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SS・IF・パロディー
【SS】納涼イベント(1)
しおりを挟むミーンミーンミーン───…
季節特有の大合唱はどうやらこの時代でも共通のようで、耳からも暑さを加速させる。
そんなうだるような暑さの中、最近僕は目から涼を取り入れる手段を確立した。
バシャッと上がる水飛沫。
太陽の光を受けてキラキラ光る光景は降り注ぐ相手によってより一層眩しく見えた。
「はぅ……水も滴るいい男───うっわ、ラルド様の綺麗に割れた腹筋やぁば……おっと涎が…危ない危ない」
「……ラズ様、水浴び中の騎士達を覗いて涎垂らすのやめて、変態すぎる。覗き行為だし」
「ちっちっち、何を言うんだいマリンさんや。あんな素晴らしい芸術を鑑賞することに何か悪い事でもある?かの有名な絵達の裸を鑑賞するのにいちいち変態って言う?」
「……クオーツ様のお姿が描かれた絵には見向きもしないくせに」
「興味無いもん」
「……」
背後から聞こえてくるこれみよがしのため息を完全に無視し、少し離れた眼下に広がる光景から一向に目を逸らさない。
「はぁ……ずっと見てられる」
「暑いっすよぉ」
◆◇◆◇◆
事の始まりはたまたま耳にした立ち話。
メイド達が仕事の手を止めきゃっきゃと楽しそうに話しているのを、いつもなら邪魔してはいけないとサッと立ち去るのだが、その会話から『ラルド様』という単語をキャッチしたのは僕の本能とも言える。
要約すると、訓練を終えた騎士達が城内の小さな湖で涼んでいるらしい。
そんな話を聞いてしまったらいてもたってもいられない。ちょっと散歩がてら行ってくる、と暑さ対策ゼロで飛び出そうとする僕を慌てたマリンが後を追い、たどり着いた木々の隙間。覗いたそこには例えようの無い素晴らしいパラダイスが広がっていた。
それから決まってこの時間、訓練終わりの騎士達───もとい、ラルド様を眺めるのが僕の納涼イベントとなっていた。
緊張感から開放された騎士達の笑い声。
それを見守るラルド様の表情も比較的柔らかい。
「……ラルド様楽しそ~」
「確かにそうっすねぇ珍しい」
「───あっ」
そんな時、上半身をさらけ出し濡れたタオルで拭いているラルド様に忍び寄る一人の命知らずな騎士が思いっきり水をかけにいく。
不意のそれにさすがのラルド様も避けられず、真っ向から水を浴びてしまっていた。
「うわぁ激レア!あの人ナイスすぎ、金一封あげたい!コソッとあげてもいいかな」
「いいわけあるかい」
「けちぃ…」
いい事をした部下には相応の報酬を。そうすればみんなの士気が上がり、より一層ラルド様のラッキーショットを生んでくれるだろう、そんな目論見はマリンの良しが出ませんでした。
そうこうしているうちに、一度濡れてしまったラルド様を他の部下達も一斉に狙いだす。くんずほぐれつな乱闘の末、気付けば全員、湖に入水していた。
「わぁ、わぁ、わぁぁっ」
「うわぁ…命知らずな人達…」
集中砲火を浴びるラルド様はもちろん黙ってやられっぱなしではなかった。複数人に負けない勢いの水圧を繰り出し、やり返す光景はいい歳した筋肉隆々な騎士達の水遊び。
いままで覗いてきた日々の光景の中でここまで激しいものは今日が初めてだった。
「いいなぁ涼しそ~僕もまざりたい」
「やめて、ダメですよ。ねぇちょっと聞いてます?ラズ様、振りじゃないからね、ダメだって」
「まぁまぁまぁ、これだけ天気も良ければすぐ乾くでしょ、ちょっとだけ~」
「待てぇぇぇぇっ」
目的のためなら秘めた力を発揮するオタク魂。マリンの必死な静止と捕縛をするりと躱し、一目散に騎士達の元へ掛けて行く。ちょっとまぜてもらえたらいいな、それくらいの気持ちで。
しかし、訓練の延長線上のような水合戦に発展していた騎士達は咄嗟の足音だけで反応し、振り向きざまに繰り出した複数の水の波動。唯一ラルド様だけが僕の存在に気付いたようだがその制止は残念ながら間に合わなかった。
「ばっ、お前達止ま───」
「ぎゃっ」
「「「え……」」」
辺りが恐ろしいくらいシーンと静まり返った。
ポタポタと、全身から滴る水と、身体にぴたりと張り付く冷たい布の感触。まだ入水前の足を着けた陸地に瞬く間に水たまりが広がっていく。
「え……っと…」
あまたの視線がずぶ濡れの自分に集まるのを感じた。
一拍遅れて状況を理解した騎士達の顔色がみるみる内に青ざめていくかと思えば何故か紅くもなっていく光景を、ぱちぱちと目を瞬かせぽかんと見つめる事しかできない僕。
そんな、誰もが固まった時を動かしたのはいつだって冷静なこの人だった。
「ラズ様、申し訳ありません。刺激が強すぎますので失礼します」
そんな言葉と共にふわりと包まれるタオルの感覚。
すぐ真後ろに立つラルド様がどこからか持ってきたタオルで隠してくれたのだと遅れて気付いてからふとタオルの隙間から見た自分の姿は、張り付くシャツが地肌をも透けて見せ、特に胸の二点の色付きがはっきり分かるほどだった。
昨夜の名残りでより一層紅く色付いてしまっている、そこを───
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