木漏れ日の中で

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トン、と肩に何かが触れた。
驚いて見上げると上級生が立っていた。
「っあ、ごめんなさい。い、今どきます」
慌てて何か言われる前に立ち上がろうとする。
「いや、そんなに急がなくて大丈夫だよ。君、体調悪いの?」
驚くほど優しい声で言われたものだから驚いて動きが止まってしまう。
上級生は不思議そうな顔をして僕を見る。
「あ、あの僕、大丈夫ですから・・・その、」
言いかけたところで上級生に話しかける声に遮られてしまった。
「ちょっと!セドリック様!こんなやつに話しかけるなんて辞めたほうがいいです。触った手も洗ってください。」
彼の友人だろうか。
友人達は僕はいないかのように彼に僕の噂を語る。

やだな。
聞きたくないな。聞かれたくもない。

離れに閉じ込められたあの日から、僕に優しくしてくれる人はいなかった。優しく声をかけてくれた人が目の前で態度を変えてくるのは想像しただけでしんどくなる。
セドリックと呼ばれた上級生の顔を見ることはできなくて、俯きながらつぶやいた。
「ぼ、僕、もう行きます。あの、失礼します」
思ったよりも小さな声に聞こえないかもと感じるがそれでも早く立ち去りたくて背を向ける。
「ちょっと待って」
去り際にそんな言葉が聞こえた気がするけど、もう動いた足は止められなくて、寮部屋に戻るまでに朝の食堂からさっきの目の前で噂話をされたことを思い出す。

言われ慣れていたと思っていたけど、目の前で実際に態度に出されたり露骨に嫌がられるのは心がしんどくなる。これなら時々部屋に来る兄や母に殴られている方がマシだったかもしれない。
零れそうになる涙を堪えながらなんとか部屋に辿り着くと力が抜ける。
気づけばベッドに倒れ込みながら声を殺して泣いていた。

魔法が使えないだけでこんなにしんどいの。
噂は僕には全く心当たりもない。でも、皆の中ではそれが事実なの。
視線が怖い。ヒソヒソされるのも怖い。人に近づくのも近づかれるのも怖い。
僕は5年間、やっていけるのかな。

確かお父様は恥をかかせるなと言っていた。
なら、いい成績を取り続ければ上位クラスへも入ることができるのではないか。
確か、2年生からは魔法や座学などの総合成績でクラスが決まる。座学は魔法実践よりも多いし、きっと頑張れば大丈夫なはず。
僕が頑張れば、誰かは褒めてくれるかな。きっと噂は違うって分かってくれるかも。

入寮から今日まで、家の外から出ると僕にとっては耐え難い現実で、ふいにそんな事を考えてしまう。
そんな事はないってとっくに分かりきっているはずなのに。
涙を拭いた僕の5年間の過ごし方はもう決まりだ。
ひたすらに努力し続けること。
それがどんなに辛くても、いつか家族に褒めてもらって、学園の誰かに噂が事実でないとわかってもらえるように。

僕はほんの少しだけ淡い光が見えた気がした。
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