最後の夜に思い出ひとつ

white love it

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D I Y ならまかせて

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「でもさ、亜紀ちゃんも大分かわったよね? ここに来た当初に比べると」
「うん。最初のうちは食器洗いにしても掃除にしても、全然やり方わかってなかったのに、今じゃ私のほうが教えてもらってるぐらいだし」
「……そうだね…」

 2人に褒められるのは嬉しかったが、同時にそれももう終わりなのだという事実に、亜紀はあらためて寂しさを覚えた。

「でも、あれには驚かされたなあ」
「え?」
「あ、隆君の靴でしょ」
「そうそう。亜紀ちゃんにあんなセンスがあるなんて、みんなびっくりしてたんだよ!」
「ちょっとした尊敬だったよね」

 盛り上がる乃愛と結に、亜紀は少し苦笑いした。

「そんな。自分でもあんなに上手くいって、びっくりしてるくらいなんだから」
 
 施設で与えられる洋服やかばん、靴などはお下がりの中古品が多い。特にサッカーのスパイクシューズや野球のグラブなど、特別なものとなると、ずっと同じものを使い回している場合もある。
 亜紀たちと同学年の隆もそうだった。

「隆君、サッカーの上手さは学校でもずば抜けてるのに、いつもお古のスパイクだったでしょ? そのことでいつもからかわれたんだよね」

 乃愛の言葉に亜紀はうつむいた。

「……うん、知ってた」
「……かわいそうに思ったの?」

 亜紀は首を横に振った。

「……ここに来る前、まだ家族でいた頃ね、学校にいつもボロボロの上履きで来る子がいたんだ。別に施設で生活している子じゃなかったけどね。ある時、私、何気なくいったの。ボロボロの上履き、みっともないよって」
「……」
「……その時のその子の顔、隆君と同じ顔だった。ものすごく悔しそうな顔……」
「……そっか……」 
「隆君の顔みてたらさ、なんだかその子のこと思い出して……私まで熱くなってきちゃってさ」

 亜紀は隆からスパイクを借りると、徹底的に磨いた。大小様々なブラシで汚れを落とし、紐のほつれを直し、漂白剤につけ、靴墨や油性マーカーでシワ消し、色をつけ直し、ほぼ元通りの姿までもどした。

「まるで新品みたいだったからね。でもそこからさらに手を加えるんだもの、すごいよ、亜紀ちゃん」

 亜紀はさらに、ラメ入りの蛍光塗料を借りてくると、それで隆のイニシャルをシューズのわきに描いてみせたのだ。
 それは世界にたった一つだけの、特別なシューズだった。

「ここにいるとさ、いろんな人に同情されるでしょ?でも羨ましがられることはめったにないんだよね」

 結が口を開いた。

「あのスパイクをみて、みんな隆君のこと羨ましがってた。隆君の誇らしげな顔、私、ずっと忘れないと思う。ここの子たちも」 
「それならよかった。私」

 突然、乃愛がいつもより高い声で亜紀の言葉を遮った。 

「ひょっとして、亜紀ちゃん、隆君のこと、好きだったんじゃ……」
「ち、違うわよ!」
「ねえ、結もそう思うでしょ?」
「うん。お似合いよ、2人とも」
「ほらね!」

 キャッキャと笑いながら話す乃愛と結にややあきれつつも、亜紀は会話を楽しんでいた。
 こんな風に、真夜中に誰もいない食堂で、友人たちと男の子の話をする日がくるとは思ってもみなかった。
 もっとずっとこうしていたかった。
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