743 / 1,325
第七章 冠婚葬祭
32 分かってみれば簡単なことだった 朱実
しおりを挟む
赤璃の後釜?
…………。
そんな者はいない。赤璃は、ごく小さな頃から、私の伴侶になるべく努力してきてくれたのだ。もともと美しい顔も髪もきちんと手入れをし、その辺の暴漢などなら軽く撃退できるくらいに己を鍛え上げ、学校では涼しい顔で良い成績をあげる。
母上のように皇族の重責に押しつぶされることも無く、まるで生まれた時からその地位にいたかのように振る舞うこともできる。すぐ近くに叔母上という見本があったとはいえ、並の女ではそうはいくまい。
私は、赤璃がまだ小さな頃に従妹だと顔を合わせた時から、これが私の伴侶だと決めていたのだ。血が近すぎるだとか、七条では身分が少々低いだとか、様々な横槍は入ったが、赤璃はその存在で全てを黙らせてきた。他の候補など、存在したことは知っていても、顔も名前も覚えてはいない。二条や三条辺りが、勝手に挙げていただけなのだろう。
父上には、一度だけ、本気なのか、と聞かれた。もちろん、と自信を持って答えた。私の伴侶は彼女だけ。そうか、と父は言った。あの時の父上は、どんな顔をしていたのだったか……。
「私の伴侶は赤璃だけ」
そう。今でもそれは変わらない。あれよりいい女などいない。しっかりと世継ぎも生んでくれた。ますます手放せない存在となって私の傍らにいる。
後釜?
誰にそれが勤まるというのか。
「そうであろ」
義母でもある叔母上が言う。何を当たり前のことを、と私は思う。これは一体、何の話を?
今。そう今は、緋色に。成人を生涯ただ一人の伴侶だなどと言う緋色に、成人がいなくなった後の話を……。
「緋色の伴侶も、成人だけじゃと言うておる」
「え……?」
同じな訳がない。私は、私たちはもう何年も共にいて、気持ちを……。
「お主が、伴侶を赤璃だけじゃと言うように、いや、それよりも強い気持ちで、緋色となるは互いをそうじゃと言うておるのだと理解せよ」
「わたし、よりも、強い気持ちで……」
違う。まさか。いや、でも。
「そうであろ。お主の一番は赤璃ではないのだろ?じゃが、この二人は互いが一番じゃ。お主の赤璃への気持ちなど、まだまだ足りぬ」
私の気持ち。
大切な弟。ただ一人、気兼ねなく話せた、私を分かってくれていた弟。いつだって、緋色のことを一番に考えて……。
目の前で、緋色が成人を膝の上に乗せている。成人は寛いでそこに座る。頬を寄せあって、話す。
当たり前の光景。だから、誰も何も言わない。子どもたちでさえ。
そうか。
そうだったのか。
私が赤璃の後釜など考えないのと同じくらい、いやそれ以上に、緋色はそれを考えてはいない。
そんなこと、考えたりしないのだ。
…………。
そんな者はいない。赤璃は、ごく小さな頃から、私の伴侶になるべく努力してきてくれたのだ。もともと美しい顔も髪もきちんと手入れをし、その辺の暴漢などなら軽く撃退できるくらいに己を鍛え上げ、学校では涼しい顔で良い成績をあげる。
母上のように皇族の重責に押しつぶされることも無く、まるで生まれた時からその地位にいたかのように振る舞うこともできる。すぐ近くに叔母上という見本があったとはいえ、並の女ではそうはいくまい。
私は、赤璃がまだ小さな頃に従妹だと顔を合わせた時から、これが私の伴侶だと決めていたのだ。血が近すぎるだとか、七条では身分が少々低いだとか、様々な横槍は入ったが、赤璃はその存在で全てを黙らせてきた。他の候補など、存在したことは知っていても、顔も名前も覚えてはいない。二条や三条辺りが、勝手に挙げていただけなのだろう。
父上には、一度だけ、本気なのか、と聞かれた。もちろん、と自信を持って答えた。私の伴侶は彼女だけ。そうか、と父は言った。あの時の父上は、どんな顔をしていたのだったか……。
「私の伴侶は赤璃だけ」
そう。今でもそれは変わらない。あれよりいい女などいない。しっかりと世継ぎも生んでくれた。ますます手放せない存在となって私の傍らにいる。
後釜?
誰にそれが勤まるというのか。
「そうであろ」
義母でもある叔母上が言う。何を当たり前のことを、と私は思う。これは一体、何の話を?
今。そう今は、緋色に。成人を生涯ただ一人の伴侶だなどと言う緋色に、成人がいなくなった後の話を……。
「緋色の伴侶も、成人だけじゃと言うておる」
「え……?」
同じな訳がない。私は、私たちはもう何年も共にいて、気持ちを……。
「お主が、伴侶を赤璃だけじゃと言うように、いや、それよりも強い気持ちで、緋色となるは互いをそうじゃと言うておるのだと理解せよ」
「わたし、よりも、強い気持ちで……」
違う。まさか。いや、でも。
「そうであろ。お主の一番は赤璃ではないのだろ?じゃが、この二人は互いが一番じゃ。お主の赤璃への気持ちなど、まだまだ足りぬ」
私の気持ち。
大切な弟。ただ一人、気兼ねなく話せた、私を分かってくれていた弟。いつだって、緋色のことを一番に考えて……。
目の前で、緋色が成人を膝の上に乗せている。成人は寛いでそこに座る。頬を寄せあって、話す。
当たり前の光景。だから、誰も何も言わない。子どもたちでさえ。
そうか。
そうだったのか。
私が赤璃の後釜など考えないのと同じくらい、いやそれ以上に、緋色はそれを考えてはいない。
そんなこと、考えたりしないのだ。
1,317
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる