異世界の裏口

千代子レイ子

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閑話 カメリアの今世

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 カメリア(お婆ちゃん)の今世は前世と違ってかなり波乱万丈だ。

 だがカメリアは物心付く頃には前世の記憶を鮮明に思い出していたため、回りが思うほど不幸でもなかった。



 ヤム男爵は元々伯爵家だったがカメリアの祖父、父親共に金に汚く傲慢な貴族そのものであり、男尊女卑も酷くその横暴さは目に余るほどだったらしい。

 だからだろう。祖母と母親が手を組み、長年虐げられた怨みを晴らすように次々と不正や信用を失いさせ、あっという間に男爵へと位を落とした。

 勿論憤怒した祖父たちは祖母たちに攻撃しようとするが長年の計画は完璧だった。怒りをあわらにした瞬間、祖父は倒れたのだ。此方で言う梅毒みたいな病にいつの間にか罹ってしまっていたのだ。

 当然祖父は治療の為その地位を退くことになり、父親が当主を勤めることとなる。だが傲慢で小心者の父親に傾いてる財政を戻す力もなくすぐに破綻する。

 母親はそれを見届けると即、離縁して金持ちの商人の後妻になった。祖母は倒れた祖父の怨みが激しく、治療をそれはそれは苦しく辛いものに変え、苦しむ祖父に永遠と罵倒と摂関を繰り返し精神的にも追い詰めた。なので祖母を見るだけで祖父は発狂するほどに心を折られてしまっていた。

 やはり長年虐げられた怨みは深く、同じ年月を年を取って不自由になってから払わされるとは祖父も思わなかったのだろう。祖父の死後遺体は墓に入れられず、名前も消され存在そのものを無くされていた。

 そしてカメリアたちはそんなお家騒動も知らず地方の領地で兄妹仲良く、すくすく成長していた。だから父親が夜逃げして当主として呼ばれるまで2人は両親の存在さえ知らず元気に過ごしていたのだ。

 なので初めて会った無表情な女性が母親と言われても何も感じない。

「あなたたちには酷いことをしたわ。怨むなら怨んでも構わない。それだけのことをしたと自負してるから。だから私を利用したいならしてもいい。ただし1度だけよ」

 謝罪なのか何なのか傲慢に母親は再婚相手の住所と紹介状を渡した。父親への怨みの深い母親がした最初で最後の慈悲と言う名の償いだったのかもしれない。

 兄妹は領地でのびのび育ったので、会ったこともない両親を怨むほどの関心はなかった。ただ領地で楽しく過ごせたのは間違いなくこの両親のおかげなので2人はお礼の意味も込めて借金返済と建て直しを行う。

 頭脳明晰な兄と前世の記憶がある税理士並みの妹が本気を出したら借金返済は直ぐに終わった。だが美し過ぎる兄妹は王都にいる貴族魑魅魍魎たちの格好の餌となってしまう。特に人外な美しさを持つ兄は男女問わず狙われるようになってしまいとても危険な状態となる。

 そこで急遽王都から領地にいた使用人たちを全員連れて来ることにした。

 だが王都の貴族は強かで強欲である。なんとか兄妹を手に入れようと躍起になり、あの手この手で兄妹たちを苦しめた。そんな矢先とうとう兄が倒れてしまう。

 本来なら医者を呼びたいが、他の貴族に今の兄を知られて隙を作るわけにはいかない。カメリアは考えた末、お金しか興味のないヤブ医者を頼った。だが思った以上にクズで絶望しかけた時、たまたま通りかかった愛妻家の冒険者、へルマンに救われる。

 このへルマンは唯一兄妹を普通の人間として扱ってくれる王都では珍しい人だった。しかも今、仕事で護衛している女性は懐かしい前世の孫娘にそっくりだ。嬉しくて泣きそうになるほどに……。



 それからは怒涛な日々だった。そしてあの娘はやっぱり前世の孫娘でカメリアはこの奇跡に感謝する。

 兄も今回のことで役目は終えたとヤム男爵の地位を国へ返還した。また自分たちを守ってくれた大切な使用人たちには出来る限りのお礼をして領地に帰ってもらうことになった。だが長年苦楽を共にしていたこともあり、別れの日は全員大号泣してしまう。


 そして兄妹は、ここで最後に母親の力を初めて借りる事にした。

「私たちを殺して下さい」
「……いいのね。もう戻れないわよ?」
「構いません」
「…………分かったわ」


 数日後ヤム男爵が没落したと同時に兄妹が森の中で変死体として見つかったとされた。貴族たちは美しい兄妹を殺した犯人に憤怒して一時期王都は荒れに荒れた。誰もかもがあの兄妹を欲していたので皆、疑心暗鬼になってしまったのだろう。

 だが母親のお陰で兄妹は誰に見つかる事もなくメークイン男爵に住むことになり、領地にいた頃と変わりなく静かに平和な時を過ごしている。




「先生! これは何? 何?」
「マリー嬢、何ではなく、何ですか? または何かしら? ですよ。さぁ、もう一度です」
「これは何ですか?」
「はい。良く出来ました。さすがマリー嬢ですね」

 あの兄も今は教師として幼い子供たちに色々教えている。見た目の美しさを知っていても領地の使用人たちと同じように接してくれるのが有難い。


「先生はね人外の美しさだけど結構腹黒いよ? 絶対天使とかじゃない。騙されているね! だってたまに笑顔で怒るし、例え話とか古臭いもん。中身はやっぱりおっさんだよね! マリーは知っている!!」

 花に自信満々に報告するマリーは知らない。その先生がまさにその笑顔で此方に向かって来ていることを……。


 あの日運命の出会いをしたカメリアは今世も幸せだ。
 
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