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妊娠の予兆(2)
それは午後からの予定に向け、マリンに髪の毛をセットしてもらっているほんの少しの間のこと。
「ラズ様眠いですか?」
「ん~…ぽやぽやする…」
手持ち無沙汰に鏡を見つめているうちに、いつの間にかうとうとしていた。
話しかけられなかったらこのまま寝落ちしていたパターンのやつ。
昨夜も早々にベッドに入りたっぷり寝たのに…人間の睡眠を欲する貪欲さは無限大だ。
目をしょぼしょぼ擦っているとすかさず、擦らないで、と注意が飛んできた。
「う~ん…そうだなぁ言われてみればいつにも増してぽやぽやしてる…かも?どうします?お茶会、キャンセルしましょうか?」
「……なんか、いつもぽやぽやしてるみたいじゃん」
「ぽよぽよは脱しましたよ」
「!?」
ムキーッとマリンに憤慨していると、いつの間にか眠気も消え去り、数秒考えた後「大丈夫そう」と予定通り準備を進めた。
今日は久しぶりの奥様会の日だった。
発情期を終えたばかりということもあり、また根掘り葉掘り色々な事を聞かれるのだろう…と今からゲッソリしながら会場である庭園へと向かう。
先頭を歩く僕の後ろにはマリンの他にラルド様も付き添ってくれていた。
そういえば僕付きの護衛騎士になってから初めての会だと気付く。
前回不運にもこの会に巻き込まれ奥様方の興味関心を集めまくっていた事もあり、これまた格好の餌食にされそうだな、と申し訳ない気持ちでチラッと見上げれば、丁度ラルド様も僕のことを見ていたのかバチッと視線が重なった。
シンプルに目を見開くラルド様の珍しい表情に内心、えぇぇっ!?とトキメキが口からとび出そうになる。
最近色々ありすぎて、ご無沙汰していた推し活のあの感覚が一気に呼び起こされた。
しかし、この至近距離だ。
下手な事はできない、と自分を戒める思いで口を押え、ふーふー深呼吸を繰り返しながら冷静に、冷静に、と自分に言い聞かせ、ゆっくりと口を開いた。
「ど、どうかしましたか?」
「……いえ、なんでもありません失礼しました」
すぐさまフイッと視線を逸らされる態度に、しゅん…と沈みそうになる。
先日感じたラルド様の違和感は今も現在進行形で、なんなら日に日に増していた。
推しに……嫌われた……
ガーンと受けた衝撃はじわりと涙に変わり溢れそうになる水分を誤魔化すべく前を向いてズンズン進む。
「ラズ様転びますよ~」という呑気なマリンの小言に「うるさいやいっ」と半分やさぐれモードだった。
*****
「御機嫌よう、ラズ様」
「まぁっラズ様、いつにも増して肌艶がツルツル!輝いておいでですわぁ!やはり、陛下にたくさん愛された証拠ですね」
「たっぷり一週間お二人の時間を過ごされていらしたものね」
「羨ましい…うちの方なんて、もう───」
一番最後に会場入りした僕が席に着き始まったお茶会で冒頭数分のあいだに僕が口にできた言葉は「御機嫌よう」のごきげ、までだ。
質問されているようで答える隙がない。
もはやいつも通り、あははぁ…、と愛想笑いをし続けるしか為す術もなく、一気に話し始める奥様方の勢いに初っ端から押されていた。
「そういえばラズ様!とうとう護衛騎士をお付けになられたそうですね?私達にもご紹介くださらない?」
その話題を振られた瞬間、キタ…と身構えた。
小さくふぅ、と息を吐くと後ろに控えるラルド様をチラッと確認し、無難かつスマートにサラッと紹介した。
「えぇ、そうですね。クオーツ様が、騎士団長を私の護衛騎士にと付けてくださりました。良くやってくれています」
雰囲気を察し、座る僕の後ろにスッと歩み出たラルド様は綺麗なお辞儀を奥様方に送ることで、奥様方から一斉に、はぁ…と感嘆が上がる。
わかる。その気持ち、すごくわかる。
振り向くことは出来ないが僕もその姿を見ていたら同じように、はふ…と息を漏らしていたに違いない。
とにかく、紹介も終えたことだし、これ以上は何も言いません、そんな態度を見せるべく、ここは飲み物を飲んで誤魔化そう。
淹れてもらってから一度も口付けていなかった目の前のティーカップを持ち上げ顔の前に持っていく。
紅茶の良い香りがふわりと香った、その瞬間───
「っぅ!?」
突如、今まで体験したことの無いような強烈な吐き気に襲われた。
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