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最終章 狼の子

第524話 思春期なの?

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「全く......突然何を言いだすのじゃ......!」

ナレアさんの大音声による叫びは洞窟全体に響き渡り、崩落を起こすのではないかと心配したのだが......幸い洞窟はすぐに静寂を取り戻した。

「えっと......すみません?」

「......なんで疑問形なのじゃ。」

それはまぁ、間違ったことは言っていませんし......。

「文句のありそうな顔じゃ。じゃが、まぁ......妾も大声を出して悪かったのじゃ。」

バツが悪そうな表情をしているナレアさんを見て頬が緩む。

「いえ、驚きましたが......特に大事なかったようなので大丈夫です。」

「......ケイがあんなことを突然言うから悪いのじゃ。」

「思ったことを素直に言っただけなのですが。」

「時と場合を選んで欲しいのじゃ。」

今このタイミング以上に良きタイミングというものが思いつかないのですが......。

「そういうのはちょっと僕には難易度が高いですね。」

「......ケイは色々と隠すのが苦手じゃしな。思った事がすぐに口から出ても仕方ないとは思うが......。」

「まぁ、口から出さなくてもかなりの確率でバレますけどね。」

「流石に神獣でもあるまいし、何でもかんでも分かる訳じゃないのじゃ。」

「そうなのですか......?それは中々信じがたいのですが......。」

漏れていないことがあるのだろうかって言うくらいバレるし......顔に書いてあるとはよく聞く表現だけど、ナレアさん達の場合、こちらを見てすらいないのにバレることが多々ある。
もはや俺の考えが噴き出しになって宙に浮いているとしか思えないくらいの的中具合と言えるよね。

「ケイは......まぁ、教える必要はないの。」

「いや、そこは教えて下さいよ。」

「嫌じゃ。」

「なんでですか?」

「分かりやすい方が色々と良いじゃろ?」

「考えている事が駄々洩れな現状より、分かりにくくなった方が良いと思いますが。」

「見解の相違じゃな。」

にやりと笑うナレアさんの事を半眼で見つめるものの......教えてくれる気配は全くない。
まぁ......逆他の立場だったら俺も教えないだろうしな。
する気は全くないけど浮気とかしたら......一瞬でバレるんだろうな。

「......余計な事はせぬほうが身の為じゃと思うが......したいのかの?」

「いえ、全く。」

うん、浮気どころか道行く人を可愛いとか思った瞬間バレそうだな。

「まぁ、基本的にナレアさん以外の人にはあまり興味が無いので大丈夫です。」

「......一途と言えばいいのか、枯れておると言えばいいのか......悪くない気分の様な、そうでもない様な......微妙な気分じゃな。」

「枯れている云々は置いておいて......微妙ですか?」

「いや......まぁ......嬉しくはあるのじゃよ?そこは勘違いして欲しくはないのじゃが......。」

ナレアさんは何やら言いにくそうにしながら......言葉を選んでいる感じだ。
変なことを言ってしまったのだろうか?
......気持ち悪かった、とか?

「あー、いや、ケイが悪いとかそういうのではないのじゃ。ただまぁ......なんというか、あー、その......面倒くさいと思わないで欲しいのじゃが......。」

「はい。」

「......妾の事を一番と言ってくれるのと、妾以外に興味はないと言うのは少し違う......というか......の?」

「えっと......。」

どういうことだろうか......?

「いや......面倒なことを言っておる自覚はあるのじゃ。ケイが変な意味で行ってないことも理解しておる......じゃが、なんというか......興味を覚えたのが妾だけだから特別と思ったのかの?」

そこまで言ったナレアさんが手を大きく振り、本当に気にしないで欲しいと言う。
......なんとなく分かった気がする。

「いえ......違います。ナレアさんしかいないから特別なのではありません。ナレアさんがナレアさんだからこそ、僕は貴女の事を特別だと思っています。」

気持ちを言語化するのが難しい......ちゃんと伝えたいと思うのに非常にもどかしい。
元の世界で彼女とかいたら、もう少し上手く伝えることが出来たのだろうか?
でも......上手く言えなかったとしても、俺は俺の言葉で自分の気持ちを伝えなければならない。

