魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

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28.カンガルーもどき

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 ――翌朝。
 ラージプートに行き先を尋ねたところ、彼もまた月の雫が取れる奥地を目指していることが分かる。
 なら一緒に行こうかと誘ったのだけど、彼はソロに拘りがあるみたいで別々の道を歩むこととなった。
 あ、彼がどんな依頼を受けているのか聞いておけばよかったかも。
 もしかしたら、採集物が被っているのかもしれないし。
 それならそれで、彼と現場で合うことになるだろう。俺の方が到着が早いってことはまずないし、月の雫が無いなら無いで構わない。
 また採集しに来ればいいだけさ。
 マスターの直接依頼である月の石とやらだけは、採っておきたいところではある。
 何しろ、馬の装蹄師さん(俺の予想)が困っているのだからな。遅れると大切な馬の健康に支障が出てしまう。
 これは避けなければならない。
 
「よっし、俺たちも出るか」
「わおん」
「くああ」

 朝食の後片付けをした俺は、勢いよく立ち上がり右腕をあげる。
 元気よくギンロウが応じ、ファイアバードが小屋の屋根からリュックの上に移動した。
 まだリュックを抱えていないってのに、やはりあの位置に留まる気なんだな。
 
「ロッソ―」
『眠イ』

 丸太の上で日向ぼっこしようとしたロッソをむんずと掴み、ギンロウの背に乗せる。
 うーん。やっぱり。
 ロッソが完全に眠ってしまったらずり落ちてしまうかもしれんな。リュックの中でお休みしてもらうとするか。
 
 そこで俺はある重大な事実に気が付いてしまう。
 リュックに満載してきた食糧が無くなった。それは想定通りなんだけど、荷物が減ったから分かったことがある。
 それは――。
 
「スライムがいない」
『ん? お前の女に預けたんじゃないのカ?』

 リュックの口から顔だけを出したロッソがぶしつけにそんなことをのたまう。

「それってミリアムのこと?」
『そんな名前ダ』
「あのまま置いてきちゃったのか……」
『餌の心配カ? 代わりにオレに寄越セ』
「バナナの皮でよかったら」
『要らン』

 あ、リュックの中に引っ込みやがった。
 そうはいくかとリュックの口に手を伸ばすと、中から長い舌だけが出てきて俺の手を払いのける。
 戻るべきか少し悩んだけど、幸いスライムは獣魔登録を済ませていた。
 なので、処分されたり放逐されたりといった最悪の事態になることはまずない。
 獣魔をお預かりする制度があり、冒険者ギルドで受付をしてくれるのだけど……お預かり場所はペット屋なんだよね。
 ミリアム。すまん。任せた!
 彼女ならきっとよろしくやっていてくれるはず。彼女を信じて、俺は進むことにしよう。
 お詫びに何か道中で発見……彼女なら宝石とかだったら気に入ってくれるだろうか?
 
「ロッソ。途中でこの前見つけたルビーのような石を嗅ぎつけたら教えて欲しい」
『女カ』
「ミリアムな。そろそろ名前を憶えようぜ」
『ミリアム。ノエルの女』
「ちょっと違うけど……名前を憶えてくれたんだったらそれでいいや」

 ミリアムの前でうっかりロッソが口を滑らせたらとんでもないことになるが、仕方ない。
 ロッソにも俺以外の名前を憶えて欲しいからなー。
 ギンロウの名前とかペットに関してはちゃんと記憶するってのに。
 
「よおっし、んじゃま、改めて行くとするか」

 リュックを抱え、ファイアバードが腹を俺の頭に寄りかかった状態でギンロウへ顔を向ける。
 彼はもう待ちきれないといった様子でパタパタと尻尾を振った。
 
 ◇◇◇
 
 三日目――。
 奥へ奥へひたすら奥へ進む。
 深い山の中、崖を超え、そして大森林へと入る。複雑に地形が入り組み、人の手が全く加わっていない大自然……と言えば聞こえがいいけど、人が入るには厳し過ぎる地形故だろうな。
 このような場所をすいすい進むことができるのは鳥くらいのものだ。
 小川の流れる音を聞きながら、音を頼りに進んで行く。
 樹齢100年を優に超えるだろうと思われる分厚い幹を持った大木が並ぶ森林の地面は、ふかふかと柔らかい。
 踏みしめると足元が沈み込むほどだった。
 ここまで狩りをしながら順調に進んでいる。途中パープルボルチーニを採取し、残すは三種類となっていた。
 きっとこのまま進むと、ミレレ草はゲットできるはず。
 
「お、見えた」
「わん!」

 透明度の高い水をたたえた湖が視界に入る。
 川が流れ込む先といえば、湖だ。前々回来た時だったかな? 途中で湖を発見したんだよね。
 今回はギンロウも連れていることだし、何としても湖に辿り着きたかったんだ。
 彼が喜ぶと思ってさ。
 
 ずぐにでも魚を獲りながら、彼と泳ぎたいところだけどそうも言っていられないようだ。
 湖のほとりが騒がしい。
 岸辺には透き通った琥珀色の甲羅を持つウミガメに似た巨大なモンスターがオレンジがかった茶色の毛を持つ二足で立つ獣と対峙していた。
 カメの方は甲羅だけでも全長4メートルほどに及び、陸上が得意そうではない四肢を持っていたが非常に堅そうだ。
 一方、二足で立つ獣は、前世で見たことがある動物にそっくりだった。
 ――カンガルーに。
 といっても俺の知るカンガルーに比べると二回り以上大きい。背の高さは三メートル半くらいはありそうで、筋骨隆々な脚と腕まわりから相当なパワーを持っていることが分かる。
  
『ニクだナ。特に興味はなイ』
「どっちのことを言ってるんだか……」
『助けルのカ?』
「場合によっては、ね。獲物を横取りする気はないさ」

 藪の後ろで片膝をつき、そっと様子を確かめる。
 ギンロウも俺の隣でお座りし、舌を出して静かに俺の指示を待っている様子。
 
 しかし、何故カンガルーが亀に挑んでいるんだろう?
 あのカンガルーは肉食なのだろうか。でも、わざわざあんな巨大な亀の肉を喰わなくたっていいはずだ。
 
 お、カンガルーが右ストレートを亀の脳天にぶちかました。
 しかし、甲羅でなくても硬い鱗を持つ亀はまるで効いた様子がない。むしろ、叩かれたことに対して気が付いてない感じさえする。
 もう一発、今度は左ストレートを打ち込むが、同じく亀は反応さえ見せなかった。
 ペシン。
 進行方向的に邪魔だったのか、亀が前脚を振るうとカンガルーに見事ヒットし、カンガルーが宙を舞いゴロゴロと転がっていく。
 
「放置してもよさそうだな」

 あの様子だったら、カンガルーが逃げようと思えば簡単に逃げ切れるだろうし。
 ところが、リュックから俺の肩の上に移動してきたロッソが思わぬことを口にする。
 
「あの甲羅。『匂い』がすル』
「あの巨大な亀の甲羅のこと?」
『そうダ』
「硬そうなことは確実だろうけど、透き通った琥珀色……あ」

 泥や水草が付着しているから見栄えがよくないけど、あの色……磨けばべっ甲のようになるんじゃないか?
 べっ甲とはその名の通り、ある種の亀の甲羅を磨き上げたものである。
 
「ロッソ。カンガルーは敗北した。もうコテンパンにやられたよな」
『ん?』
「だったら次は俺たちが挑んでもいいよな?」
『やるのカ』
「おっし」

 ミリアムー待ってろよお。これでお礼にもなるし、換金したら君の大好きなお金にもなるぞ。
 
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