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二章 値踏みされる悪女
①④
こうしてシャルレーヌががっつくような態度を見せれば、妃たちは動かざるを得ない。必ず食いついてくるはずだ。
周囲から見れば、シャルレーヌが自分の役目を果たそうとヴィクトールにアピールしているように見えるだろう。
それに加えて自分たちの知らないところで何かの約束をしている。
(……気が気じゃないでしょうね。まだ自分たちですら一夜を共にしたことがないのに、帝国に来たばかりのわたくしが陛下と二人きりになるんですもの!)
まだ正妃争いが本格化していない段階ならば、一歩先んでるシャルレーヌのことが気に入らないはずだ。
それにシャルレーヌにはもう一つ企みがあった。
そのためにうまくヴィクトールを誘導しなければならない。
「いや、君の部屋に行く」
「かしこまりました。楽しみにお待ちしております」
ヴィクトールの予想通りの言葉にシャルレーヌの唇は弧を描く。
彼は妃たちを気遣った結果なのだろうが、逆にいい方に働いて何よりだ。
それに今、シャルレーヌがいる部屋は物置き部屋だ。
窓は一つしかなく、埃っぽくて狭くて過ごしずらいと普通ならば思うはずだ。
あの部屋を与えられて本気で喜んでいるのはシャルレーヌだけかもしれない。
そこに皇帝が来るとなれば一番焦るのは彼女だろう。
「──お待ちください!」
(かかったわね……)
シャルレーヌの思惑通りにすぐに彼女が声を上げた。
「……アナベル?」
「陛下がいらっしゃるのなら、後宮のサロンでお会いするのはいかがでしょうか」
「…………」
「シャルレーヌ様もそう思うでしょう?」
アナベルはまくしたてるように早口でシャルレーヌに話を振った。
シャルレーヌは不思議そうに首を傾げた。
「どうしてでしょうか。わたくし、与えられた部屋はちゃんと綺麗に整えましたわ」
シャルレーヌの発言にアナベルに焦りが滲む。
あの部屋を当てがったのは、やはり彼女で間違いない。
そこに皇帝が来ることになり、犯人探しが始まればアナベルにとってマイナスになってしまう。
(急いで情報を収集して正解でしたわね)
次に何を言うのか、シャルレーヌはワクワクして待っていた。
「シャルレーヌ様、ご自分が何をおっしゃっているかわかっているのかしら?」
彼女の言葉には自分たちを敵に回すつもりかという意味が含まれつつ、牽制しているのだろう。
「もちろんですわ。わたくしは今日を楽しみにしておりましたし、皇帝陛下もあまり見られたくないでしょうから」
「で、ですがそれは……」
手を合わせて微笑むシャルレーヌとは違い、アナベルには焦りが滲む。
エマニュエルは含みがある言い方が気に入らないのか額に青筋が浮かんでいた。
彼女を無視して、畳み掛けるようにアナベルに問いかけた。
「アナベル様はそんなに焦って、どうされたのですか?」
「……っ」
裏表が激しいとは聞いていたが、表でも随分と脇が甘いようだ。
シャルレーヌがこうして急接近するとは思っていないため仕方ないにしても、ここまで動揺して口ごもれば何かあると言っているようだろう。
(ルイとロミが受けた仕打ちにはまだまだ足りませんわねぇ?)
シャルレーヌは思いついたように手を叩いたあとに口を開く。
「あぁ、なるほどですね。皆さまが焦るようなことではありませんわ。皇帝陛下の魔法を間近で拝見させていただきたいとお願いしただけなのです」
その言葉に先ほどまでまったく興味がなさそうだったナタリーの目に光が宿る。
彼女は持っていたナイフとフォークを置いて、穴が空いてしまうほどにこちらを凝視していた。
(魔法にしか興味がないというのは本当ですわね。つまり彼女は陛下の魔法が絡むと動く可能性がありそうね)
ナタリーの目的をなんとなく理解したが今は関係ない。
彼女もヴィクトールの魔法を近くで見たいのだろう。
うずうずしているのがわかったが、ベアトリスに止められていた。
「それでしたら、わたくしの魔法をみせてさしあげますわ!」
「……?」
「侍女たちもさまざまな魔法を使いますのよ? いろいろな魔法を見ることができますからっ」
周囲から見たら、彼女の申し出は優しさに映るのだろうか。
ロミとルイの服を切り裂くように指示を出して、シャルレーヌを物置き部屋に案内した人物に思えない。
たしかに魔法を見たいだけならばそれで済む話だ。
けれど魔法具や普通の魔法ならば、ある程度シャルレーヌも知っているし想像がつく。
「普通の魔法でしたら、高が知れているので大丈夫ですわ」
「……なっ!」
「わたくしは父が唯一恐れた魔法がどのようなものか……直接この目で見てみたいなと思ったのです」
サンドラクト国王はナリニーユ帝国の皇帝がヴィクトールになると、一目置くようになった。
前皇帝など『あれはただの女好きだ。運がよかっただけのこと。ワシの相手にはならんな!』と豪語するほど。
よく馬鹿にしていたが、今回はヴィクトールにそのような発言をしていなかった。
主に戦いのことしか考えていない国王だが、彼の勘は本当によく当たる。
シャルレーヌも、彼の光のない無機質な瞳が底なしの闇のようで惹きつけられた。
「とっても恐ろしいと聞きましたので、わたくしも直接見て確かめたいですわ」
呑気なシャルレーヌとは違い、彼女たちはヴィクトールがどういう魔法を使うのかを知っているのかもしれない。
誰も言葉を発しない。ベアトリスだけは青ざめていた。
ヴィクトールがフッと息を吐き出すと口角が上がった。
ゾワリとした重苦しい空気がシャルレーヌを包み込む。
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