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最終章 狼の子

第496話 相談なのですが

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俺達はナレアさんの案内に従い魔道国南方にある村を回り、近隣に出没した魔物を狩ったり街道付近をうろつく魔物の処理を続けた。
魔物自体の強さは大したものではないし、シャルによる広範囲の感知によって俺達はサクサクと魔物を狩り続け、王都で懸念していたように狩り過ぎになりかねなかった。
勿論俺達以外の冒険者や魔道国の兵の人達も魔物の討伐を行っていたので、後半は追い払う程度に抑えておいた。
まぁ、生態系云々に関しては既に魔物が群れを作って元居た場所から移動している事を考えればすでに手遅れかも知れないけどね......。
そんな風に転戦を続けて一月程が経過した所で狩りを終え、俺達は王都に戻り久しぶりに休暇を取っていた。

「ルルに報告書を投げつけて来たのじゃ。褒賞を出したいと言っておったが......独断で断ってきたが構わぬよの?」

「あぁ、勿論だ。」

「ありがとう!ナレアちゃん。」

褒賞を断ったことに対してお礼を言う人ってあまりいないだろうけど、今回は事情が事情なだけにお礼を言う気持ちも分かる。
ギルドを通さなかったから報酬はないなと思っていたら王城経由で支払われることに......まぁ、それも予想して然るべきだったのか。

「それと軍の方も順調だったようでな。もう概ね安全は確保できたと言っていい感じらしい。なので近々事態の終息を宣言するそうじゃ。」

「......そっか、良かったよ。」

ほっとした様子でリィリさんがナレアさんに微笑む。
リィリさんは今回の件で一番落ち込んでいた感じだったからな......終わりが見えて安心したのだろう。
その様子を見ていたレギさんも目を細めていたが、思い出したように口を開く。

「あぁ、そう言えば、ギルドの方も終息の宣言と同時に延期になっていたダンジョン攻略記念祭の日程を発表するそうだぞ。」

「ルルもその話をしておったな。時期が時期だけに、国からもかなり資金を提供して大々的にやるそうじゃぞ?恐らく当初の祭りよりも規模が大きくなるじゃろうな。」

「鬱憤晴らし的な感じですかね?」

「まぁ、そんな感じじゃな。特に南の方に住む民にとっては恐々とした日々じゃったからな。王都だけではなく南の方でも祭りを開催するそうじゃ。」

中々大盤振る舞いなお祭りになりそうだね。
メインのガス抜きターゲットは南の方にいるからそちらでも開催するってことだよね?

「多少ここで金をばら撒いたとしても元は取れるからのう。大々的に祭りをやることで安全を宣伝する意味合いがあるのじゃ。」

「なるほど......。」

祭り一つでも色々意味があるんだな。

「お祭りはいつ頃になるのかなー?」

既にお祭りで出される食べ物に思いを馳せていそうなリィリさんが、楽しげな様子でナレアさんに問いかける。

「ふむ......流石に延期になっておった祭りじゃからのう。ある程度準備は進んでおったじゃろうがそう簡単にはいかぬじゃろうからな。早くとも一月程度はかかるじゃろうな。」

「そっかー、それじゃぁお祭りまで王都でのんびり?」

お祭りに参加することは確定なのですね?
まぁ、聞くまでも無いことかもしれないけど。

「そうじゃなぁ......妾は特に予定も無いからそれで構わぬが......二人はどうじゃ?」

「そうだな......基本的には俺も予定はないな。流石王都だけあって街中の依頼も数が豊富だしな。」

レギさんはのんびりというか......仕事する気満々ですね?
まぁ、こちらも聞くまでも無い事か。

「僕は......ちょっとやりたいことがあります。」

「ふむ......聞いてもいいかの?」

俺の言葉に若干雰囲気を変えたナレアさんが問いかけてくる。
この感じは......俺がやりたいことは分かっている感じだね。
レギさんやリィリさんも真面目な表情になっている。

