が軌道に乗れば冒険者みたいな連中も増えるだろうが......新しく拠点を作るってのは、割が合うのかはちょっと分からねぇな......そういえば、ダンジョンの扱いは国......領主の管理下って感じなんだろ?勝手に入り込んで魔晶石を採ったりってのはいいのか?」

ダンジョン近くの拠点か......この話をすると毎回コボルトのダンジョンがあった村を思い出すな。
西に向かうついでにあそこにも顔を出してみるかな?

「攻略の済んだ場所は完全に管理下に置かれますが、未攻略のダンジョンについては特に制限はしていません。以前攻略した洞窟系のダンジョンであれば、入口に監視を置いて注意を促したりはしていましたが、それでも入りたいというものを止めてはいませんでした。今回の場合は平原ですからね......勝手に入る者たちを止めることは出来ないでしょう。」

「まぁ、それはそうだな。平原系のダンジョンはそう言った管理が大変ってのは聞いたことがある。攻略した後に盗掘がおおくなりそうだ。」

「攻略前のダンジョンに入ったところであまり旨みは無いからのう。攻略後の方が採れる魔晶石の量も品質も上じゃし......安全性は比べるまでも無い。命を対価に魔晶石を採るというのは相当切羽詰まった物でもない限り割が合わぬのじゃ。」

「地図を作る必要もないだろうしな。もし地図が必要なら今のうちに作っちまうのもありだと思うが......。」

「ほほ、ダンジョンが出来る前に地図を作るというのは反則じゃな。平原とは言え戦いやすい場所、移動しにくい場所はあるじゃろうからな。ダンジョンになることで多少地形が変わるかも知れぬが、今のうちに下調べしてしまうのは悪くないと思うのじゃ。」

レギさんの提案にナレアさんが笑う。
今回は平原系のダンジョンだけど、もし洞窟系のダンジョンで事前に詳細の地図が出来ていたりしたら色々と攻略も捗りそうだ。
普通は魔物を退けながらのマッピングだろうしね。

「確かにそうですね......開拓地の調査という名目で詳細を調べさせましょう。」

「それがいいじゃろう。無いとは思うが、範囲内に万が一遺跡があったりすると大変なことになるしのう。」

「遺跡ですか?あまりこの辺りにはない物ですが......危険なのですか?」

ナレアさんの言葉を聞きカザン君が身を乗り出した。

「そうじゃな......ダンジョンとなった場所の中で一番危険度が高いのは遺跡じゃろうな。他にも山や水辺、鉱山あたりは危険度が高いが......遺跡は一線を画すと言っても過言ではないのじゃ。」

「それは......狭いからですか?」

カザン君が真剣な表情でナレアさんに問いかける。

「狭所は確かに多くはあるが......それよりも罠じゃな。人が仕掛けた罠は悪辣なものが多い......必ずしも罠を抜ける術があるとは限らぬしのう。」

「突破出来ない罠があるのですか?」

「寧ろ突破されることを前提とした罠の方が少ないと思うのじゃが......妾が言ったのは解除する術が失われているという意味じゃ。」

「あ、なるほど......。」

まぁ、ゲームじゃないのだし......わざわざ抜け道を作る必要はないからね。
扉が三つあって二つは罠、一つは正解......みたいなギミックをゲームとかで見たことあるけど......侵入者を排除する為なら全部罠でいいと思う。
というか扉の手前に落とし穴なり釣り天井なりを用意しておけば、扉を見て立ち止まった一瞬に罠を発動させれば一発だ。

「あぁいった性格の悪そうな事を考える者が罠を考えるのじゃ。そこに強力な魔物が徘徊するわけで......これ以上言う必要はないじゃろ?」

「よく分かりました。確かにあの顔を見る限り、とてもじゃないけど攻略できるとは思えません。遺跡が無いかを徹底的に調べようと思います。」

何故かナレアさんとカザン君が俺の方を見ながらそんなことを言う。
特にカザン君は戦慄したような......物凄く真剣な表情をしているけど......俺はそんなひどいこと考えてなかったよ?

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