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薔薇の毒(4)
しおりを挟むひぐっと嗚咽がひとつもれ、滲む視界の中で捉えたのは常に冷静沈着なラルド様の未だかつて見たこと無い焦った表情。息苦しい胸をギュッと押えながら懸命にその姿を見つめているとみるみるうちに距離は縮まり、駆け寄ってくる姿に思わずそっと手を伸ばす。
縋ってはいけないとわかっていても、奥底の記憶が求めてしまう―――
「ラズ様!」
もう一度強く名前を呼ばれる。今の僕の名前を。
「ラルド…様……」
ただ偶然ここを通りがかっただけかもしれない。
それでも、見つけて駆けつけてくれるその姿がかつての貴方と重なって、とっくの昔に封をした抱いてはいけない感情が再び目覚めてしまいそうで恐ろしいと思う反面、今は何も考えず楽になりたかった。
お互い伸ばした手はあとほんの僅かで届く―――
「っ!」
その僅か少しの距離を残して、突如察知したピリッと張り詰めた空気に慌てて手を引っこめる。
同時にバッと振り返れば、ローズ様が立つさらにその奥から颯爽とやってくるその人物の姿を捉えた瞬間、いままでとは違う意味で心臓がバクバクと高鳴っていた。
「ラズ」
「っ、―――クオーツ…様……」
ここに呼んでと言ったのは間違いなく自分なのに、ラルド様に縋ろうとした姿を見られたかもしれないという焦りから口を出た呼び方がついよそよそしいものになってしまい、バツの悪さに更に顔が上げられない。
やばい、これはやばい…怒ってる……?
僕にならまだしも、ラルド様に迷惑はかけられない……どうしよう…クオーツの顔が見れない……
どうしよう、やばい、このふたつばかりが頭の中をぐるぐる駆け巡り、そうこうしてる間にも着々とクオーツの気配が近づいてくる。そして僕のすぐ後ろではラルド様の立ち止まった気配も感じた。
間にいる僕だけが金縛りにあったかのように動けない。
そんなグズグズする僕をクスッと嘲笑い、ぱっと動く人影が視界の端でチラついた。
「クオーツ様ぁ~!大変ご無沙汰しておりますなかなかお会い出来ずこのローズとてもとても寂しゅうございました」
軽快な足取りで奏でるヒールの甲高い音と、ローズ様の場違いすぎる猫なで声が廊下に響く。
すぐ隣にいるマリンから小さく「うげぇ」と嫌そうな声が漏れ聞こえ、つられて恐る恐る視線だけ上げれば嬉しそうにクオーツの元へと駆け寄るローズ様。そんな光景を目の前に唇をギュッと噛み締め、何を言うでもなく再び視線が下がっていく。
流石のクオーツも王族の一員であるローズ様を蔑ろにはできないだろう。
ローズ様が何を言うか知らないが、どうせ僕にとって不利な事を言うに違いない。それに今表立って僕の味方をするより、ローズ様の機嫌を取ってくれた方が後々めんどくさい事にはならない。
それが一番得策なんだ。
いいよ、大丈夫……僕は慣れてる。慣れた。
「聞いていらっしゃいます?クオーツ様」
ほら、ローズ様が話しかけてるんだから早く返事しないと。
「ねぇ、クオーツさ―――」
「ラズ、いつまでそうしてるの?」
「!」
咄嗟にぱっと顔を上げ、すぐさま重なる視線に目を見張ってしまった。
まるでクオーツにはローズ様が見えていないかのように、僕だけに視線を向け手を広げ待っている。
なんで……怒って、ない……?
その証拠に、僕に向けて流れてくるクオーツのフェロモンが、優しく、温かかった。
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