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SS・IF・パロディー
【SS】血は争えない(1)
しおりを挟む「こらジェイド!ラルドが困ってるでしょっいい加減そこから離れなさい!」
「ばぁぁぶっっ」
「ジェイドォォォッなんなのっその頑固さ!一体誰に似ちゃったの!?」
「ばぶっ」
「まぎれもなくラズの子だね……」
「ですね……」
「もぉぉっ!」
これは、憤慨する大人と動じない幼児、そしてそんな二人に挟まれる形で巻き込まれた一人の可哀想な護衛騎士のプチ騒動のお話───
◆◇◆◇◆
時は遡ることランチタイムを過ぎた昼下がり。
午前中の過密スケジュールを終えほっと息をつくのもつかの間、いい子でお昼寝していたとばかり思われた我が国の第一王子ジェイドが、複数人の目を掻い潜り忽然と姿を消した、とそれはもう城中が大騒ぎになっていた。
執務中であった私の耳にもトール伝に入るやいなや迷わずラズの元へ取り急ぎ向かえば、そこには案の定可哀想なほど顔面蒼白の今にも泣き出しそうな様子でマリンに支えられた番がいた。
「ラズ」
「!クオーツ……っ!」
私の存在に気付いた途端、さらに目を潤ませ一直線に泣きついて来るラズを両手を広げて受け止める。
そんな場合ではないとわかってはいても、素直に頼られるのが嬉しい。
「うぇっ、クオーツ、クオーツどうしよ…ジェイド、どこ…どこにっ、僕が目を離したから…僕がっ」
「大丈夫、大丈夫だから安心してラズ。まず赤子ひとりではもちろん誰かに連れ去られたとしてもそう簡単に城内からは出られない」
「ホント…?」
「ふふ、それはラズが一番身をもってわかってる事でしょ?」
「……確かに」
「ほら、じゃあ一緒に探そう」
大丈夫すぐに見つかるから、と今にもこぼれ落ちそうな大粒の涙を拭い安心させようと宥めていると、遠くの方から段々と近付いてくる忙しない足音を捉えた。
そして───挨拶も程々に「ジェイド様を発見しました!」そう叫びながら報告する一人の衛兵が室内へ駆け込んできた。
「───!クオーツっ」
「うん、一安心だね。お前、詳しく聞かせて」
「はっ!」
普段あまり接点のない兵なのか、直接言葉を交わすことすらも慣れない様子で声が上擦りながらガチガチの敬礼をする兵に更に追い打ちをかけるとはつゆ知らず、無自覚の我が番は、たたっと駆け寄ると兵の手を取り至近距離からその顔を覗き込む。
「はぁぁ…本当によかった…うちの子を見つけてくれてありがとうございます」
「~~っ、い、いえっ我々の責務をまっとうしたまでであります!!」
「それでも本当にありがたいことだもん」
安堵からか、いつにも増してほにゃっと微笑む表情があどけない。その破壊力たるは私でもグッと来るものがあるというのに、耐性の無い者は尚更だろう。
そして……さっきから距離が、近い。
手だって、いつまで握ってるつもりだろうか。
「……」
「!?はっ、陛下っお、お許しをひぃぃぃっ」
「えっ!?どうかしましたか!?突然顔色が……」
「ラズ、そろそろジェイドを迎えに行こう?お前、さっさと案内して」
「はっ、はい───!!」
一人イマイチ状況を理解していないラズを丸め込み、ここに来た当初とは違う意味でガチガチの兵を先頭に、ジェイドを見つけたという場所まで向かう。
が、その先に待つ想像もしていなかった光景に、誰もがみな一様に目を見開き、言葉を失うのだった。
「……えっと、ラル…ド?だよね?」
「……はい、ラズ様」
「えっと、そのお腹にベッタリ張り付いてるのはもしかしてぇ……」
「ジェイド様です」
ですよね、と答えたラズの声はとてもちいさく、風の音で簡単にかき消される程。
それも無理はない。
いま我々の目の前には、騎士が体を動かすのに使用するグラウンドの休憩所で、見るからに運動後な様子で腰掛けるラルドの膝を小さな体で跨るように乗り上げ、腹にベッタリ抱き着いてご満悦な表情の我が子がいたのだ。
未だかつて、父である私にだってそんなにも積極的に張り付いてきたことはない。
「どういう状況───?」
そんなツッコミが誰からともなく発せられていた。
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