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A1 あったりまえじゃーん!と言いたいとこだけどね
しおりを挟むゆうちゃんはアタシの一番星だ。
いつどんな時だって、キラキラと光ってアタシの行く道を照らしてくれる。
アタシは馬鹿だから、いろいろ間違ったことをするけど、そんな時はいつも、ゆうちゃんがぎゅっと手を引っ張って、正しい道筋に戻してくれる。
そんなゆうちゃんのことがちっちゃい頃から好きだった。
いつから好きかとかもう覚えてないけど、好きの気持ちは日に日に増えていく。
きっとゆうちゃんがいなくなったら、悲しくて、悲しくて。アタシはどこかに消えちゃうに違いない。
言ったら絶対にゆうちゃんの負担になるし、重い女になるから言わないけどね。
アタシの家にはお父さんがいない。シングルマザーってやつだね。
アタシのママはキャバ嬢をやっていて、お店で出会った男と恋に落ちて、アタシを産んだらしい。
ママはその人と結婚しようと思ってたらしいんだけど、その人はアタシが生まれる前に死んでしまったと聞いている。……ほんとかどうかは知らないけど。
アタシがラッキーだったところは、シングルマザーでもママがアタシをとっても愛してくれる人だったということだ。
ママはめっちゃ売れっ子のキャバ嬢だ。ゆるいパーマをかけた、明るい栗色の髪はいつだってお手入れ完璧で、プリンになったところなんて見たことがない。ネイルもいつもお気に入りのサロンで可愛いやつ、やってるし。
なんていうか全身からいい女臭がぷんぷんしてる見た目をしている。
だけどママは真面目なところがあって、結構アタシへのしつけはちゃんとしてくれた。きっとそういうところがお客にウケてるんだと思う。ギャップ萌えってやつだね。
お行儀にも厳しくて肘をついてご飯食べると「肘つかないの!」と怒られるし、靴をそれえないでバラバラにして脱ぐと「揃えなさい!」と怒られる。
そういう基本的なお行儀については何十回も注意を受けたおかげで、元々ガサツなアタシにもマナーってやつが最低限は身についているから、ママは本当にすごいな、と思う。
生活に必要な家事も当たり前のようにちゃんとしている。料理だってママは得意だ。おしゃれで新しい、洋食はもちろんだけど、和食だってママは得意だ。ママの作ったサバの味噌煮は絶品で、アタシの大好物だもん。
ママは忙しいから作りおきの時もあるけど毎食手作りのご飯を作ってくれた。見た目めっちゃギャルだけど、本当にマメで家庭的な人なのだ。アタシはママに頭が上がらない。
そんなふうにママはアタシを女手一つでしっかり育ててくれた。
ママは咲のことが宝物、大好きだよー! っていつも口癖のように言ってくれる。アタシにとってもママは宝物だ。
だけど、世間はそうじゃない。
ママの職業がキャバ嬢ってだけで差別してくる奴はいっぱいいる。小学校の頃、咲ちゃんのお母さんはキャバ嬢だから遊んじゃだめって親に言われた、と同級生から宣言された時は、それはそれはショックだった。
そりゃ、みんなの家族とは働き方が少し違うかもしれない。でも、ママだってみんなの家族とおんなじように生活を支えるために頑張っているんだ。
アタシはママの仕事を馬鹿にされるたび、悲しくて悲しくて仕方がなかった。
……でもゆうちゃんだけは違った。
ゆうちゃんだけはママの仕事を馬鹿にしない。
一度ゆうちゃんがうちに遊びにきた時、ママはゆうちゃんとたくさん話したことがあった。それに対してゆうちゃんは
「やっぱりさきちゃんのお母さんは話術のプロだね。僕はあんまり初めての人と話すの得意じゃないけど、僕の会話の中から自分が話せる話題を拾って話を繋いでくれるんだあ。……かっこいいなあ」
という、目から鱗の言葉を放った。
本当にその時、アタシはびっくりしたのだ。
そっか、見方が違えば、こんな素敵な意見をくれる人がいるんだ。ゆうちゃんの考えは何て素敵なんだ。
そんなゆうちゃんの考えをもっと知りたいのと、一人ぼっちで家にいたくないのと、両方の理由があったアタシは、毎日放課後公園に遊びに行った。
一緒に遊んでいる間は、びっくりするほど楽しい。ゆうちゃんはアタシが虫をとって渡すと、目をキラキラさせて喜んでくれる。その表情が見たくて、いっぱい虫をとっていたら、いつの間にか、アタシは虫とりのプロになっていた。
でも、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。ひとりぼっちで家にいる、あの寂しい時間は、永遠みたいに長く感じるのに。
夕方、空の色か青からオレンジに変わっていくのを見ると、ああ、もう一人ぼっちの家に帰らなきゃいけないんだと思って途端に寂しいが押し寄せてくる。ママのいない一人ぼっちの部屋はどんな季節でも、寒くて心が震えてしまう。
夕焼けなんて、この世で一番嫌いな景色だった。
でも、ゆうちゃんのほんとの名前が「夕日」だと、夕焼けと同じものだと知った時、あの嫌いだった色がだんだん自分にとって特別なものに思えてくる。
夕日を見ると、いつもアタシはゆうちゃんの顔を思い出す。
ガリ勉なゆうちゃんの集中した顔。
ぼんやり、考え事をしている時の顔。
アタシを呼ぶときの優しい笑顔。
ゆうちゃんのことが大好きなアタシにとっては、どの表情だってアルバムに全部とっておきたいくらいの大事な宝物だ。
