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アイシラの父親が言った通り、湖は森へ入ればすぐに分かった。
そのあまりの美しさに、陛下やリカ王子、従者たちは目を奪われた。
湖だけではない。
この森全てが美しかった。
精霊王が棲む森だからだろうか。
元々緑豊かであったこの国だが、それ以上にこの森は自然の恵みに溢れ、空気も透き通っていた。
妬ましい。
国の中心部は今まさに飢饉で民が苦しんでいるというのに。
陛下は口惜しそうに唇を噛んだ。
早く精霊王に元に戻すことを聞き入れてもらわなければ。
陛下は共に連れてきていた王宮神官のクレイに精霊王を呼び出すよう命じた。
だが、クレイは精霊王を呼び出せる自信がなかった。
精霊王とアイシラが姿を消したあの日。
今までクレイに力を貸してくれていた精霊もまた姿を消してしまった。
そして、今もそれは変わらない。
だが陛下に命じられた以上やるしかない。
クレイは目を閉じ、湖の底に意識を向けた。
精神を統一し、湖の底にいるであろう精霊王に呼びかける。
精霊王よ、どうか。
私の声に耳をお貸しください。
我々の前に姿をお見せください。
しかし、いくら待てど精霊王が姿を見せる気配はなかった。
「何をしている!それでも王宮神官か!精霊と通じることができない貴様など、一体何の価値があるのだ!」
リカ王子が叫ぶ。
確かにそうだ。
精霊と通じることができない神官など、ただのヒトだ。
精霊王の気持ちひとつで、我々の存在は簡単に意味をなさないものになる。
クレイは思った。
私の言葉では精霊王は動かない。
じゃあ、一緒にいるであろうアイシラ嬢はどうか。
もしかしたら応えてくれるかもしれない。
もう一度湖の底に声をかける。
アイシラ嬢、そこにいらっしゃいますか?
どうか私の声をお聞き届けください。
この国が、国民が今飢饉によって苦しんでいます。
お願いです。どうか、お救いください。
すると湖の湖面が急に激しく波打った。
噴き出すように水が湧き上がり、豪雨のように陛下一行に降り注ぐ。
「な、なんだっ!?」
陛下とリカ王子の豪奢な衣装が水を吸い、ずしりと重くなる。
「きっさま……!」
ぎりぃっと歯を軋ませ、リカ王子が腰の剣を掴む。
剣を抜き、クレイに振り上げた。
「うるさいなぁ」
頭上から聞こえた声。
場に緊張が走る。
声の主を見上げれば眉間に皺を寄せ、不穏な空気を纏った精霊王が宙に浮いていた。
座っているような姿勢で腕と足を組んでいるその姿は傲慢ささえ感じる。
「おい。なに俺のアイシラに話しかけてんだよ。殺すよ」
ビリッと空気が震える。
冗談ではないと分かるほどの殺気だった。
すかさずクレイが前に出た。
「申し訳ございません!お許しください!精霊王!この国の民を救うためにはアイシラ嬢に縋る他ないと、私の軽薄な考えで……」
「あれ?お前どっかで……」
少しだけ場の空気が和らぎ、精霊王が首を傾げて考える素振りを見せる。
クレイの後ろにいる陛下やリカ王子にも視線を向けた。
「んー……ん?お前も、お前も……なんか見たことある気が……んー……分かんねぇや。覚えてねぇ」
あははっと精霊王は無邪気に笑った。
神官だろうと王だろうとそんな肩書は精霊王の前では何の意味も成さない。
誰も精霊王の心に留まることはない。
アイシラ以外には。
「それで?俺と妻の愛の巣に何の用?」
「アイシラをここに出せ!」
リカ王子が叫んだ。
「あぁ?なんでアイシラの名前を知って……あぁ!随分身なりが良いと思ったら、アイシラの元婚約者様じゃないか!」
「思い出した思い出した」と手を叩きながら、笑う。
「良かった。手間が省けたよ。そろそろお話し合いをしなきゃなって思ってたんだ」
その言葉に希望を抱いた。
精霊王に話し合う意思がある。
交渉の余地がある。
飢饉が終わるかもしれない。
「俺が人間の国の王になりますってね」
