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28.食べれるの見つけた

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 石灰岩はセメントの材料なんだ! 石灰岩を溶かし砂と混ぜればモルタルに。砕いたレンガか火山灰と混ぜればコンクリートになる。モルタルがあれば、レンガ造りの家が建築できるし、コンクリートを使えば、かの古代ローマを真似した建築物を造ることだって夢ではない。
 ローマンセメントといわれる古代ローマのコンクリートは、上水道下水道にも使われ、二千年経った俺の時代でも使用に耐えうるものすごい耐久性を持つ。
 岩石を切断する技術と穴を掘る技術次第だけど、素晴らしい通路が出来るんじゃないだろうか。

 なら、汚水処理も何とかしたいところだな。ここローマは川がすぐそばにあるわけではないから、水は井戸水に頼ることになる。
 汚水で汚染されてしまった水を飲んだら、疫病が広がる可能性が高くなる。だから、汚水をどこかで溜めて処分しないと。


――翌朝
 本日リザードマン、猫耳族、犬耳族が到着した。リザードマンには草食竜の牧畜を教えてもらわないといけないんだけど、まだ飼育する施設もないから、今のところ仮説住宅の建築を手伝ってもらうことにした。
 リザードマンも二十名ほど来てくれたから、オークの一部は鉄鉱石の採掘に回ってもらうことにする。
 猫耳族は十名。彼らはベリサリウスに付いて狩りに出てもらうことにした。犬耳族も十名。彼らには俺に着いて来てもらい、通路の準備作業を行ってもらう。スタミナ抜群の彼らなら草刈りも捗るだろう。


 俺は犬耳族とオークのマッスルブを連れて、ローマと森林の境目まで移動すると、集まってもらった彼らと順番に握手を交わし、俺は彼らに通路建設の下準備作業を説明し始める。

「集まってくれて感謝する。今日から暫く通路建設の下準備を手伝ってもらいたい」

 皆口をつぐみ静かに俺の言葉に耳を傾けてくれている。真剣な顔で聞き分けがいいなんて俺は少し感動した!

「二手に分かれて、通路の端に目印を真っすぐ作っていくイメージだ。ただ草を抜いていくだけだけど注意点がある。マッスルブ頼む」

「ブーはマッスルブというブー。よろしくブー。草は根元から抜いて欲しいブー。もし根じゃなく太い塊があれば、ピウスさんに報告して欲しいブー」

 昨日は草を刈れば目印になると思っていたが、根っこから引き抜くようにブーに話をしておいたんだ。ひょっとしたらジャガイモやレンコンのような食べれるものが見つかるかもしれないと思ってね。
 今日一日は根っこから抜いてもらうけど、もし何もなければ、明日から草を刈ることにしてスピードアップしようと思う。

「今回目印を造ってもらうのは、ローマの中心を十字に横切る一番大きな道になる。みんな大変だろうけどよろしく頼む」

 犬耳族から大きな声があがり、作業がはじまったのだった。

 しかし、彼らの作業が思ったより早い。素手で草花を抜いているというのに淀みなく進んでいくのだ。さらに全く休憩しないことも速度に拍車をかけている。スタミナに自信があると言っていたがこれほどとは恐れ入る。
 ブー? ブーはしょっちゅう休憩しているけど、力が強いので引き抜く速度が群を抜いて速い。時間あたりで見ると、ブーも犬耳族も同じくらいの速度に思える。

 いや、ここまで速いとは想定してなかったよ。これは嬉しい誤算だ。道具が出来上がるまでまだまだ時間がかかるだろうけど、借りれる道具がないか聞いてみるか。

「ピウスさん、根っこが太いの見つけたブー」

 マッスルブが手に持つそれは、確かに三角形に肥大した根っこだ。土を払って見てみると......