「えぇ。クルストさん達のいたダンジョンを攻略......と言うか、あそこのボスを潰そうと思います。」

「ボスを倒せばダンジョンは攻略したことになるが......まぁ、言いたいことは分かるのじゃ。」

「そうだな。俺達も無関係ってわけじゃねぇ。ケイが行くって言うなら一緒に行くぜ?」

「うんうん。勿論私も手伝うよ!」

俺の表明にレギさん達が手伝うと言ってくれる。
間違いなく荒事だし、危険が多いにも拘らずさも当然といった様子で参加すると言ってくれる二人には頭が上がらないな。

「......ありがとうございます。えっと......その事で少し相談がありまして......。」

「ふむ?」

俺がそう言うとナレアさんが首を傾げる。
多分......大丈夫だと思うけど......伝えた後のナレアさんの反応が若干怖いな。

「あのダンジョンですが......キオルの言ったことが本当であれば、非常に強力な魔物がボスになっています。」

「うむ。ファラに調べさせてはおったのじゃろ?」

「はい。配下の子達では厳しかったらしく、ファラ本人が調べてくれました。そのファラの所見ですが......恐らく単体ではファラよりも強いと思われるとのことです。」

「「......。」」

皆が絶句している。
まぁ......気持ちは分かるけど。
ファラは弱体魔法を使う事は出来ないけど、強化魔法を使うことが出来るので非常に強い。
その上、身体が小さいのでこちらの攻撃が当たりにくい......シャルには劣るモノの素早いのでとにかく見失いやすい。
正面から戦うとかなり厳しい戦いになる......というか、弱体魔法無しだと俺は勝てない気がする。
そのファラよりも強い魔物と言うのは......相当どころではなく危険な相手だ。

「クルスト達が手も足も出なかったというのも当然じゃな。とてもではないが軍で対処できるダンジョンでは無さそうじゃ。キオルの奴め......厄介なことをしでかしおって。」

ナレアさんが憎々しげに言う......まぁ、その意見には深く同意するところだけど。
それにしても......母さんからすれば少々の魔力......しかもその一部を吸収しただけでそんな強力な魔物に進化するのか......。
まぁでも......ファラやマナスが眷属化したことでとんでもない強さになったことを考えれば似たようなもの......なのかな?
っと今はそれはどうでも良かったな。

「うぬぼれるつもりはありませんが......恐らく僕達でないとあのダンジョンは攻略出来ないと思います。」

「それはうぬぼれでは無いのじゃ。平地に出来たダンジョンであれば兎も角、あのダンジョンは洞窟系じゃし、キオル達も言っておったが人数を集めて圧殺というのも出来ないじゃろう。小人数で戦うにしても、現代の魔道具でいくら身を固めようとも殆ど意味を成さぬ。魔法系の魔道具を持ったクルストですら手も足も出なかったらしいしの。まぁ、魔法系の魔道具で身を固めた軍で矢継ぎ早に攻めかかれば......といったところかのう?」

「現実的じゃねぇな......そもそも自分の魔力で魔法系の魔道具を使うことが出来る奴がどのくらいいる?」

「妾の知る限り......妾とリィリ、ヘネイ......後はカザンとノーラくらいかのう。あぁ、今はレギ殿もいけるのう。」

「とても軍とは呼べねぇな。」

「それほど稀有ということじゃ。まぁ、今回は妾達で対処が出来るからのう。ファラ以上の強さとは言え、妾達全員で掛かればなんとかなるかの?殺すだけじゃしな。」

模擬戦と違って手加減する必要は無いし......皆でやれば多分大丈夫だとは思う。

「しかし、ファラより強い魔物が全力で向かってくるとなると......一筋縄ではいかないな。」

「そうだねー。下手したら大怪我じゃ済まないかも。」

「えっと......相談したいのはその事でして......そのボスなのですが......僕一人で戦いたいと思います。」

「なんだと!?」

俺の言葉を聞いた瞬間、レギさんが声を荒げる。
ナレアさんの方ばかり警戒していてレギさんの方に意識を向けていなかった為、少しびくついてしまった。
まぁ、ナレアさんも声は荒げなかったものの、俺の事を睨みつける様に見ているけど。
俺は軽く深呼吸をした後、口を開く。

「僕は数年前にアザルに襲われ、奪われた母さんの魔力を取り戻すことを目的の一つに考えていました。それ自体は先日キオルから最後の魔力を渡されとりあえずの回収は出来たと思います。」

「「......。」」

ナレアさんとレギさんだけでなくリィリさんも厳しい目でこちらを見ながらも話を聞いてくれる。
いや、厳しい視線を向けて来ているのは三人だけじゃないけど......背後にあるベッドの上からそれはもう強烈な視線を感じる。
俺は肩に乗っているマナスを膝の上に乗せ直して言葉を続ける。

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