だが、告げられた言葉はさらなる絶望だった。
そのあまりの美しさに、陛下やリカ王子、従者たちは目を奪われた。
湖だけではない。
この森全てが美しかった。
精霊王が棲む森だからだろうか。
元々緑豊かであったこの国だが、それ以上にこの森は自然の恵みに溢れ、空気も透き通っていた。
妬ましい。
国の中心部は今まさに飢饉で民が苦しんでいるというのに。
陛下は口惜しそうに唇を噛んだ。
早く精霊王に元に戻すことを聞き入れてもらわなければ。
陛下は共に連れてきていた王宮神官のクレイに精霊王を呼び出すよう命じた。
だが、クレイは精霊王を呼び出せる自信がなかった。
精霊王とアイシラが姿を消したあの日。
今までクレイに力を貸してくれていた精霊もまた姿を消してしまった。
そして、今もそれは変わらない。
だが陛下に命じられた以上やるしかない。
クレイは目を閉じ、湖の底に意識を向けた。
精神を統一し、湖の底にいるであろう精霊王に呼びかける。
精霊王よ、どうか。
私の声に耳をお貸しください。
我々の前に姿をお見せください。
しかし、いくら待てど精霊王が姿を見せる気配はなかった。
「何をしている!それでも王宮神官か!精霊と通じることができない貴様など、一体何の価値があるのだ!」
リカ王子が叫ぶ。
確かにそうだ。
精霊と通じることができない神官など、ただのヒトだ。
精霊王の気持ちひとつで、我々の存在は簡単に意味をなさないものになる。
クレイは思った。
私の言葉では精霊王は動かない。
じゃあ、一緒にいるであろうアイシラ嬢はどうか。
もしかしたら応えてくれるかもしれない。
もう一度湖の底に声をかける。
アイシラ嬢、そこにいらっしゃいますか?
どうか私の声をお聞き届けください。
この国が、国民が今飢饉によって苦しんでいます。
お願いです。どうか、お救いください。
すると湖の湖面が急に激しく波打った。
噴き出すように水が湧き上がり、豪雨のように陛下一行に降り注ぐ。
「な、なんだっ!?」
陛下とリカ王子の豪奢な衣装が水を吸い、ずしりと重くなる。
「きっさま……!」
ぎりぃっと歯を軋ませ、リカ王子が腰の剣を掴む。
剣を抜き、クレイに振り上げた。
「うるさいなぁ」
頭上から聞こえた声。
場に緊張が走る。
声の主を見上げれば眉間に皺を寄せ、不穏な空気を纏った精霊王が宙に浮いていた。
座っているような姿勢で腕と足を組んでいるその姿は傲慢ささえ感じる。
「おい。なに俺のアイシラに話しかけてんだよ。殺すよ」
ビリッと空気が震える。
冗談ではないと分かるほどの殺気だった。
すかさずクレイが前に出た。
「申し訳ございません!お許しください!精霊王!この国の民を救うためにはアイシラ嬢に縋る他ないと、私の軽薄な考えで……」
「あれ?お前どっかで……」
少しだけ場の空気が和らぎ、精霊王が首を傾げて考える素振りを見せる。
クレイの後ろにいる陛下やリカ王子にも視線を向けた。
「んー……ん?お前も、お前も……なんか見たことある気が……んー……分かんねぇや。覚えてねぇ」
あははっと精霊王は無邪気に笑った。
神官だろうと王だろうとそんな肩書は精霊王の前では何の意味も成さない。
誰も精霊王の心に留まることはない。
アイシラ以外には。
「それで?俺と妻の愛の巣に何の用?」
「アイシラをここに出せ!」
リカ王子が叫んだ。
「あぁ?なんでアイシラの名前を知って……あぁ!随分身なりが良いと思ったら、アイシラの元婚約者様じゃないか!」
「思い出した思い出した」と手を叩きながら、笑う。
「良かった。手間が省けたよ。そろそろお話し合いをしなきゃなって思ってたんだ」
その言葉に希望を抱いた。
精霊王に話し合う意思がある。
交渉の余地がある。
飢饉が終わるかもしれない。
「俺が人間の国の王になりますってね」
だが、告げられた言葉はさらなる絶望だった。
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