【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
166 / 1,325
第三章 幸せの行方

67 成人 69

しおりを挟む
 目が覚めたら、優しそうな女の人が、少し不安げにこちらを見ていた。ものすごく肌触りのいい布団に寝ている。思わず、すりと頬をこすりつけた。
 ありゃ、気持ちいい。
 すり、すりとしていると、気持ちよくてまた、寝られそう。
 くす、と笑う気配がして、ぽん…ぽん…と女の人に背中を叩かれた。
 …………誰?
 ここ、どこ?
 じいやの気配がするけど、出てこないってことは、安全な場所なんだろう。

「なるひとちゃん。もう少し寝ますか?」

 優しい声が聞いてくる。
 名前を知ってるの?
 俺は、じっと女の人の顔を見てみた。知らない人だなあ。何となく、朱実あけみ殿下に似てる。緋色ひいろはね、もうちょっと格好いいから。

「私は、雫石しずくと言います。初めまして。知らないところで、驚いたでしょう?すぐに、緋色ひいろさんが迎えに来ますから、私と待っていましょうね」

 ゆっくりと説明してくれた。迎えに来るってことは、緋色ひいろが、雫石しずくさんに俺を預けたってことだ。寝ているのを預けるのだから、きっと緋色ひいろの好きな人なんだろう。

成人なるひとです。こんにちは」

 俺は、起き上がって挨拶をした。昼に人と出会ったら、こんにちは、と言うことを青葉あおばに教えてもらった。

「はい。こんにちは。お利口ねえ。何か飲みますか?」 
 
 寝起きなので喉は渇いているけど、いいのかな?

「え、と。あの」
「お水?」

 すぐに、部屋の中にいた女の人が動いて、隣の部屋から水を持ってきた。どうぞ、と渡される。あんまり冷たくない水だった……。

「ありがと」

 ちょっとだけ飲んで返す。
 ん?と雫石しずくさんが首を傾げた。

「ジュースもあるわよ」

 でも、広末ひろすえのじゃないと飲めないからなあ。
 んー、と曖昧に言ってると、ジュースも出てきた。
 あれ? いつものミックスジュースと色が一緒だ。じー、とコップを見てると、口元にストローが当てられた。ちょっと吸ってみる。
 あれ?いつものと一緒。
 嬉しくなって、ずるずる飲んだ。うふ。美味しい。

「あら。良かった」

 雫石しずくさんに持たせたままだった。慌てて受け取ろうと右手を伸ばす。
 
「どうぞ」
「ありがと……」

 顔を上げた先に、水の入った入れ物があった。中に、赤と白の何かが動いている。右へ行ったと思ったら、左へひらひら、またひっくり返って右へ、ふよーと行く。口がぱくぱくと動いている。
 うわー。何これ。

「金魚、好き?」

 金魚。こいつは、金魚って言うのか。

「餌、あげる?」

 踏み台が出されて、入れ物の上の穴から、ぽろぽろした粒を入れた。
 踏み台から降りて、見てみる。
 ぱく。
 わあ、食べた。
 ぱく、ぱく。
 わあ、食べてる。
 おおー、すごいね。
 
「なるひとちゃん、こっちにいらっしゃい。ずっと立っていたら疲れるでしょ?」

 雫石しずくさんが金魚の前に揺り椅子を持ってきて座った。おいで、と手を出してくれる。
 いいのかな?
 困っていたら、部屋にいる女の人が、俺を抱いて、雫石しずくさんの膝の上に座らせてくれた。力持ちだねえ。
 きゅっと抱っこしてもらうと、気持ちいい。そして、金魚が目の前に。
 面白くて、ずっと見てた。これも、生きてるんだなあ。ご飯、食べたなあ。

「お世話になりました」

 緋色ひいろの声が、急に聞こえてびっくりした。
 
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

処理中です...