「いや、本当にすまぬのじゃ......。」

ナレアさんが滅茶苦茶落ち込んでいる!?
やはり俺の言い方が悪かった......ど、どうすれば!?
今すぐにリィリさんの所へと相談に行きたい......!
これ以上無いくらい俺が慌てていると、ナレアさんが左手で自分の顔を覆う。

「な、ナレアさん?」

「......本当に......自分でも驚くくらい情けないのじゃ......小娘でもあるまいに。いや、本当にこんなこと言うつもりはなかったし、今まで考えてもいなかったのじゃ。」

そう言ったナレアさんはしゃがみ込み、今度は両手で顔を隠す。

「ただ、少しだけ......ケイの言葉を聞いた時に頭の中を妙な考えがよぎって口に出してしまったのじゃ。さっきの今でケイの事を言えぬのう......。」

ナレアさんは指の隙間から覗く肌......そして耳まで真っ赤に染まっている。

「いや、あの......僕が迂闊なことを言ったからですし、そこまで気にしなくても......。」

「ケイ......すまぬ......少しだけ、少しだけ何も言わんでくれ......。」

ついにナレアさんは膝を抱えて顔を完全に隠してしまった。
......今は何を言ってもダメージになってしまいそうなので、俺はナレアさんの傍に腰を下ろす。
ナレアさんが叫んだ時に生まれたさざ波は既に静まっており、湖面には一切の淀みも感じられない。
今の俺達の心境とは正反対の静謐さだ。
俺の迂闊な言葉が原因だけど......本当に申し訳ない......。
でも......俺までどんよりする訳にはいかないよね......俺が落ち込んでいれば間違いなくナレアさんはその事も気にするだろう。
ならば、少なくとも表面上は普通にしておかなければならない。
反省だけはしっかりしておかなくちゃいけないけど。
そんなことを考えながら暫く動くことのない湖面を見つめていると、天井から落ちてきた雫が湖に落ち波紋を作った。

「......うむ。落ち着いたのじゃ。」

波紋が丁度俺達の所まで広がってきたところでナレアさんが顔を上げた。

「しかし、あれじゃな。妾がこんな事を思う日が来るとは思わなんだ。」

苦笑しながら言うナレアさんは、もう先程の事に折り合いをつけたようだけど......その顔はまだ若干赤い気がする。

「こう言ってしまうとなんですが......ナレアさんと一緒に居ると、普段の思考とはかけ離れた事を考えてしまう時があります。」

「......そうじゃな、妾も同じじゃ。非合理極まりない思考じゃと言うのに何故か、囚われてしまうのじゃ......恐ろしいことよのう。」

いつもより若干力なくナレアさんは笑うが......心境的には俺も似たようなものだろう。

「......恐らく、これからも変なことを言ってケイを困らせると思うのじゃ。」

「それはきっと、お互い様だと思います。寧ろ僕の方が迂闊なことを言ってナレアさんを怒らせることが多いと思います。」

「世の恋人達の喧嘩が絶えぬわけじゃな。」

「あはは、そうですね。血縁よりも近い他人で、更に半身とも言える相手ですからね。少しのずれが凄く気になるのだと思います。」

「なるほど......面白い言い方じゃ。確かに右半身と左半身にずれがあったら、気になるどころではないからのう。」

「下手したら死にますね......いや、下手しなくても死にますか。」

マナスだったら大丈夫かもしれないけど......マナスは懐が深いな。
是非見習いたいものだ。

「うむ......またくだらない事を考えておるようじゃな。」

「......まぁ、マナスは凄いなぁと思いまして。」

「マナスが凄いという事には同意するが......今は全く関係ないと思うのじゃ。」

呆れたようにため息をつきながらナレアさんが俺の肩にもたれかかってくる。
ナレアさんは小柄で、そして見た目以上に軽く雑な触れ方をすると壊れてしまいそうな雰囲気があるんだよね。
そんなナレアさんの肩に手を回すかどうかでしばしの間もんもんとしていた。

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