異世界の裏口

千代子レイ子

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45 撫子

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「あ、あの! とりあえず説明して貰ってもいいですか? 理由も分からず殺されるのはごめんです!」
「ふん! 撫子を連れていかなければそんなことはしない」
「……そう言うところが嫌われる要素なのでは? 俺様系が好きじゃない人にはモラハラでしかないですよ?」
「モラハラ?」
「精神的いじめ?」
「……モラハラか。懐かしい言葉ね」

 美しい撫子は花の言葉に郷里を思い出したのか、少し落ち着いたようだ。

「私はね田中撫子。都心でお金無いから激安事故物件を借りて生活してたの。あっ、事故物件といっても殺人現場とか自殺があったとかじゃなくて住むと行方不明者になる人が多いとかの不気味系だったの」

 (それ心当たりしかない! 家の借家です! 本当にすいません!!)

「そこで毎晩お経が聞こえて寝れないからある日うるさい扉を明けて苦情を避けんだのよ。そしたらそこは神殿で何かの儀式をしている最中だったからとても焦ったわ」
「儀式ですか」
「雨乞いの聖女を呼ぶ儀式だ」
「そう、そこで殿下とも初めて会ったわ。勿論笑われてね。でもそのお陰で私はお咎めがないと分かって安心したの。その時は心の広い方で良かったと思っていたけどね」
「…………」

 殿下の手が強く握り締めすぎて微かに震えている。

「でも違ったの。確かに私は雨を降らせる能力みたいなものがあったけど後は普通の人間。非力な女性なのよ」
「えっ、まさか……」

 そっと殿下の方を伺うと苦虫を噛み潰したような顔でうつ向いている。

「聖女の形が同じか確かめたかったそうよ」
「それって、こちらの女性と同じように孕むかってことですか?」
「聖女の血が入った子供が欲しかったのはそうなんでしょうけど、彼は興味本意だけで私の身体「ちがう!!!」
「遊びたかっただけでしょ!! 嗤ってたじゃない!! 愛してる? レイプ犯が何いってんのよ!!」
「本当に愛してるんだ!!」
「免罪符のように言わないで!! 強姦魔!! もう子供も出来ないって分かったんだから用済みとして解放してよ! 功績は十分なはずだわ!」

 撫子はそのまま顔をおって号泣してしまった。殿下はすぐさま撫子の元に駆け寄ろうとしたが、それを花は制する。

 流石に今は火に油を注ぐ行為だ。

「殿下、彼女を失いたくないのならば今だけそっとして貰えませんか? 扉に護衛を置いて少しでもいいので二人きりで話させて下さい」
「……分かった……」

 そうして殿下は泣いている撫子を何度も振り返りながら出ていってくれた。

「……撫子さん。殿下はもういないので大丈夫ですよ」
「うん。 うん……」

 そっと背中を撫でて落ち着かせると、こちらの世界に来てから今までの事をポツリポツリ話してくれた。

 内容を要約するとシンデレラと美女と野獣をミックスしたような体験をして、そこで今の殿下に本気で気に入られて皇太子妃にされたそうだ。

 そこには勿論聖女の血が欲しいと言う思惑もはらんでいて今まで逃げることが出来なかったが、今回着物の花を見つけて希望を胸にここに来たと言うことだった。

「なるほど……」
「……私は鳥籠からずっと抜け出せなかった。やっとなの。やっと帰れる希望があなたなの!!」

 カサッ、いつの間にかテーブルに1枚の紙が置いてある。そこには離婚を願う嘆願書。

「……どうしてここに……捨てられたと思った……」

 そっと紙を拾うともう1枚正式な離縁届けの用紙があった。それを見ると撫子は顔をくしゃりと歪めて胸にそっと抱いた。

「ありがとう。ありがとう。受理されなくても私の意思は表明出来る……」

 涙を拭うと撫子は花にペンを要求する。周りを見渡してもそれらしいものはない。なので花の鞄に入っているボールペンを渡した。

「懐かしいわね……」

 渡したボールペンを愛しそうに眺めた後、撫子は用紙に必要事項を書いて最後に自分の名前を書いた。こちらの文字と日本語で……。

 書き終わると扉をノックする音と共にこちらの皇太子が現れた。まるで見ていたかのようだ。

「ノックをしたのなら返事を待ってから開けるものでは?」
「そうだね。では次からはそうするよ。それよりその用紙を貰えないかな?」
「……何故です?」
「くれるのなら転移魔法を2人にかけてあげるよ。屋敷に帰りたいだろ?」
「オリバーはどうするつもりですか?」

 撫子をそっと後ろに庇いながら皇太子をじっと見つめる。

「そうだった。君のパートナーもいたよね。すっかり忘れてたよ。ごめん、ごめん。書類に集中し過ぎて頭から抜けてた。害のないものは眼中になくてね」
「それはある意味良かったです」
「では、改めて。3人一緒に屋敷まで転移させてあげるからその書類を頂戴」
「そんな簡単に信用「いいわ! だからすぐにでもして!」
「な、撫子さん?!」

 驚く花を無視して撫子は書類を皇太子に渡した。それを確認すると笑顔で「ありがとう」と一言告げる。

 次の瞬間気付けば屋敷の玄関に3人まとめて立っていた。

「「えっ?」」
「……」

 驚いた花、状況が飲み込めないオリバー、落ち着こうとしている撫子がそっと屋敷をみている。

「……やっと帰れるのね……」

 
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