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それから数か月後、体調がよくなった私は両親とともに屋敷に戻った。
そして婚約者であるリカ王子と初めて対面することになった。
当然、私が精霊憑きであることは伏せられている。
場所は王宮のバラ園だった。
お菓子や紅茶などが用意されたテーブルにリカ王子と二人だけで座る。
「お初にお目にかかります。アイシラと申します」
「リカだ。おい、女なら挨拶する時は笑え」
リカ王子もにこりともしていないのに、女ならという理由でいきなり命じられた。
「えっと、申し訳ございません……」
心を殺すために表情をあまり出さないようにしていた。
そのおかげか、リカ王子の強い物言いに対する怖いとか悲しい気持ちは押し殺すことができている。
禁じられているのは負の感情だけなので、喜んだり笑ったりしてもいいのではとも思うが、都合良く感情を選別できるほど器用ではなかった。
「緊張しているのか?だったら、菓子でも食べたらどうだ」
言われて、クッキーを一つ手に取る。
とても甘くて、サクサクで美味しかった。
「美味しいです」
リカ王子がため息をついた。
「喜びも悲しみもしない。不気味な女だな」
だめだめ。傷つくな。
このままじゃリカ王子に申し訳ない。
笑わなくちゃ。
無理に笑顔を作る。
でも、笑うことをやめていたこの顔はどうやって笑っていたのかを忘れ、「気持ち悪い」と言われただけだった。
そして数年後。
突然、身寄りのない子供を引き取るという話が出た。
前触れもなくお父様が言い出したのだ。
今までそんな話が出たことは一度もなかったのに。
確かにお父様は身寄りのない子供たちを保護している教会に寄付をしている。
ある日、お父様が教会の様子を見に訪れた際、強く惹きつけられる子供がいたという。
可愛らしい女の子で是非娘として引き取りたいと思ったらしい。
どうしていきなり?
私のことが娘として疎ましくなったのかな。
あの湖の事件以来、両親は過剰なほど私を気にかけてくれた。
腫れもののように扱わなければならない娘など……。
疲れて、新しい娘が欲しくなるのは仕方ないことかもしれない。
そう、当たり前のことであって、悲しいことではない。
そう言い聞かせた。
「アンナです。今日からよろしくお願いします、お義姉様」
義妹となったアンナと対面した時、特に何も思うことはなかった。
きっとこんな状況でなければ、好意もしくは嫌悪の感情があったかもしれないが、心を殺し続けた私にはもう分からなくなっていた。
心を殺して、殺して……感情を表に出さない私は周りから冷たい女と思われていただろう。
だから感情豊かで可愛らしいアンナをリカ王子が好きになるのは仕方のないことだったのかもしれない。
私が感情を表すことができていたら……。
そういえば、一度だけ負の感情に支配されたことがあった。
あれは、アンナが私と同じ学園に入学したばかりの頃。
孤児であった過去を持つアンナは貴族の令嬢たちからいじめを受けていた。
それを知ったのはお昼休みに学園の庭を気ままに歩いている時だった。
ヒステリックな女性の声と笑い声。
藪で死角となった場所でアンナが数人の令嬢に囲まれて罵声を浴びせられていた。
止めないと。
だがそれより早く、一人の令嬢がアンナの身体を突き飛ばした。
勢いよく後ろに倒れるアンナ。
「アンナ!」
何かを考えるより先に飛び出していた。
驚く令嬢たちには構わずアンナの元へ駆け寄る。
後ろにあった藪に倒れ込んでしまったため、アンナの腕が切れ、血が流れていた。
振り向き、令嬢たちを睨みつける。
「あなたたち!」
まずいと思った令嬢たちは足早に逃げ去って行った。
その時何か言っていた人たちもいたように思うけれど、あまりよく覚えていなかった。
「お義姉様……?」
アンナも驚き、目を丸くしている。
「どうして、泣いているのですか?」
そこで初めて自分が泣いていることに気付いた。
まさか。
アンナを傷つけられた怒りで感情がコントロールできなくなり、いつの間にか涙を流していた。
まずい。
どうしよう。
精霊王が……。
辺りを見回す。
でも特に異変はない。
……あれ?
どうして?
見逃してもらえた?
もしかして、今は傍にいない、とか?