基本的にはゆうちゃんがいれば楽しい毎日のアタシだけど、たまに寂しいの谷に落ちてしまうことがある。
ゆうちゃんと遊んだ帰り道、働いているママを初めて見てしまった。
ママはお客さんの男の人と腕を組んで歩いていたのだ。前に聞いた同伴ってやつだろう。ママは働いているお店にいく前に、お客さんと一対一でご飯を食べてお話しをする時もあるって前言ってたもん。
お仕事だし、ママが頑張ってるからおいしいご飯が食べられているっていうことはわかっているんだけど、笑顔で歩くママとお客さんを見て、なんだか胸の奥のモヤモヤが止まらない。
ママの隣はアタシの場所なのに。その人とじゃなくて、アタシと夕飯食べてよ。
叫んじゃいたい気分になったけど、アタシはオトナのオンナだから、グッと堪える。
理不尽を飲みこむって技をちゃんと知ってるからね。
そんなアタシにピアスが初めて空いたのは小学校五年生の夏休み初日だった。
その時、ママはお仕事で指名がたくさん取れるようになってきて、一番忙しい頃だった。学校から家に帰ると、もうママは仕事に出ていて、帰って来る頃にはアタシは寝ている。
朝、ママはものすごく疲れているのに、頑張って起きてアタシのご飯を作ってくれようとするけれど、フラフラしていて顔色もなんだか白っぽいし、本当に苦しそうだった。
そんなママの姿を見たくなくて、アタシはママに寝てても良いよ、と言った。自分で朝ごはんくらい準備できるから大丈夫だよって伝えた。ママは最後まで申し訳なさそうだったけれど、ママが死んじゃう方がアタシには辛い。
そうしてアタシは唯一の家族である、ママとすれ違いの生活を送るようになっていた。
そんな暮らしが長く続くと心が寂しくて、死にそうになってくる。
大丈夫、アタシは大丈夫と、自分を誤魔化すために繰り返し心の中で唱えるけれど、アタシの『寂しい』はもう器いっぱいに溢れそうだった。
アタシは寂しさのピークで、この辺でテンション爆上げにしとかないと、消えて宇宙の藻屑になりそうだった。
なんかアタシにはそういうセンチメンタルな日があるんだよね。自分でもこの辺はコントロールが効かなくって困っている。
どうにか、テンションをあげたい。そう思いながら、ママが買ってくれた小学生向けのファッション雑誌をめくるとモデルの女の子がかわいピアスをしているのが目に入った。
そうだ、ピアスを開けたい。
そう思ったら行動は早い。アタシは夏休みに入ったその日にアクセサリーショップでピアスを買ってきてしまった。
そのままピアッサーでちゃんと開ければよかったのに、馬鹿なアタシはピアッサーの仕組みがよくわからず、自分には使えないと判断して、なにを思ったか、安全ピンでピアスを開けてしまった。
クリーニングから帰ってきたママのカクテルドレスにタグ留めとしてついていた安全ピンと学校で使っている消しゴムで耳たぶを挟んで、一思いにえいやっと穴を開ける。
痛いっと思ったのは一瞬だった。
血はだらだらと出ているし、ジクジク痛くて泣いちゃいそうだけど念願のピアスが空いたアタシは嬉しくてたまらない。
一瞬だけ、ハイになったアタシはしばらく安全ピンを放置して、少し時間がたったあと、できたてのピアスホールに買ってきたピアスを押し込んだ。
鏡に移ったアタシの耳には可愛い星型のピアスが光っていて、その時だけ自分がまた一つ可愛くなった気がして、自信が出たのだ。
そのあと、帰ってきたママはアタシを見て言葉を失っていた。
「何やってるの!!」
と言って焦ったママは、アタシの耳を見て涙を流しながら、怒っていた。自分の目が届かなかったからだ、と自分を責めてたけれど、それは違う。
全部アタシが望んだことだもの。
その日アタシはめちゃくちゃ怒られたけど、ママとたくさん話すこともできた。
それからママは仕事をセーブしてアタシとの時間を増やしてくれるようになった。
しばらくの間、アタシは可愛いピアスを見てルンルン期間を過ごしていた。夏休みだったし、先生にも合わなかったので怒られることもない。
おニューのピアスホールに浮かれていたアタシは、ハッと気づく。
ピアス開けたの、ゆうちゃんに引かれたらどうしよう……。
ヤバイ、無理、泣く。
誰に嫌われても良いけど、ゆうちゃんに嫌われるのだけは嫌だ。
それこそ嫌われたら、アタシは一瞬で宇宙の藻屑になる自信がある。
アタシにピアスが空いていることにゆうちゃんはすぐに気づいた。そして心配そうな顔で、
「痛くない?」
と聞いてきた。
「最初は痛かったけど、可愛いピアスが付けられて、アタシはちょー嬉しいんだよ!」
アタシはピアスが空いている自分のことを可愛いと思っている。空いていることで元気になって、ハッピーになったのは事実なのだ。
だけど、その自分をゆうちゃんに否定されたらどうしよう。
怖かった。世界一好きな人に自分を否定されたら、秒で消える自信あるもん。
でもそんな心配はしなくてよかったみたいだ。ようちゃんはいつもの笑顔で
「さきちゃんは星が好きだもんね~」
とのんびりとした口調で言ってくれた。好きな人に否定されなかった。それがアタシにとってどれだけ嬉しかったことだろう。
それからアタシは心が寂しくなってどうしようもない時、ピアスを増やす。
そうして、アタシはナイーブセンチメンタルな病みメンタルを鎮めるのだった。
そんなこんなでアタシの見た目はどんどん派手になっていた。
高校一年生になる頃にはもう全身ギャルだ。
仕方ない。なりたい自分にメタモルフォーