【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
12 / 141

薔薇の毒(4)


 
 ひぐっと嗚咽がひとつもれ、滲む視界の中で捉えたのは常に冷静沈着なラルド様の未だかつて見たこと無い焦った表情。息苦しい胸をギュッと押えながら懸命にその姿を見つめているとみるみるうちに距離は縮まり、駆け寄ってくる姿に思わずそっと手を伸ばす。
 
 
 縋ってはいけないとわかっていても、奥底の記憶が求めてしまう―――
 
 
「ラズ様!」
 
 
 もう一度強く名前を呼ばれる。今の僕の名前を。
 
 
「ラルド…様……」

 
 ただ偶然ここを通りがかっただけかもしれない。
 それでも、見つけて駆けつけてくれるその姿がかつての貴方と重なって、とっくの昔に封をした抱いてはいけない感情が再び目覚めてしまいそうで恐ろしいと思う反面、今は何も考えず楽になりたかった。
 
 
 
 お互い伸ばした手はあとほんの僅かで届く―――
 
 
 
「っ!」
 
 
 その僅か少しの距離を残して、突如察知したピリッと張り詰めた空気に慌てて手を引っこめる。
 同時にバッと振り返れば、ローズ様が立つさらにその奥から颯爽とやってくるその人物の姿を捉えた瞬間、いままでとは違う意味で心臓がバクバクと高鳴っていた。
 
 
 
「ラズ」
 
「っ、―――クオーツ…様……」
 
 
 
 ここに呼んでと言ったのは間違いなく自分なのに、ラルド様に縋ろうとした姿を見られたかもしれないという焦りから口を出た呼び方がついよそよそしいものになってしまい、バツの悪さに更に顔が上げられない。
 
 
 やばい、これはやばい…怒ってる……?
 僕にならまだしも、ラルド様に迷惑はかけられない……どうしよう…クオーツの顔が見れない……
 
 
 どうしよう、やばい、このふたつばかりが頭の中をぐるぐる駆け巡り、そうこうしてる間にも着々とクオーツの気配が近づいてくる。そして僕のすぐ後ろではラルド様の立ち止まった気配も感じた。
 間にいる僕だけが金縛りにあったかのように動けない。
 
 
 そんなグズグズする僕をクスッと嘲笑い、ぱっと動く人影が視界の端でチラついた。
 
 
「クオーツ様ぁ~!大変ご無沙汰しておりますなかなかお会い出来ずこのローズとてもとても寂しゅうございました」
 
 
 軽快な足取りで奏でるヒールの甲高い音と、ローズ様の場違いすぎる猫なで声が廊下に響く。
 
 すぐ隣にいるマリンから小さく「うげぇ」と嫌そうな声が漏れ聞こえ、つられて恐る恐る視線だけ上げれば嬉しそうにクオーツの元へと駆け寄るローズ様。そんな光景を目の前に唇をギュッと噛み締め、何を言うでもなく再び視線が下がっていく。
 
 
 流石のクオーツも王族の一員であるローズ様を蔑ろにはできないだろう。
 ローズ様が何を言うか知らないが、どうせ僕にとって不利な事を言うに違いない。それに今表立って僕の味方をするより、ローズ様の機嫌を取ってくれた方が後々めんどくさい事にはならない。
 
 それが一番得策なんだ。
 
 いいよ、大丈夫……僕は慣れてる。慣れた。
 
 
「聞いていらっしゃいます?クオーツ様」


 ほら、ローズ様が話しかけてるんだから早く返事しないと。


「ねぇ、クオーツさ―――」


 
「ラズ、いつまでそうしてるの?」


 
「!」
 
 
 咄嗟にぱっと顔を上げ、すぐさま重なる視線に目を見張ってしまった。
 
 まるでクオーツにはローズ様が見えていないかのように、僕だけに視線を向け手を広げ待っている。
 
 
 なんで……怒って、ない……?
 
 
 その証拠に、僕に向けて流れてくるクオーツのフェロモンが、優しく、温かかった。
 

 
 
 
感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」