俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ

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50.喰らえ

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「い、行こう」
「そ、そうだな」
「おー。いこー」

 ぎこちない俺とイルゼに対し、プリシラはいつもの調子でバンザイのポーズで応じる。
 立ち上がり振り向いた彼女はペロリと赤い舌を出して口元をなぞった。
 
「えへへ」
「拭ったほうがいいんじゃないのか?」
「だめー。もったいないもんー」
「……」

 もはや何も言うまい。
 おっと、俺も……手の甲で口元を拭う。
 ついつい、されるがままになってしまったよ。まさかプリシラがそこまで来るとは思ってなかった俺の不覚と言えよう。
 もしこんな時にモンスターが来たら手痛い一撃を喰らってしまうってば。完全に無防備だったからな。
 
「もうー。元気がないぞー」

 プリシラが俺とイルゼの手を掴み、ぐいぐい引っ張ってくる。
 
「そんなことないさ」

 プリシラに苦笑しつつもまんざらではなさそうなイルゼ。
 
「だな。探索をはじめるか」
「うんー」

 ◇◇◇
 
 歩き始めた時――。
 強大な気配を感じとる。
 ビリビリとくるこの粘つくようなプレッシャーは何度か味わったことがあるぞ。
 
「アーバイン!」
『アヒャヒャヒャヒャ。実に愉快。実に実にいいいいいい』

 姿は見えない。
 奴の狂笑だけが、真っ白の空間に響き渡る。
 ピピンに取りついていたアーバインの零体は確かに滅した。
 しかし、この気配は間違いなくアーバインのものだ。
 
 それも、初めて奴に会った時より遥かに……。
 
「こっちが本体か!」
『ご名答です! これぞ神の導き、いや、導きではなく必然! 在るものが在るところに集まったに過ぎない!』

 頭上の空間がひしゃげ、揺らぐ。
 扉を開くように歪んだ空間から鋭いかぎ爪を持つ手が伸び、中から血の涙を流した鋭い牙を生やした男が出て来る。
 アーバインだ。
 
 巨大蔦を呼び出すほどの膨大な魔力を蓄えたのはアーバインである。
 そんな彼が元の強さのままだったことの方が不自然と考えるべきだった。
 ピピンに取りついていたアーバインは確かに以前の奴と同じくらいの力を持っていたんだ。
 だけど、今目の前に現れたアーバインは軽く以前の数倍の力を持つことは明らか。
 
『闇と憎むべき聖が合わさり、扉を開く! そして今!』

 アーバインは大仰に両手を開き、天を仰ぐ。
 恍惚とした彼の顔に怖気が走る。
 
 奴がぎょろりと目だけこちらに向けた瞬間、体から急速に魔力が抜けていく。
 
「ぐ、ぐうう」
「うー」
「な、何が……」

 俺だけじゃなく、イルゼとプリシラもその場に膝をついてしまう。
 俺たちは常人の数十倍という膨大な魔力を保持している。通常、魔法をポンポン使っても魔力が枯渇することなんて有り得ないんだ。
 だけど今、ほんの僅かな間に全ての魔力が持っていかれてしまった。
 
『すばらしいいいいい。ばるとろめおおお君が聖属性になるのを待っていたのですよおおお。これで私の闇属性を加え……降臨、降臨、いや、初めからそこに在るものよおおおお』

 俺たちの魔力を吸収しやがったのか。
 数倍に膨れ上がったアーバインの魔力だったが、奴はその全てを天高く掲げた両手から吐き出す!
 
 聖と闇が合わさり――。
 
「やめろ! それほどの聖と魔を合わせたら……大陸ごと消滅するぞ!」

 アーバインを止めようと立ち上がるものの、ガクガクと膝が震え逆に尻餅をついてしまう。
 
「だ、ダメだ。間にあわねえ」

 見事なまでに聖と闇の魔力が同じ力で交差し、全てを滅する透明な力と変質する。
 思わず膝をついたままのイルゼとプリシラに覆いかぶさり、ギュッと彼女らを抱きしめた。
 
 しかし、最後の時は一向にやってこない。
 不思議に思い顔をあげると、聖と闇の力は消え去っていた。
 その代わり、爆心地にはポッカリと二メートルほどの穴が開いている。
 
 穴の中には紫色の大地が見えた。
 ハッキリとは確認できないけど、太陽の光とそよぐ風も確認できる。
 紫色は草のように見えるが……。

「一体何が起こったんだ?」
 
 魔力切れで頭がクラクラするし、立ち上がる気力もない状態だから、どうも思考がハッキリしない。

『世界が、来るのです! 素晴らしい。素晴らしいいいいいい』

 アーバインの声が聞こえるが、どこからだ?
 手をつきながらなんとか立ち上がり、奴の気配を探る。
 
『ここですよおおおお』

 開いた穴から頭だけを出し、アーバインは愉快そうに口角をあげた。
 ちくしょう。
 俺は何て抜けていたんだ。魔力が奪われたのなら、「元に戻せばいい」だけじゃねえか。
 
 両の拳を胸の前で打ち合わせ、目を瞑る。
 
「発動せよ。『手加減』スキル」

 よおおおっし。
 体に魔力が満ちて来るぞお。
 
『名前:バルトロメウ・シモン
 種族:人間
 レベル:百六十二
 状態:手加減』

 対象はアーバイン。
 奴は全力全快で最高にハイって奴だから、俺も当然全快になるってわけだ。
 
『その「スキル」は厄介ですねえええ。これだとどうですかあああああ』
「ぐ、ぐうう」

 魔力が急速に失われて行く。
 しかし、問題ねえ。
 
 手加減スキルを解除。
 そして、再び手加減スキルを発動。対象はもちろんアーバインだ。
 
「効かねえぜ?」
『不可解な。まさか……貴方……眷属……そ、そんな……私が求めてやまない眷属がここにいたのですか! お、おおおおおおおお』
「俺はバルトロメオ・シモン。それ以外の何者でもねえ! 少しだけ農業を愛す唯の人間だ」
『いいでしょう。いいでしょう。例え、主が望んだ者だとしても、だとしてもおおお。私は愛すべき世界と世界を融合させるのです! それこそがあああ。うひゃひゃひゃ』
「意味が分からねえ」
『すぐに分かります。誰しもが理解しますよおお。私を媒体に、最後の儀式をおおお』

 やべえ。
 奴からこの状況を打破できる手段を聞きだそうとしたが、何かとんでもねえことをやろうとしている。
 だけどさ、俺だってやられてばっかいるわけじゃあねえんだぜ?
 
 アーバインがやれるってことは俺にだってやれるってことだろ?
 
「行くぜ。アルティメットマジック アンチマジックエクスプロージョン」

 俺とアーバインの力量は現在ほぼ同じ。
 アーバインが魔力を吸収する魔法を持つなら、俺はその逆、「魔力を蒸発」させる力を持つんだ。
 奴と異なり、俺の魔力は増えない。むしろ、この魔法はもっとえげつない。
 俺の魔力全てを犠牲にして、対象の魔力も同量蒸発させるんだ。
 
 相殺の究極たる魔法だろうなこれ。
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