9 / 41
8
しおりを挟む
「その者の首を刎ねよ」
王座に腰かけたエメラルド国王は冷淡な口調で言い放った。
隣に座る王妃とアリスも温かみのない瞳で嘲笑する。
「お、お待ちください!国王様!ここに!ここにサファイア国王からの書面が!」
オリビアと共にサファイア国を訪れ、帰国させられた従者が握りしめた書面をエメラルド国王へと掲げた。
「それがなんだというのだ、この役立たずめ。貴様がサファイア国に残らなければ誰がオリビアを監視するのだ。ん?答えよ」
「わたしもサファイア国へ残らねばと思い……」
「答えよと申しておるっ!誰が貴様の勝手な発言を許したっ!」
従者の言葉を遮り、エメラルド国王は声を荒げた。
「ひっ」と声を上げ、従者は跪き地面に頭を擦りつける。
「申し訳ございません!私がサファイア国王に言われるがままここへ戻ってしまったため、今オリビア様を監視する者は一人もおりません!」
「今この瞬間オリビアがサファイア国に寝返ったらどうするのだ?貴様だけの首で責任がとれるか?貴様の家族の首も必要だなぁ」
「そ、それだけは!どうか、ご慈悲を!」
「良い情報の一つも持ち戻らない役立たずにどう慈悲を施せと?」
「情報……情報ならございます!オリビア様はサファイア国でとても恵まれた環境でお過ごしになられるようです。衣食住全て最高級のものを用意すると!」
「なんだと?そんなはずは……戦争に敗れた国の姫など虐げられるに決まっておる」
「しかし私は確かにこの耳で聞いたのです!サファイア国の恵は全てオリビア様のものだと!」
サファイア国は大国だ。
その恩恵は計り知れない。
普通に婚姻を結ぶ相手としては申し分ないほどだ。
だが、それだけで愛娘のアリスを嫁がせるわけにはいかない理由がある。
それはサファイア国王が今まで妃を迎えなかった理由でもある。
サファイア国は魔の国。
容姿が醜いのだ。
見たことはないが、魔の国なのだから間違いない。
サファイア国は恵まれた豊かな国。
きっとどこの国の姫もサファイア国の妃になりたがるだろう。
だが、サファイア国王が今まで妃を迎えなかったのは、容姿が醜い証拠だ。
サファイア国王が妃を迎えなかったのではなく、あまりの容姿の醜さに誰も花嫁になりたがらなかったのだ。
そんな誰もが拒む醜い王に可愛いアリスを嫁がせられるものか。
敗戦国の姫として虐げられ、さらに醜い王の相手をさせられるなどアリスが不憫すぎる。
だからどんな目に遭わされても構わないオリビアを送り込んだのだ。
オリビアがサファイア国で丁重な扱いを受けるのは予想外だったが、なんら問題はない。
自害するその時までせいぜい醜い王のご機嫌を取っていればいいさ。
「それともう一つ……」
従者が言葉を続ける。
「魔の国として、醜い者たちが棲むと言われていたサファイア国ですが……実はその、王宮の者たちは全て見目麗しい者ばかりでございました」
「何を言っておる。そんなわけがなかろう。相手は魔の国だぞ。幻覚でも見せられたのではないか?」
「いえ!私は確かにこの目で見たのでございます。他の者にも聞いていただければ分かります。皆同じように言うはずです」
信じ難い話だった。
サファイア国はおぞましい魔の国のはずだ。
魔物や竜が棲んでいる国だ。
そんなところに住んでいる人間なんて醜いに決まっているではないか。
「ねぇねぇ、オリビアが結婚するサファイア国王はどんな方なの?」
今まで黙って父親のやり取りを聞いていたアリスが口を挟んだ。
「その方も美しいのかしら?」
従者は答える。
「王宮の者たちは全て美しい方々ばかりでございました。その中でも一番麗しいお方がサファイア国王でございました」
アリスの瞳がきらきらと無邪気に輝く。
「ねぇお父様。わたくし、オリビアの代わりにサファイア国王と婚姻したく思いますわ」
「いや、アリスそれは……」
国王は言葉を濁らせる。
愛娘がサファイア国に嫁ぐなど、心配で心配でたまらなかった。
「あら、オリビアですら寵愛されるのですもの。わたくしが行ったらきっともっと歓迎してくれますわ」