急いで涙を拭いた。
よく分からないけれど、精霊王は姿を現さない。
もしかしたら精霊王との繋がりはもうなくなっているのかも。
急いで両親と共に神殿へ向かい、クレイ様との面会の許可を頂いた。
微かな希望を胸に抱いていたが、それも虚しくクレイ様はただ首を横に振るだけだった。
どうして、あの時は許されたのだろう……。
そして婚約者であるリカ王子と初めて対面することになった。
当然、私が精霊憑きであることは伏せられている。
場所は王宮のバラ園だった。
お菓子や紅茶などが用意されたテーブルにリカ王子と二人だけで座る。
「お初にお目にかかります。アイシラと申します」
「リカだ。おい、女なら挨拶する時は笑え」
リカ王子もにこりともしていないのに、女ならという理由でいきなり命じられた。
「えっと、申し訳ございません……」
心を殺すために表情をあまり出さないようにしていた。
そのおかげか、リカ王子の強い物言いに対する怖いとか悲しい気持ちは押し殺すことができている。
禁じられているのは負の感情だけなので、喜んだり笑ったりしてもいいのではとも思うが、都合良く感情を選別できるほど器用ではなかった。
「緊張しているのか?だったら、菓子でも食べたらどうだ」
言われて、クッキーを一つ手に取る。
とても甘くて、サクサクで美味しかった。
「美味しいです」
リカ王子がため息をついた。
「喜びも悲しみもしない。不気味な女だな」
だめだめ。傷つくな。
このままじゃリカ王子に申し訳ない。
笑わなくちゃ。
無理に笑顔を作る。
でも、笑うことをやめていたこの顔はどうやって笑っていたのかを忘れ、「気持ち悪い」と言われただけだった。
そして数年後。
突然、身寄りのない子供を引き取るという話が出た。
前触れもなくお父様が言い出したのだ。
今までそんな話が出たことは一度もなかったのに。
確かにお父様は身寄りのない子供たちを保護している教会に寄付をしている。
ある日、お父様が教会の様子を見に訪れた際、強く惹きつけられる子供がいたという。
可愛らしい女の子で是非娘として引き取りたいと思ったらしい。
どうしていきなり?
私のことが娘として疎ましくなったのかな。
あの湖の事件以来、両親は過剰なほど私を気にかけてくれた。
腫れもののように扱わなければならない娘など……。
疲れて、新しい娘が欲しくなるのは仕方ないことかもしれない。
そう、当たり前のことであって、悲しいことではない。
そう言い聞かせた。
「アンナです。今日からよろしくお願いします、お義姉様」
義妹となったアンナと対面した時、特に何も思うことはなかった。
きっとこんな状況でなければ、好意もしくは嫌悪の感情があったかもしれないが、心を殺し続けた私にはもう分からなくなっていた。
心を殺して、殺して……感情を表に出さない私は周りから冷たい女と思われていただろう。
だから感情豊かで可愛らしいアンナをリカ王子が好きになるのは仕方のないことだったのかもしれない。
私が感情を表すことができていたら……。
そういえば、一度だけ負の感情に支配されたことがあった。
あれは、アンナが私と同じ学園に入学したばかりの頃。
孤児であった過去を持つアンナは貴族の令嬢たちからいじめを受けていた。
それを知ったのはお昼休みに学園の庭を気ままに歩いている時だった。
ヒステリックな女性の声と笑い声。
藪で死角となった場所でアンナが数人の令嬢に囲まれて罵声を浴びせられていた。
止めないと。
だがそれより早く、一人の令嬢がアンナの身体を突き飛ばした。
勢いよく後ろに倒れるアンナ。
「アンナ!」
何かを考えるより先に飛び出していた。
驚く令嬢たちには構わずアンナの元へ駆け寄る。
後ろにあった藪に倒れ込んでしまったため、アンナの腕が切れ、血が流れていた。
振り向き、令嬢たちを睨みつける。
「あなたたち!」
まずいと思った令嬢たちは足早に逃げ去って行った。
その時何か言っていた人たちもいたように思うけれど、あまりよく覚えていなかった。
「お義姉様……?」
アンナも驚き、目を丸くしている。
「どうして、泣いているのですか?」
そこで初めて自分が泣いていることに気付いた。
まさか。
アンナを傷つけられた怒りで感情がコントロールできなくなり、いつの間にか涙を流していた。
まずい。
どうしよう。
精霊王が……。
辺りを見回す。
でも特に異変はない。
……あれ?
どうして?
見逃してもらえた?
もしかして、今は傍にいない、とか?
急いで涙を拭いた。
よく分からないけれど、精霊王は姿を現さない。
もしかしたら精霊王との繋がりはもうなくなっているのかも。
急いで両親と共に神殿へ向かい、クレイ様との面会の許可を頂いた。
微かな希望を胸に抱いていたが、それも虚しくクレイ様はただ首を横に振るだけだった。
どうして、あの時は許されたのだろう……。
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