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第52話 外伝2.十郎その2
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――十郎。
全く何やってんだか……。
魔溜まりを一つ解放して屋敷に戻ってきたら、ゼノビアがミツヒデとぴーぴー言い合っているじゃねえか。
「十郎くん!」
俺の姿に気が付いたゼノビアが喜色を浮かべてこちらに駆けてくる。
彼女は両手を広げ長い髪を揺らしながら、そのまま勢いよく俺の腰へダイブしてきた。
しかし、ヒラリと彼女を躱した俺は勢いをつけすぎて地面に倒れ込みそうになった彼女の腰へ後ろから腕を回すと、そのまま彼女を掬い上げるように抱き寄せる。
「もおお。でも、素敵」
ゼノビアは頰を膨らませ口を尖らせた。
「追われたら逃げる。逃げたら追うってな」
「そんな天邪鬼なところも……うふふ」
「ゼノビア、その締まらない口はやめた方がいいぜ」
やれやれ、ゼノビアの様子を見るにいつも通り頭のネジがぶっ飛んでるけど……一体二人は何を言い合ってたんだ?
ぺたりと体を寄せてくるゼノビアの肩を掴み引き離す。
「もう……」
「ミツヒデ、何かあったのか?」
相変わらずの底冷えする目と無表情そのままにミツヒデは肩を竦めた。
「特には。十郎君のように仕事をしてきた訳ではありませんよ」
「よーわからんが、何もねえならまあ……」
一仕事終わったことだし、一杯やるか。
徳利はどこだっけかあ。
あー、晴斗の言うように放り投げるんじゃなくてちゃんと置いておく場所を決めといた方がいいなあ。
でも、めんどくせえんだよ。毎回探す方が時間がかかるってのは分かってるんだがねえ。
頭をかき、文机の下を覗き込む。
この屋敷は無駄に広くて、よく分からん書類やらも多い。文机の数もこんなにいらねえだろうに。何すんだよこんなとこで。
「十郎君。徳利なら杯ごと台所です。中身は空ですので、酒樽から注いでください」
「どーりで無いはずだぜ」
アクビをしながら頭の後ろで腕を組み台所へ向かう。
◇◇◇
お、あったあった。
酒樽へ徳利を突っ込んで、中に酒を満たす。
戻るのも面倒くさいし、ここで飲むか。
ドカリと腰を降ろしてあぐらをかき、杯に並々と酒を注ぐ。
「十郎くーん。これどうぞ」
ゼノビアがお盆にカマボコを乗せて顔を出す。
いいねえ。酒のアテにピッタリだ。
彼女に礼を言って、お盆を地面におきカマボコを摘まむ。
切り分けてねえのか。まあ、口の中に入れりゃあどっちも一緒だ。
口に入れ、カマボコを噛みちぎり、酒をグイっと飲む。
「うめえ。やっぱこれだよなこれ」
「ねーねー。十郎くん。そのカマボコっての、真ん中に穴があいているのってなんでだろう?」
「これは何だったっけか。確か、棒にカマボコになるすり身を張り付けて焼くからだったんじゃねえか。ミツヒデなら知ってそうだぜ」
「ふうん。本当に美味しそうに飲むんだね」
「実際、旨いからな」
更に酒を煽る。
お、もう杯が空になってしまった。
すると、よく気が付くゼノビアが徳利から酒を杯に注いでくれた。
「ありがとな」
「ううん。ねね。十郎くん」
「ん?」
「お仕事して、お食事、お酒の後は……やっぱり」
ゼノビアは自分の乳を持ち上げるように胸の下で腕を組み、上目遣いでこちらを見つめて来る。
心なしか頬も上気しているようだ。
「抱かねえぞ」
「えー。遠慮しなくてもお」
いやんいやんと体をくねらせるゼノビア。
全く……。
「一つ言っておく。何もねえんだったら喜んで抱くさ。お前さんみたいな美女を前にして誘われて抱かねえって選択肢はない」
「きゃー」
「だが、俺は俺でいたい。だから、駄目だ」
「もお」
ゼノビアはサキュバスという種族で、男と交わることでその男を魅了してしまう。
ただでさえノブにいい様にやられてるんだ。これ以上、自分に制限をつけたくねえ。
