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第45話 勇者エルネストの没落 その6
しおりを挟む「魔王……だと……?」
老人の言葉を聞いたエルネストの顔色が変わる。
魔王とは、はるか昔に魔人を率いて人々を支配したとされる伝説の存在だ。
圧倒的な力を持ち、勇者の力がなければ倒すことはできないと言われている。
エルネストの持つ<勇者>の称号は、万が一魔王が再び現れた場合に備えて、各地の人間に受け継がれてきたものなのだ。
つまり、エルネストは今、宿命の相手と対峙しているということになる。
「くくくっ……魔王か。それは面白い。まさか俺の代で遭遇することになるとは思わなかったぞ!」
「ふぉっふぉっふぉっ!」
老人はエルネストに合わせて笑った。
――こいつ、まるで威圧感がない。おまけ大した魔力も感じられん……本当に魔王なのか?
目の前にたたずむ老人の緊張感のなさを見て、エルネストはそんな疑問を抱かずにはいられなかった。
「…………なんて、そんなこと信じるわけないだろう。もし本当だというのなら、お前が魔王であるというエビデンスを示せ」
エルネストは、そう言いながら老人に詰め寄る。
「ほう……えびでんすとな……?」
首をかしげる老人。
「どうした、早くしろ」
「なんじゃその……えび何とかというのは?」
「証拠を見せろと言っているんだ! このボケ老人がッ!」
エルネストは苛《いら》つくあまり壁を殴った。
「酷いのう、お主……老人は労るものじゃぞ?」
「安心しろ。貴様が老人でなければ直接ぶん殴っていた」
「なんと」
「…………見せられないのならもういい。貴様の戯《ざ》れ言に付き合ってる場合ではないんだ。俺はもう行く!」
「ま、待て待て……証拠を見せれば良いのじゃろう?」
ゆっくりと起き上がり、その場から立ち去ろうとするエルネストを、老人は引き留める。
「――その通りだ。見せるのなら早くしろ」
「そうじゃな……それでは……これでどうかのう?」
その時、エルネストは周囲の空気が一変するのを感じた。
「…………………!!!!!!」
刹那、老人の周囲に禍々しい魔力が渦巻き始める。
「な、なんだこれは……ッ!」
エルネストは近くに立っているだけで、濃密な死のイメージを感じ取ってしまい、震えながら後ずさった。
老人の近くに居た三体のスライムも、突然のことに驚き跳ねまわる。
「どうした勇者エルネスト。顔色が悪いぞい?」
「貴様……なぜ俺の名前を知っている……!」
「ふぉっふぉっふぉっ、お主は有名人じゃからのう。こんな場所に居ても名前くらいは耳にするものじゃよ」
「下水道に住んでいるのか……!? 正気の沙汰じゃないぞ……!」
「ともかく……これで少しは信じてもらえたかのう」
そう言って老人が一息ついた次の瞬間、周囲に渦巻いていた魔力は、一瞬にして消え去った。
「はぁ……はぁ……こ、これは……ッ!」
冷や汗を流しながらよろめくエルネスト。目の前の老人がただ者でないことだけは明らかだった。
もし、あれほどの魔力が敵意を持って自分へ向けられたらと想像するだけで恐ろしい。
エルネストは、さり気なく老人から距離を取った。
「ふう……今出せる力はこのくらいじゃな」
「い、今のが全力じゃなかったのか!?」
「復活したばかりでな……それに、封印の効力もまだ残っておる。万全とは言い難いのう」
老人は、魔力に圧倒され隅の方で縮こまっていたスライム達をなだめながらそう答える。
「何だと……!」
エルネストは目の前の老人が魔王であるという話を信じつつあった。
「――それでは、本題に入るとするかの」
「……俺にまだ何か話があるのか?」
「その通りじゃ。一つお主に――勇者エルネストにお願いしたいことがあるんじゃよ」
そう言いながら、老人はエルネストの前へ進み出る。
「できることなら聞いて欲しいのじゃが」
「お願いだと……!? い、一体それは何なんだ……?!」
老人の言葉から脅迫めいたものを感じ取り、恐怖で声が震えるエルネスト。
「ワシが力を取り戻すのを手伝ってほしい。もし、協力してくれるのであれば……」
一息ついて、老人はこう続けた。
「世界の半分をお主にやろう」
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