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7章
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しおりを挟むみんなから少し離れた位置で剣を鞘から抜き肩を慣らすために縁を描くように軽く振り回す。
他のみんなも各々準備運動と柔軟をし準備万端のようだ。
「さてリド、久々に手合わせしようか。」
「うん!」
「え?
ちょっちょっと待った!」
俺の方へ短剣を抜きながら近寄るリドにククスがいきなり声を掛ける。
「どうしたんですか?」
「それ、模擬剣とかじゃないよな?」
「えぇ、真剣ですね。」
「いやいやいや、真剣ですね、じゃないだろ!
相手はリドだよな?」
「はい。」
「リドが持ってるのも本物の短剣だよな?」
「うん!
にぃちゃんから貰ったの!」
信じられないといった様子で俺たちを見て言うククスに俺たちは何が言いたいのかわからずキョトンとしてしまう。
メルもククスが何が言いたいのかわかっていないようで俺と顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。
そんな俺たちを他所にリドは俺から貰った短剣を嬉しそうにククスに見せている。
誰かに自慢したかったようだ。
「ぁ、うん、いい短剣だな。
いや、そうじゃなくてな、リドはまだ3歳?だったよな?」
「うん!
もうすぐ4歳だよ!」
「そんなリドがなんで本物の短剣でギルと対峙しようとしてるんだ?」
「ククス?
ククスがいったい何を言いたいのかいまいちわからないのですが…」
「あの年で真剣を使うなんて普通じゃないってことはわかるか?」
「………」
ククスの言葉に俺は勢いよくメルを振り返る。
俺は立つのも歩くのも早かったからもっと早くから短剣を握っていたが普通じゃなかったのか⁉︎
メルはキョトンとした顔をしている。
「えっと…そうなんですか…?」
「知らなかったとか言わないよな?」
「あーえーっと…」
「嘘だろ…オレがおかしいわけじゃないよな?」
「多分…僕もその頃真剣を握った記憶はありませんね…」
そんな…まさか…これがこの世界の普通だと思っていたのに……
俺は愕然としてしまう。
ククスもライルもアリサも何だか可哀想な人を見るような目で俺を見ているような気がする…
「お父様、そうなんですか?
それが普通なんですか…?」
「うーん…私の家系もイリスの家系も普通というものには縁がなくてね…
だから普通というものがいまいちわからないんだ。
どうしても自分のやり方や感覚、価値観で考えてしまう。
でも自分の常識を押し付ける気はないし、それを本人がおかしいと思うなら本人が正せばいい。」
「…僕は早めに本物の剣に慣れていて良かったと思っています。
握った感触、重さ、剣と剣が鍔迫り合う感覚、剣で何かを斬った時の感覚、知っているからこそ実践になった時迷わず剣を振れる。
その剣の重みの意味をしっかり背負っていく覚悟…とまでは言いませんが、ある程度心構えが出来たと思っています。
それにこの剣があったからこそ大切なモノを守れた。
守ることができる。
それだけで僕は十分です。」
「ギル…」
「だからこそ僕はこのやり方を否定しないし、リドが強くなりたいと願うのであれば僕は惜しみなく自分の力の全てを教えたいと思っています。」
俺の考えを伝えると重い空気が流れるが否定しようとする人は誰もいない。
誰もいないがなぜかククスもライルもうんうんと頷いている。
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