「それはその通りだろうが……」
「お父様が欲しかったサファイア国も手に入りますのよ。この国のためになるんですもの。わたくし喜んで嫁がせていただきますわ」
エメラルド国王はしばらく考え、確かにその通りだと思った。
なんだ。なんだなんだ、そうか。
確かにそうだ。
アリスが妃の座を望むなら簡単にサファイア国が手に入る。
戦争などせずともよかったのだ。
アリスは大事な娘だ。
ただ嫁がせるだけでは終われない。
まずはアリスを妃の座に就かせる。
アリスを嫁にもらったサファイア国王はすぐにアリスの魅力に取り憑かれ、傀儡と化すだろう。
その後じっくりサファイア国とエメラルド国をひとつにすればいい。
サファイア国へ嫁ぐことをアリスが望み、その上大国が手に入る。
一石二鳥だ。
「腕のいい絵描きを呼べ。人相を描かせよ」
エメラルド国王は側近に命じた。
その言葉を聞き、従者は命拾いしたと確信した。
「少しでも人相画と違う場合、貴様とその家族の命はないからな」
だが、王の言葉にすぐ顔を青くした。
その後すぐに腕利きの絵描きが王宮に呼ばれ、従者の証言を元にサファイア国王の人相画が出来上がった。
それを見たアリスはうっとりとした表情で微笑んだ。
「美しいものは大好きよ。だって美しいわたくしにぴったりなんですもの」
一ヶ月後アリスのサファイア国への出立が決まった。
王座に腰かけたエメラルド国王は冷淡な口調で言い放った。
隣に座る王妃とアリスも温かみのない瞳で嘲笑する。
「お、お待ちください!国王様!ここに!ここにサファイア国王からの書面が!」
オリビアと共にサファイア国を訪れ、帰国させられた従者が握りしめた書面をエメラルド国王へと掲げた。
「それがなんだというのだ、この役立たずめ。貴様がサファイア国に残らなければ誰がオリビアを監視するのだ。ん?答えよ」
「わたしもサファイア国へ残らねばと思い……」
「答えよと申しておるっ!誰が貴様の勝手な発言を許したっ!」
従者の言葉を遮り、エメラルド国王は声を荒げた。
「ひっ」と声を上げ、従者は跪き地面に頭を擦りつける。
「申し訳ございません!私がサファイア国王に言われるがままここへ戻ってしまったため、今オリビア様を監視する者は一人もおりません!」
「今この瞬間オリビアがサファイア国に寝返ったらどうするのだ?貴様だけの首で責任がとれるか?貴様の家族の首も必要だなぁ」
「そ、それだけは!どうか、ご慈悲を!」
「良い情報の一つも持ち戻らない役立たずにどう慈悲を施せと?」
「情報……情報ならございます!オリビア様はサファイア国でとても恵まれた環境でお過ごしになられるようです。衣食住全て最高級のものを用意すると!」
「なんだと?そんなはずは……戦争に敗れた国の姫など虐げられるに決まっておる」
「しかし私は確かにこの耳で聞いたのです!サファイア国の恵は全てオリビア様のものだと!」
サファイア国は大国だ。
その恩恵は計り知れない。
普通に婚姻を結ぶ相手としては申し分ないほどだ。
だが、それだけで愛娘のアリスを嫁がせるわけにはいかない理由がある。
それはサファイア国王が今まで妃を迎えなかった理由でもある。
サファイア国は魔の国。
容姿が醜いのだ。
見たことはないが、魔の国なのだから間違いない。
サファイア国は恵まれた豊かな国。
きっとどこの国の姫もサファイア国の妃になりたがるだろう。
だが、サファイア国王が今まで妃を迎えなかったのは、容姿が醜い証拠だ。
サファイア国王が妃を迎えなかったのではなく、あまりの容姿の醜さに誰も花嫁になりたがらなかったのだ。
そんな誰もが拒む醜い王に可愛いアリスを嫁がせられるものか。
敗戦国の姫として虐げられ、さらに醜い王の相手をさせられるなどアリスが不憫すぎる。
だからどんな目に遭わされても構わないオリビアを送り込んだのだ。
オリビアがサファイア国で丁重な扱いを受けるのは予想外だったが、なんら問題はない。
自害するその時までせいぜい醜い王のご機嫌を取っていればいいさ。
「それともう一つ……」
従者が言葉を続ける。
