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33 誘拐よりも怖いもの
しおりを挟む花は、はっきり言って誘拐されたことでそれ以上の恐怖を今体験するとは思わなかった。
「もう世にも奇妙な物語じゃん……怖すぎて誘拐が可愛く見えるなんて思わなかったよ」
「?!! 俺は誘拐してない! それよりお前やっぱりそれ読めるのか?」
「……はい。私の母国語なので。ただ怖いことが書かれてましたよ。」
「母国語?! そうかその文字は異国のものだったのか!」
(イケメン誘拐犯はホッとしているが、この内容を教えたらまたパニックになるだろうなぁ)
「なら、これらも読めるか?」
また渡されたのは同じ表紙の物だった。これも日記だろうと花は少し恐怖しながらも受け取った。
内容はやはり日記だったがこれは初回なのだろう。内容が明るい。悪役令嬢でもめげずに下克上してやるとやる気に満ちている。たがやはりこの日記も途中で終わっていた。たぶん死んだのだろう。
その後も何冊か渡されて斜め読みしながら3冊読んでから花は気分が悪くなった。
(鬱になりそう。日記が終わる度に死んだと分かるから辛い……。しかもこれはもしかしたら私も何かしら影響ありそうで怖い)
たがここでふと花は思い出した。この日記を読むに悪役令嬢になってしまった女性。もし前世の記憶じゃなきゃこれは精神だけがこちらに来た人。
乗っ取りなのか入れ替えなのかは分からないがつまりこれは今の皇太子妃殿下のこと。
(あれ? その割には初回のような反応だったな。この日記の持ち主なら精神崩壊しててもいいのに変じゃない?)
「それでどういう内容だった?」
「……今日から眠れなくなりますし、精神がおかしくなりかけますけど……それでも聞きますか?」
「えっ……」
「ちなみに私はちょっと怖くて、今ここに貴方が居なければ発狂していたかもです」
「………………」
「それでも聞きますか? はっきり言って聞いたら呪いが発動したか思うほどですよ?」
「聞かない方がいいぞ」
背後から現れたのは無表情で生気の無い皇太子殿下だった。
「?!! 兄様!!」
「客人を誘拐するとはな……。しかも転移でこの部屋に来るとは盲点だった」
「?!! に、兄様はこの部屋をご存知なのですか?!」
予想外の答えに第二王子は驚いているが花は何となく今ので分かってしまった。
「あぁ。ここは俺の部屋だからな」
唖然と目を見開く第二王子を横目に花はこの皇太子殿下がある意味今回の黒幕じゃないかと思った。これだけ妃殿下の日記を隠しながら(どうやって持ち出したのかは分からないが)平然と過ごしている皇太子に対して狂愛を感じられずにはいられない。もはやストーカーが可愛く思えるほどだ。
「客人。弟が迷惑をかけたね。お詫びに私が妻の所までエスコートしよう」
美しい皇太子殿下の笑顔に何も知らなければ見惚れていただろうと花は思った。だが今回は恐怖でしかない。本当に妃殿下の所までエスコートしてくれるのか? 真実を知って消されるのではないかとその手を取るのに躊躇う。
「この場所はちょっと離れているから私も転移を使うけど我慢してくれるね?」
花に拒否権は無いらしい。そして今更イケメン誘拐犯は第二王子だったと判明。そりゃ案内人程度では止めることなど無理だったのだろうと今なら分かる。
(だが今は誘拐した第二王子の方が安全だわ。皇太子殿下は笑顔だけど目の奥がヤバい。深淵だ。まさに深淵をのぞく時、深淵も~を今まさに体感してるんですけど?!!)
だが花が蛇に睨まれた蛙状態でいると皇太子はサッと転移してエスコートを優雅にやってのけた。流石は王子様。場数が慣れていらっしゃる。
そして前回のデカイ植物園が見えてくると花は少しホッとする。しかし安心したとこでフラグとは投入されるものなのだ。
「君はキーマンだし、妻のお気に入りだから何もしないよ。だけど余計なことをしたら分かるよね?」
前方を見ながら何気なしに笑顔でメチャクチャ釘をさされた花は先程の背筋が凍る恐怖を思い出し、ヘッドバンキングかと思われるほど何度も頷いた。
「あら? 殿下が花を連れて来て下さったの?」
「えぇ。どうやら弟にちょっかいを出されていたようで彼女も困ってましたよ」
「……はぁ。誘拐されたって聞いたから慌てたけど…………。花、ごめんなさいね。私第二王子殿下に嫌われているからそのせいで巻き込まれたんだわ」
「いえ、私は大丈夫ですから。それより連れのものを知りませんか? 今もまだ探しているかもしれないので……」
「あぁ。それなら私が先程部下に連絡したから直ぐにこちらに来るだろう」
「まぁ! さすが殿下ですわ! ありがとうございます!」
「えぇ。貴女の大切な客人ですからね」
皇太子殿下が妃殿下を見つめる目が暖かい。本当に愛していることが表情、動作、声に現れている。
さっきまでの人を締め上げるような怖い笑顔はそこにはない。
(……でも何だろう。この不思議な違和感……)
誘拐されたのにそちらの恐怖より何故か皇太子といるこの空間の方が恐ろしく感じる花はそっと両手を握りしめた。
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