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4-10 闇オークション
しおりを挟む会話も、ラジオの音もない静かな車内。
流れる車窓からの夜景をぼぉっと眺め、時折窓に移る反射で男性が僕を見つめている事を知る。
初めのうちは背筋を伸ばし気を張って乗っていたが、怒涛の数時間、時刻はそろそろ朝日が昇ろうとしている頃。疲労がピークに達した身体はうつらうつらと舟をこいでいた。
「つかささん」
静かに名前を呼ばれ、肩を優しく引き寄せられる。
眠さのせいか鈍い反応は、男性の胸に寄りかかり包み込まれても全く動くことが出来なかった。むしろ不思議と落ち着くものに惹かれるように、無意識に男性の首筋へスリと擦り寄ってしまう。
「着いたら知らせます。寝ててください」
「……は、い」
初対面のはずなのに、名前も知らないこの男性に身体は既に慣れきっている。
不思議な安心感に意識を手放すのはすぐだった。
*****
見つけた――。
この世に生を受け、親より先に認識した運命の存在。
自分のではない記憶がその運命と共にすごした時間を渇望し、日々愛おしさと寂しさに気が狂いそうだった。
別に前世の記憶がある訳では無い。
その生涯を終え次に転生する度、運命の人と過ごした記憶だけが必ず受け継がれていた。
『楓真さん』
『フーマ様』
『楓真』
『楓真くん』
その時その時で呼び方や年齢、関係性は違えど、綺麗な微笑みで俺を呼ぶ愛おしい人。
つかささん――。
俺は今世、あなたを見つけられないまま24になりました。
一体どこにいるの……。
決まって、つかささんには記憶は引き継がれない。出会えたとしても、常に初めましてから始まる関係性。あなたと出会う瞬間は何度経験しても込み上げる感動が常に大きくなっていく。
たとえ、あなたに俺の記憶が無かったとしても、俺が覚えていて、俺があなたを見つける。
俺たちは運命――。
だから今世も、いつどこでつかささんと出会えるか、もしかしたら会えず終わってしまうかもしれない、そんな日々を過ごしていた。
まさかたまたま父さんの代わりに気まぐれに参加した貴族たちの悪趣味な会の大トリとして大勢の目の前に晒されるあなたを目にする日が来るなんて、そんな出会いは全く想像すらしていなかった――。
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