「あの美男子の方がいいのね」
「誰だそら。俺に男色の趣味はねえ」
「でも、十郎くん、いつもあの男の子のことばっかりじゃない」
「晴斗か? お前さん、晴斗に会って来たのかよ!」
図星を突かれたようで、ゼノビアは舌を出してへへと頭をかく。
ったく。俺は自由に行動できねえってのに。彼女はやりたい放題でいいよな。
「もう、怒らないでよお。見て見たかっただけじゃない。何もしてないもん」
「分かった分かった。あああ。俺は日があけたらまた魔溜まりに行かねえといけねえんだぞ」
「十郎くん、ずっと精力的に働いてるよね! できる男!」
「やりたくてやってるわけじゃねえよ」
ノブの命だから、あいつの命じたままに動くことしかできねえんだよ。
彼は自分の復活のために全力を尽くせと俺に言った。
そのためには、世界中に停滞して池のように溜まっている魔を平らにしてこなくちゃなんねえ。
大した仕事じゃあねえけど……。
現場に行って、小狐丸を振り回し魔溜まりを吹き飛ばすだけのお仕事だ。
「その何とか溜まりを破壊したらどうなるの?」
「知らずに手伝っていたのかよ! 魔溜まりの状態だとノブが魔をここから引き寄せることができねえんだよ」
「おお。なるほどお。吸い込もうとしても、吸い込めない大きなモノを細かくする感じだね」
「そんなとこ」
ノブが復帰した後、俺はどうなるのか分からない。
が。一つあいつに願ったところ、受け入れてくれた。
――晴斗と勝負するってことを。
できれば、ノブが復帰する前に晴斗に出会いたいものだが……。
もし俺が晴斗の立場だったら絶対に気が付かない。まさかノブが魔溜まりを破壊することで復活できるなんてことなんてよ。
この前は真祖と盟約を結ぶかどうかってのをミツヒデがグチグチやってたけど、ノブはサムライ気質でな。真正面から勝負しねえ奴は受け入れねえ。
俺はノブのことが許せねえが、彼の気質だけは評価している。武人たるもの、正々堂々とやりあわねえとな。
そんなわけで、俺が真祖を斬りにミツヒデに送ってもらったんだ。しかし、あの時は真祖を斬るとすぐ帰れとの命だったもんだから、何もできなかった。
「十郎くん、どうしたの? 珍しく考え事?」
「あー、珍しいってのは余計だ」
「でも、なんだか怖い顔をしてたよ」
「まあな。ままならないもんだなあと思ってんだよ。いつもな」
「ノブさんのこと?」
「そうだな」
今すぐにでもノブを叩き斬ってやりたいところだが、酒呑童子たる俺にはできねえ。
ノブは俺の事を恨んでいないって言ったことは本当だろうが……そんなことは関係ない。
あいつの性質がサムライだから、せっかく魔王として顕現したところで台無しにされたとしても彼のことだ。逆に俺と晴斗を評価するだろうよ。
あの時のノブは曲りなりにも魔王となり魔将が束になってかかっても勝てねえ存在になっていたのだ。そんなノブに俺と晴斗は真っ向勝負を挑んだんだからな。
「もう一杯飲んだら寝るか」
ふああと大きなあくびが出た。
全く何やってんだか……。
魔溜まりを一つ解放して屋敷に戻ってきたら、ゼノビアがミツヒデとぴーぴー言い合っているじゃねえか。
「十郎くん!」
俺の姿に気が付いたゼノビアが喜色を浮かべてこちらに駆けてくる。
彼女は両手を広げ長い髪を揺らしながら、そのまま勢いよく俺の腰へダイブしてきた。
しかし、ヒラリと彼女を躱した俺は勢いをつけすぎて地面に倒れ込みそうになった彼女の腰へ後ろから腕を回すと、そのまま彼女を掬い上げるように抱き寄せる。
「もおお。でも、素敵」
ゼノビアは頰を膨らませ口を尖らせた。
「追われたら逃げる。逃げたら追うってな」
「そんな天邪鬼なところも……うふふ」
「ゼノビア、その締まらない口はやめた方がいいぜ」
やれやれ、ゼノビアの様子を見るにいつも通り頭のネジがぶっ飛んでるけど……一体二人は何を言い合ってたんだ?
