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第3章

負の根源(4)

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「陛下――っ」
「ひっ、何ですかあなた方――ぅっ」
「はぁい、いい子におねんねしててくださぁい」
 
 
 王が眠るベッドへ駆けつけるアランの後ろで、ここまでたどり着くのに後を着けたメイドのものらしき声が上がるが、すかさずルイの手刀で気絶させられていた。
 
 
「ナイスキャーッチ、カイ」
「女性に手荒な真似はダメですよ、ルイ」
「今の場合は致し方なし!」
 
 
 崩れるメイドをカイが受け止めているのをチラッと確認し、問題ないと判断するとそちらはルイとカイに任せ、アランは足早にベッドへ駆け寄った。
 遠目から王だと思ったベッドの上の人物は近くで確認してもやはり王で間違いなかった。

 胸の辺りまで綺麗に布団をかけられ目を閉じている。
 
 
「陛下……」
 
 
 顔色は芳しくないが、微弱ながら息はある。
 その事に一旦ホッと息を撫で下ろすと、改めてこの部屋一帯に目を走らせた。
 
 地下故にもちろん窓は無く、負傷者を看病するには圧倒的に不向きすぎる空間―――
 一体、誰が何故このような場所に王を置いたのか…身を隠し守るためだというのならまだいいが、それにしては見張り含め全てが手薄過ぎる。もし容態が急変してしまった場合、すぐに適切な処置ができるとは到底思えなかった。

 まるで自然と弱っていくのを放置しているかのような……
 
 そんな最悪な考えが一瞬頭をぎるが、すぐさま振り払うと手掛かりの少なさに今はまだ何もわからないと結論づけ、再び王へ視線を戻した。
 
 その時、固く閉じられた王の瞼が僅かにぴくりと動く気配を感じた。
 
 
「……セ」
「!?陛下!」
 
 
 意識が戻りかけているだけでなく、僅かに何か言葉を発している事にも気が付くとその場に膝を付きよく聞こえるよう耳を寄せ神経を研ぎ澄ませる。
 
 
「ヒ…ナセ……を、守…れ」
「ヒナセ、ですか、ヒナセは今どこにっ」
「っごほ、ごほ!ひゅ―――、」
 
 
 更に何かを話そうとするも上手く声が出ないのか激しく噎せる王に水を差し出したかったがベッド周りには見当たらない。
 
 
「王様意識あるっすか!?」
「ルイあまり大声はよくないよ」
「はっ、ついつい…」
 
「ルイ、カイ、何か口を潤わせることが出来る物はありそうか?それと銀製品のものも一緒にあると助かる」
 
 
 アランと王のやり取りに気付いたルイとカイに周辺を探すよう頼み、もう一度王へ視線を戻す。薄く目を開けた王は終始何かを伝えようと藻掻くも、思い通りにいかないもどかしさに苛立つ様子が見て取れた。
 
 
「団長、水差しあったっす」
「スプーンも、銀製のものを見つけました」
「よくやった」
 
 
 奥の方からそれぞれ見つけてきたルイとカイから水差しとスプーンを受け取ると、まず銀で水に毒が仕込まれていないか簡易チェックする。
 
 水をかけても何も反応を示さない銀のスプーン。
 
 それを目視で確認すると、今度はアラン自ら水へ口付け飲み込み、遅延性も考慮ししばらく様子を見てから「よし、問題ない」と最終判断を下した。
 

「団長さすがっすねぇ…俺だったらびびっちゃう」
「僕も同じく…ですね」
「念には念を、な。
 陛下、水です。何も含まれておりませんでしたので安心してください。お口失礼しますね」
 
 
 一連の様子を静かに見守っていた王は何も言わずアランが差し出すスプーンの僅かな水を素直に口へ含み唇と喉を少しずつ潤していった。
 
 


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