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SS・IF・パロディー
【SS】知らなくていいこと(2)
しおりを挟む密かに息を呑む僕に気付かず、ラルドの問いかけは続く。
「翡翠様を最期までお守りできなかった事が、記憶を取り戻してから過ごした長年の私の心残りでした……あの様な状況で心細い思いをさせてしまい申し訳ありません、あの後すぐに助けは来ましたか?」
「……うん、ボロボロだったけどなんとか助けて貰えて、しっかり蒼唯を見送ったよ」
「そうでしたか」
無理やり作った笑顔はラルドに変に思われなかっただろうか。
これは真に最後まで取り残された水晶様以外知る由も無いことで、その水晶様と同じ魂を持つクオーツにもその記憶はない。
僕さえ黙っていれば今後もこの嘘は貫き通せる。
蒼唯の最期と同時に翡翠も最期を迎えたことは、誰も知らなくていい。もう既に終わったことなのだ。
ふぅ…と小さく息を吐き、大袈裟なくらいにっと笑みを送ることでこの話を終わらせる。
それを察したラルドもこれ以上聞いては来なかった。
「それにしても、結局また今回も同じ人とくっつく事になるなんて……不思議な縁だね」
「……そうですね」
ティーカップを傾けながら独り言ちる。
蒼唯に想いを抱きつつ、家が決めた婚約者水晶様との人生に覚悟を決め歩み出そうとした志半ばで終わった前世をやり直すかのように、再び今度は運命の番という更に強い縁で結ばれた。
水晶様が翡翠にどんな想いを抱いてくださっていたのか正直のところ最後まであの方の本心はわからなかった。けれど、まっさらな状態で出会ったクオーツは初対面からわかりやすいくらいの想いをぶつけてきた。
「クオーツ様にお伝えしないのですか?前世の婚約者であること。記憶は無いにしても、我々の関係性だけはご存知なのですよね」
「……言わない。本当は前世の記憶のことだって言う必要なかったのに、話さないとどうにもならなくて…あの時の僕には逃げるすべも誤魔化すことも出来なかったなぁ…無力な子供にあの野郎…」
「一週間お屋敷にお帰りにならなかったですもんね」
「……あいつマジでやばい」
当時まだ実家暮しで当然クオーツと番になる前、ラルドばかり追いかける僕に嫉妬したクオーツの監禁に近いあのやり取りを思い出すだけでゾッとする。
本気で洗脳されるかと思った。
頭をブンブン振り回し無理やり記憶から追い出すとため息で気持ちを切替える。
「とにかく、水晶様という繋がりはあるかもしれないけど、クオーツはクオーツだから。ラズとしての僕しか知らないクオーツ同様、僕もクオーツとしてイチからあの人と向き合って……結果まぁこうなってるから、これからもこのまま現状維持!ラルドもクオーツに言わないでね」
「わかってますよ、私は今まで通りあなた様を見守っているだけです」
「ふふ、いつの時でも僕の味方でいてね」
「はい」
常に一歩下がった後ろからラルドが見守ってくれている事が心強い。引き続きよろしく~と笑みを送っていると、突如奥の方から扉が開く音が聞こえてきたかと思えばげっそりしたマリンが戻ってきた。なんだか色々あったらしい。
戻ってきて早々ラルドと立ち位置を入れ替わるようにして世話係としての仕事をし出すマリンは僕の周りのお茶類に手を伸ばし新しいものを淹れ直しながら「聞いてよラズ様~」とマシンガントークが止まらない。
そのタイミングで今まで静かにすやすやと眠っていたジェイドが突然目覚め、同時にグズりだすとその場は一気に賑やかな空間となった。
「んわぁ~どうしたどうしたジェイちゃんお腹空いた?どちたの~、ん?」
「びやぁぁぁぁっ」
「ラズ様お召し物はどうですか」
「濡れ……てない…」
「んぎゃぁぁぁっ」
「ひーっ止まらない~~」
慌ただしくジェイドのお世話をああでもないこうでもないと三人がかりで奮闘しながら不意にラルドと視線が合った。
各々確かに一度終わった人生が、輪廻を巡り再びこうして新たな人生として踏み出している。
願うことはただ一つ。
今世は更にいい人生だったと笑って最期を迎えられますように───
そう願いながら今日を生きている。
【知らなくていいこと】END
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