ぺたりと体を寄せてくるゼノビアの肩を掴み引き離す。
「もう……」
「ミツヒデ、何かあったのか?」
相変わらずの底冷えする目と無表情そのままにミツヒデは肩を竦めた。
「特には。十郎君のように仕事をしてきた訳ではありませんよ」
「よーわからんが、何もねえならまあ……」
一仕事終わったことだし、一杯やるか。
徳利はどこだっけかあ。
あー、晴斗の言うように放り投げるんじゃなくてちゃんと置いておく場所を決めといた方がいいなあ。
でも、めんどくせえんだよ。毎回探す方が時間がかかるってのは分かってるんだがねえ。
頭をかき、文机の下を覗き込む。
この屋敷は無駄に広くて、よく分からん書類やらも多い。文机の数もこんなにいらねえだろうに。何すんだよこんなとこで。
「十郎君。徳利なら杯ごと台所です。中身は空ですので、酒樽から注いでください」
「どーりで無いはずだぜ」
アクビをしながら頭の後ろで腕を組み台所へ向かう。
◇◇◇
お、あったあった。
酒樽へ徳利を突っ込んで、中に酒を満たす。
戻るのも面倒くさいし、ここで飲むか。
ドカリと腰を降ろしてあぐらをかき、杯に並々と酒を注ぐ。
「十郎くーん。これどうぞ」
ゼノビアがお盆にカマボコを乗せて顔を出す。
いいねえ。酒のアテにピッタリだ。
彼女に礼を言って、お盆を地面におきカマボコを摘まむ。
切り分けてねえのか。まあ、口の中に入れりゃあどっちも一緒だ。
口に入れ、カマボコを噛みちぎり、酒をグイっと飲む。
「うめえ。やっぱこれだよなこれ」
「ねーねー。十郎くん。そのカマボコっての、真ん中に穴があいているのってなんでだろう?」
「これは何だったっけか。確か、棒にカマボコになるすり身を張り付けて焼くからだったんじゃねえか。ミツヒデなら知ってそうだぜ」
「ふうん。本当に美味しそうに飲むんだね」
「実際、旨いからな」
更に酒を煽る。
お、もう杯が空になってしまった。
すると、よく気が付くゼノビアが徳利から酒を杯に注いでくれた。
「ありがとな」
「ううん。ねね。十郎くん」
「ん?」
「お仕事して、お食事、お酒の後は……やっぱり」
ゼノビアは自分の乳を持ち上げるように胸の下で腕を組み、上目遣いでこちらを見つめて来る。
心なしか頬も上気しているようだ。
「抱かねえぞ」
「えー。遠慮しなくてもお」
いやんいやんと体をくねらせるゼノビア。
全く……。
「一つ言っておく。何もねえんだったら喜んで抱くさ。お前さんみたいな美女を前にして誘われて抱かねえって選択肢はない」
「きゃー」
「だが、俺は俺でいたい。だから、駄目だ」
「もお」
ゼノビアはサキュバスという種族で、男と交わることでその男を魅了してしまう。
ただでさえノブにいい様にやられてるんだ。これ以上、自分に制限をつけたくねえ。
「あの美男子の方がいいのね」
「誰だそら。俺に男色の趣味はねえ」
「でも、十郎くん、いつもあの男の子のことばっかりじゃない」
「晴斗か? お前さん、晴斗に会って来たのかよ!」
図星を突かれたようで、ゼノビアは舌を出してへへと頭をかく。
ったく。俺は自由に行動できねえってのに。彼女はやりたい放題でいいよな。
「もう、怒らないでよお。見て見たかっただけじゃない。何もしてないもん」
「分かった分かった。あああ。俺は日があけたらまた魔溜まりに行かねえといけねえんだぞ」
「十郎くん、ずっと精力的に働いてるよね! できる男!」
「やりたくてやってるわけじゃねえよ」
ノブの命だから、あいつの命じたままに動くことしかできねえんだよ。
彼は自分の復活のために全力を尽くせと俺に言った。
そのためには、世界中に停滞して池のように溜まっている魔を平らにしてこなくちゃなんねえ。
大した仕事じゃあねえけど……。
現場に行って、小狐丸を振り回し魔溜まりを吹き飛ばすだけのお仕事だ。
「その何とか溜まりを破壊したらどうなるの?」
「知らずに手伝っていたのかよ! 魔溜まりの状態だとノブが魔をここから引き寄せることができねえんだよ」
「おお。なるほどお。吸い込もうとしても、吸い込めない大きなモノを細かくする感じだね」
「そんなとこ」
ノブが復帰した後、俺はどうなるのか分からない。
が。一つあいつに願ったところ、受け入れてくれた。
――晴斗と勝負するってことを。
できれば、ノブが復帰する前に晴斗に出会いたいものだが……。
もし俺が晴斗の立場だったら絶対に気が付かない。まさかノブが魔溜まりを破壊することで復活できるなんてことなんてよ。
この前は真祖と盟約を結ぶかどうかってのをミツヒデがグチグチやってたけど、ノブはサムライ気質でな。真正面から勝負しねえ奴は受け入れねえ。
俺はノブのことが許せねえが、彼の気質だけは評価している。武人たるもの、正々堂々とやりあわねえとな。
そんなわけで、俺が真祖を斬りにミツヒデに送ってもらったんだ。しかし、あの時は真祖を斬るとすぐ帰れとの命だったもんだから、何もできなかった。
「十郎くん、どうしたの? 珍しく考え事?」
「あー、珍しいってのは余計だ」
「でも、なんだか怖い顔をしてたよ」
「まあな。ままならないもんだなあと思ってんだよ。いつもな」
「ノブさんのこと?」
「そうだな」
今すぐにでもノブを叩き斬ってやりたいところだが、酒呑童子たる俺にはできねえ。
ノブは俺の事を恨んでいないって言ったことは本当だろうが……そんなことは関係ない。
あいつの性質がサムライだから、せっかく魔王として顕現したところで台無しにされたとしても彼のことだ。逆に俺と晴斗を評価するだろうよ。
あの時のノブは曲りなりにも魔王となり魔将が束になってかかっても勝てねえ存在になっていたのだ。そんなノブに俺と晴斗は真っ向勝負を挑んだんだからな。
「もう一杯飲んだら寝るか」
ふああと大きなあくびが出た。
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