徒花の先に

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第三十四話 独占

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 俺は兄の幸せのために生きてきた。体の辛さに楽になりたいと何度も願いはしたが、その目的のために俺は生きてきたのだ。
 けれどもう兄はいない。生きる理由も消え失せた。
「イライアス兄様、今日はとても天気が良いですね。ほら見てください。雲一つない快晴ですよ」
 そうしてノエルがカーテンを開けて空を見せるが、俺は少しの興味も湧かなかった。
 体は回復したものの、俺はずっとこのベッドに横になったままだった。腹も減らないし、動く気力も湧かない。ただこうして天井を見上げるだけ。
「……イライアス兄様、アラン兄様が亡くなったからと言ってイライアス兄様までアラン兄様の真似をしなくともいいんですよ。……ふふ、けれどお人形のように動かない兄様も僕は好きですよ」
 ノエルがベッドに腰を下ろし、天井を見つめ続ける俺に顔を近づける。
「僕は皆のように兄様を憐れには思いません。むしろ嬉しく思います。だってこれで兄様はどこにも行かない。危ない戦場に自ら身を投じることもない。知っていますか? 兄様があの雨の中、アラン兄様のいる戦場に一人向かったと聞いて僕がどんなに心配したか。けれどもうその心配も必要ありません。兄様はただここにいればいいのです。ここにいて僕の元を去らなければそれだけでいいのです。たとえ兄様が生きる気力を失って一生お人形のようになってしまっても僕は兄様を愛し続けます」
 頬に手を添え、そう囁くように話す。前髪を払われ、露わになった額に柔らかい感触が当たる。
「兄様、貴方は一生俺のものです」
 頬を赤く染め、独占に酔いしれた瞳が俺を捉える。
 ああ、やはりノエルは自分と同類だったのだと微かに湧いた意識がそう告げる。けれどもう俺にはどうでもいいことだった。
 俺が誰のものになろうが、どうなろうが、兄を失ったこの生にもう意味はない。
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