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37 さつまいもは天使の涙となる
しおりを挟む男爵家のシェフかパティシエかは分からないが花のレシピで芋ケーキを早速作ってくれた。
「これ、なんかパスタみたい!」
いつの間にか男爵の息子もちゃっかり芋のお菓子を嗅ぎ付けてやってきた。
「これはモンブランというケーキですよ」
「じゃ、このテカテカしてるのは?」
「スイートポテトですね」
「これは?」
「それはクッキーですね」
「あっ、それには名前ないんだ」
「まぁ、好きに付けていいですよ」
「では、黄昏に消えゆく魂はどうだ?」
(……この男爵……厨二病患者か? さっきからネーミングセンスが痛いんだけど……)
男爵の息子にはいつものことなのか父親に、もう名前が付いているスイートポテトやモンブランにまで指をさして聞いている
「なら、これは?」
「んー……そうだな純愛の薔薇はどうだ?」
「おぉ!! じゃ、これ!」
「んー……深海に積もる雪……いや、雪より愛がよいかな?」
「…………」
(天使の涙が普通に思えるほど、ヤバい拗らせかたをしていらっしゃる……)
命名が終わると早速ケーキたちを頬張る息子は終始笑顔だ。
「美味しい!! やっぱり悪魔の種の仲間なんて信じられないよ!!」
「はっはっは! これからその悪魔の種と天使の涙の配合種が出来るぞ! 楽しみだな!」
「美味しければ何でもいいよ」
男爵の息子はモンブランとスイートポテトを食べ終わるとクッキーを何枚か紙袋に入れて部屋に戻っていった。
そして花は息子が退出したタイミングで今回の訪問目的を話す。
「それで男爵、申し訳ないのですが他の事でちょっと忙しくなるかもしれないので一旦アンノン商会から脱退しようかと思っているんですがどうすればよろしいですか?」
「それなら、休暇申請を出すかい? ……でも花令嬢が私へ芋研究の手伝いを手が空いたときにして貰えるのならば必要ないんだがね?」
「芋本の複写とかですか?」
「そうだね、そういう仕事とかだ」
(それは確かに有難い。折角アンノン商会との伝手が出来たのに手放す選択は出来ればしたくない……)
「では、今まで通りでお願いします。芋関係の依頼は手紙かへルマンに頼んでください」
「分かった」
こうして一先ずアンノン商会の件は落ち着いた。
「今日はオリバー一言も喋らなかったね」
「仕事だからね。護衛に徹してた」
「さすが一流の冒険者だね!」
「惚れ直した?」
「うーん…。直したと言うより益々惚れたかな?」
「!!! 花ー!! 俺も好き!!」
男爵が貸してくれた鳥車中でオリバーは花に抱きついた。
「えっ?! ちょっ、仕事中じゃなかったの?!」
「男爵との会合は終わったでしょ? ほぼ終わり!」
「えぇー?!!」
密室に2人っきりと言うことでオリバーの理性が揺らいだのか、帰りの鳥車では恋人らしくイチャイチャしていた。
(もう、これじゃ、へルマンのこと言えないじゃない!!)
屋敷に戻ると何故か玄関で珍しくカルロスが待っていた。
「よぅ! シッター! 待ってたぜ」
「? 私ですか?」
「おぅ! 天使の涙くれ!!」
「…………はっ?」
「……カルロス……お前いつからそんなにロマンチストになったんだ?」
「なっ、芋だよ! 芋!! 芋の名前!! 品名なんだからしょうがねぇだろ!」
真っ赤になりながら否定するカルロスを見て芋男爵はなんて罪深い事をしたのだろう……とその厨二病ネーム被害を想像した。
「はい、はい、玄関で喧嘩しないで下さい。渡しますから。それで生でいいんですよね?」
「? 生以外にあるのかよ」
「ありますよ。焼き芋とか加工品とか」
「えっ? 焼くのか?!」
「えぇ。まぁ蒸かし芋もありますけど」
「…………」
カルロスはサツマイモの加工品話をしたら考え始めてしまった。
「……後、種類は何にすればいいですか?」
「はっ? 種類?」
「品種ですよ。甘さが濃厚なやつかあっさりか、ホクホクかしっとりかなど色々ありますから」
「えっ、そんなに細かくあるのか?」
「もっと細かくもできますけど?」
「…………」
きっと品種なんて1つしかないと思ったんだろう。カルロスの顔はもはや虚無顔だ。
「それにしても何で急にその芋が必要なんだ?」
「…………い、いいだろ別に!! 金はちゃんと払うんだから詮索とかすんじゃねぇー!!」
もはやリンゴのように真っ赤になった顔で反論するカルロスは恋する思春期男子そのものに見える。
「……好きな子にでも頼まれましたか?」
「なっ、ばっ、そ、そんなんじゃねぇーよ! 別にあいつのこととかどーでもいいし、お、お礼だ!!」
(分かりやすい)
甘酸っぱい学生時代を彷彿とさせる態度に、こちらも暖かい眼差しを自然と送っていたようでカルロスはその後も1人憤慨していた。
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