「魔の国として、醜い者たちが棲むと言われていたサファイア国ですが……実はその、王宮の者たちは全て見目麗しい者ばかりでございました」
「何を言っておる。そんなわけがなかろう。相手は魔の国だぞ。幻覚でも見せられたのではないか?」
「いえ!私は確かにこの目で見たのでございます。他の者にも聞いていただければ分かります。皆同じように言うはずです」
信じ難い話だった。
サファイア国はおぞましい魔の国のはずだ。
魔物や竜が棲んでいる国だ。
そんなところに住んでいる人間なんて醜いに決まっているではないか。
「ねぇねぇ、オリビアが結婚するサファイア国王はどんな方なの?」
今まで黙って父親のやり取りを聞いていたアリスが口を挟んだ。
「その方も美しいのかしら?」
従者は答える。
「王宮の者たちは全て美しい方々ばかりでございました。その中でも一番麗しいお方がサファイア国王でございました」
アリスの瞳がきらきらと無邪気に輝く。
「ねぇお父様。わたくし、オリビアの代わりにサファイア国王と婚姻したく思いますわ」
「いや、アリスそれは……」
国王は言葉を濁らせる。
愛娘がサファイア国に嫁ぐなど、心配で心配でたまらなかった。
「あら、オリビアですら寵愛されるのですもの。わたくしが行ったらきっともっと歓迎してくれますわ」
「それはその通りだろうが……」
「お父様が欲しかったサファイア国も手に入りますのよ。この国のためになるんですもの。わたくし喜んで嫁がせていただきますわ」
エメラルド国王はしばらく考え、確かにその通りだと思った。
なんだ。なんだなんだ、そうか。
確かにそうだ。
アリスが妃の座を望むなら簡単にサファイア国が手に入る。
戦争などせずともよかったのだ。
アリスは大事な娘だ。
ただ嫁がせるだけでは終われない。
まずはアリスを妃の座に就かせる。
アリスを嫁にもらったサファイア国王はすぐにアリスの魅力に取り憑かれ、傀儡と化すだろう。
その後じっくりサファイア国とエメラルド国をひとつにすればいい。
サファイア国へ嫁ぐことをアリスが望み、その上大国が手に入る。
一石二鳥だ。
「腕のいい絵描きを呼べ。人相を描かせよ」
エメラルド国王は側近に命じた。
その言葉を聞き、従者は命拾いしたと確信した。
「少しでも人相画と違う場合、貴様とその家族の命はないからな」
だが、王の言葉にすぐ顔を青くした。
その後すぐに腕利きの絵描きが王宮に呼ばれ、従者の証言を元にサファイア国王の人相画が出来上がった。
それを見たアリスはうっとりとした表情で微笑んだ。
「美しいものは大好きよ。だって美しいわたくしにぴったりなんですもの」
一ヶ月後アリスのサファイア国への出立が決まった。
217
あなたにおすすめの小説
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです
鍛高譚
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」
王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。
婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。
「かしこまりました」
――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。
そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
婚約破棄して宰相をクビにした結果、
王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――?
これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの
完全自業自得ざまぁ物語。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる