135 / 141
SS・IF・パロディー
【SS】納涼イベント(1)
ミーンミーンミーン───…
季節特有の大合唱はどうやらこの時代でも共通のようで、耳からも暑さを加速させる。
そんなうだるような暑さの中、最近僕は目から涼を取り入れる手段を確立した。
バシャッと上がる水飛沫。
太陽の光を受けてキラキラ光る光景は降り注ぐ相手によってより一層眩しく見えた。
「はぅ……水も滴るいい男───うっわ、ラルド様の綺麗に割れた腹筋やぁば……おっと涎が…危ない危ない」
「……ラズ様、水浴び中の騎士達を覗いて涎垂らすのやめて、変態すぎる。覗き行為だし」
「ちっちっち、何を言うんだいマリンさんや。あんな素晴らしい芸術を鑑賞することに何か悪い事でもある?かの有名な絵達の裸を鑑賞するのにいちいち変態って言う?」
「……クオーツ様のお姿が描かれた絵には見向きもしないくせに」
「興味無いもん」
「……」
背後から聞こえてくるこれみよがしのため息を完全に無視し、少し離れた眼下に広がる光景から一向に目を逸らさない。
「はぁ……ずっと見てられる」
「暑いっすよぉ」
◆◇◆◇◆
事の始まりはたまたま耳にした立ち話。
メイド達が仕事の手を止めきゃっきゃと楽しそうに話しているのを、いつもなら邪魔してはいけないとサッと立ち去るのだが、その会話から『ラルド様』という単語をキャッチしたのは僕の本能とも言える。
要約すると、訓練を終えた騎士達が城内の小さな湖で涼んでいるらしい。
そんな話を聞いてしまったらいてもたってもいられない。ちょっと散歩がてら行ってくる、と暑さ対策ゼロで飛び出そうとする僕を慌てたマリンが後を追い、たどり着いた木々の隙間。覗いたそこには例えようの無い素晴らしいパラダイスが広がっていた。
それから決まってこの時間、訓練終わりの騎士達───もとい、ラルド様を眺めるのが僕の納涼イベントとなっていた。
緊張感から開放された騎士達の笑い声。
それを見守るラルド様の表情も比較的柔らかい。
「……ラルド様楽しそ~」
「確かにそうっすねぇ珍しい」
「───あっ」
そんな時、上半身をさらけ出し濡れたタオルで拭いているラルド様に忍び寄る一人の命知らずな騎士が思いっきり水をかけにいく。
不意のそれにさすがのラルド様も避けられず、真っ向から水を浴びてしまっていた。
「うわぁ激レア!あの人ナイスすぎ、金一封あげたい!コソッとあげてもいいかな」
「いいわけあるかい」
「けちぃ…」
いい事をした部下には相応の報酬を。そうすればみんなの士気が上がり、より一層ラルド様のラッキーショットを生んでくれるだろう、そんな目論見はマリンの良しが出ませんでした。
そうこうしているうちに、一度濡れてしまったラルド様を他の部下達も一斉に狙いだす。くんずほぐれつな乱闘の末、気付けば全員、湖に入水していた。
「わぁ、わぁ、わぁぁっ」
「うわぁ…命知らずな人達…」
集中砲火を浴びるラルド様はもちろん黙ってやられっぱなしではなかった。複数人に負けない勢いの水圧を繰り出し、やり返す光景はいい歳した筋肉隆々な騎士達の水遊び。
いままで覗いてきた日々の光景の中でここまで激しいものは今日が初めてだった。
「いいなぁ涼しそ~僕もまざりたい」
「やめて、ダメですよ。ねぇちょっと聞いてます?ラズ様、振りじゃないからね、ダメだって」
「まぁまぁまぁ、これだけ天気も良ければすぐ乾くでしょ、ちょっとだけ~」
「待てぇぇぇぇっ」
目的のためなら秘めた力を発揮するオタク魂。マリンの必死な静止と捕縛をするりと躱し、一目散に騎士達の元へ掛けて行く。ちょっとまぜてもらえたらいいな、それくらいの気持ちで。
しかし、訓練の延長線上のような水合戦に発展していた騎士達は咄嗟の足音だけで反応し、振り向きざまに繰り出した複数の水の波動。唯一ラルド様だけが僕の存在に気付いたようだがその制止は残念ながら間に合わなかった。
「ばっ、お前達止ま───」
「ぎゃっ」
「「「え……」」」
辺りが恐ろしいくらいシーンと静まり返った。
ポタポタと、全身から滴る水と、身体にぴたりと張り付く冷たい布の感触。まだ入水前の足を着けた陸地に瞬く間に水たまりが広がっていく。
「え……っと…」
あまたの視線がずぶ濡れの自分に集まるのを感じた。
一拍遅れて状況を理解した騎士達の顔色がみるみる内に青ざめていくかと思えば何故か紅くもなっていく光景を、ぱちぱちと目を瞬かせぽかんと見つめる事しかできない僕。
そんな、誰もが固まった時を動かしたのはいつだって冷静なこの人だった。
「ラズ様、申し訳ありません。刺激が強すぎますので失礼します」
そんな言葉と共にふわりと包まれるタオルの感覚。
すぐ真後ろに立つラルド様がどこからか持ってきたタオルで隠してくれたのだと遅れて気付いてからふとタオルの隙間から見た自分の姿は、張り付くシャツが地肌をも透けて見せ、特に胸の二点の色付きがはっきり分かるほどだった。
昨夜の名残りでより一層紅く色付いてしまっている、そこを───
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」