実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

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「なんつもりだ!野蛮な魔族どもめ!」

一喝したところでサファイア国王の側近は表情一つ変えない。
むしろ作り物のような笑顔を深くしただけだった。

ぞわりと全身の皮膚が粟立つ。
怒りを上回る恐怖。

何をされるのか。
何を企んでいるのか。

「何をしに来た。サファイア国王との話はもう終わったはずだ」

「えぇ。ですが、あんな無意味な話など私にはどうでもいいことです。だってそうでしょう?話は終わったと言いながら、あなたがたはいずれ再びサファイア国に害を成そうとする。いえ、厳密には“オリビア様に”ですね」

物腰柔らかい声を出しながら、威圧感のある言葉。

「そのようなつもりは……」

「だから決めたのです。王ではなく、この私が」

こちらの言葉を遮り、男は胸に手を当て、まるで演説をしているかのように続ける。

「邪魔でしかないのですよ、あなたがたなど。オリビア様だけ。あの方さえお渡し頂ければもうあなたがたは用済み」

「召使風情が無礼にもほどがっ……ぐぅっ……」

男の手が伸び、顎を鷲掴みされた。
骨が軋むほどの強い力。
痛みで声を出したいのに、口が開かず叶わない。

「耳障りだ、ゲス野郎」

「ンんーっ!!うっぐっ……」

男は力を込めた手をそのままに馬車の外へ私を投げ飛ばした。

受け身もままならず、地面へぶつかる衝撃が全身を襲う。

「お父様!!」

「陛下!!」

アリスと王妃の声が聞こえたが、痛みで声を出すことすら出来ない。

「なによ!なんなのよ、あんた!!帰って!!帰りなさいよ!!さっさとロゼ様のところに!!わたくしたちが何をしたって言うのよ!!」

やめろ、アリス。
こいつはまともじゃない。
刺激するな。

だが、男はアリスを一瞥することもなく、こちらへ歩み寄ってきた。

「何をした?そうですねぇ。ほら、人間の言葉にもあるじゃないですか。『人の恋路を邪魔する奴は魔獣に食われて死んでしまえ』って」

「ん?なんか違うような……」と男は首を傾げたが、すぐに「まぁいいか」と綺麗な顔で笑った。

「わ、私が死ねばエメラルド国の民が路頭に迷うことになるぞ!貴様にその責任が取れるのか!」

「問題ございません。サファイア国がきちんと面倒を見て差し上げますから」

「なん、だと……」

「お優しいエメラルド国の眠り姫が放っておかないでしょうし、うちの王もそんな婚約者殿が大好きですから」

男の口が弧を描く。

「エメラルド国のより一層の繁栄をお約束しますよ。少なくともあなたがたが好き勝手していた頃よりは」

「我が国を乗っ取るつもりなのか……」

「乗っ取るだなんて人聞きの悪い。緊急時における必要措置です。そもそもあなたがたが藪の中の蛇を突いた結果では?因果は巡るものですよ」

男は、話は終わりだというようにパンっと両手を叩いて、にこりと笑った。

「まぁ、とにかく私としてはあなたがたが死んでくれればそれでいいんです。私が愛してやまない方々のために恐怖に襲われ、苦しみもがいてくれれば尚良しです。」

死ぬ?
殺される?
私が?
こんなところで?
こんな訳の分からない奴によって?

ピーーーーーッ

辺りに響き渡る音。
男の指笛だった。
まるで何かを呼ぶように。

周りの草木から無数の気配を感じる。

ガサガサッ

それは草木が擦れる音となって存在を確信させた。

次第に聞こえる獣のような唸る声。

そうだ、奴は魔獣だと言った。
魔獣に食われて死ね、と。

暗い森の中に木々の隙間から微かな月明りが差し込む。

辺りを囲む複数の目。

野犬のような姿。
しかし野犬のいうにはあまりに巨大で歪な形。

無数の異形の群れが私たちを取り囲んでいた。

「あああぁぁぁぁぁぁーーっ!!」

国王というプライドも恥も全てをかなぐり捨て、死の恐怖に叫んだ。

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