――これは。この根の形は見たことがあるぞ。

「マッスルブ。これ食べれるのか?」

「んー。ブーは食べたことがないブー」

 マッスルブには分からないみたいだなあ。小鬼の村長に聞いてみるか。俺の考えが正しければこれは食べれるはずだ。


 足早に小鬼の村長の元へ来た俺は、忙しそうに支持を出している村長に声をかける。

「村長殿、この三角形の根は食べることができますか?」

「プロコピウス殿、見せてもらっても?」

「ええ」

 小鬼の村長に三角形の根を手渡すと、彼は訝し気にそれを眺めると、暗い顔で俺に返して来た。

「プロコピウス殿、残念ですが、この根は毒があるのです。食べれませんな」

「どんな毒か分かりますか? 食べた人がいたんですか?」

「ええ、モンスターが出て狩猟が出来ない時に食べた者がいました。食べると少し甘いんですが、激しい嘔吐や腹痛に悩まされる者が続出したんですぞ」

「なるほど。甘いのですか! これは、いける!」

 これは、キャッサバだ! キャッサバには甘味種と苦味種がある。どちらもシアン系の毒が含まれていて苦味種は全体に毒を含んでいるが、甘味種は皮に毒性が多いと聞く。
 日本ではタピオカの原料として知られるキャッサバだけど、毒抜きすればもちろん食べることが可能なんだ。ただ、毒抜きをした後は腐りやすく日持ちがしない欠点もある。
 毒を持ってるし日持ちもしない。一見して使いずらい食物に思えるキャッサバだが、ローマにとって非常に有難い利点がある。

 それは、育てやすさだ。茎を地中に差し込むだけで育ち、荒れ地に強く、貧栄養な土地でも問題なく育つ。連作も問題ないと農業をしたことがない俺たちにはぴったりの作物だと思う。

 問題の毒抜きは二種類方法がある。一つは皮をむき、加熱後水につけておく方法。もう一つはすり潰して一晩置いた後、絞る方法。どちらも難しくはない。なぜならキャッサバは有史以前から食べられている食材だから。

「どうしたのです? プロコピウス殿」

「村長殿。この根はキャッサバと言います。これは食べれるんですよ。育てれるか模索してみます」

「おお。食べれるのですか。後で調理方法を聞いてもよいですかな?」

「ええ。もちろんです。今晩やってみましょう」

 キャッサバをもし大規模に育てることが出来たら、食料事情はかなり改善すると思う。しかし惜しいなあ。農業を知っている人が一人でもいれば、不安も無くなるんだけどなあ。
その時だった。

――ティンが空から急ぎ降りて来たのは。

 急ぎ地に降り立ったティンは、息を切らせながら俺に途切れ途切れに声を出す。

「ピウス様、た、大変、です。人間が、人間がいました」

「何だって! ティン、どのあたりになる?」

「小鬼の村があったあたりです」

 ティンは周辺の警戒をベリサリウスから任されていた。何か危険なモンスターを発見すればローマへ報告に来るよう命を受けていたんだ。それが功を奏してこうして人間を発見できたというわけだ。

「小鬼の村からここまでは一日の距離がある。ベリサリウス様を待とう」

「わ、分かりました。私は人間を追跡します」

「待て。ティン。まずは休め。その様子じゃ飛び続けるのは無理だ」

「で、でも。ピウス様!」

「君に倒れられると困るんだ。気持ちは分かるけど暫く休んでくれないか?」

「ピウス様......」

 ティンは頬を赤らめながら、その場でへたり込んだ。よっぽど疲れていたんだろう。しかし、人間か。小鬼の村を焼いた奴らだろうか?
 全く次から次に敵が出て来やがるな。ゆっくり内政をさせてくれてもいいだろ!

「ティン、座ったままで教えてくれ。人間は何人居た?」

「四人です。ピウス様!」

「ありがとう」

 四人か。人間は魔法を使うと言うが、俺は全く心配していない。何故ならベリサリウスがいるからだ。彼なら火の玉が飛んできても真っ二つにしそうだよ。
 いよいよ地球史に残る軍事的才能と現地の魔法を使う人間の直接対決か。部外者なら喜んで観戦するけど、当事者だと余り笑えない......
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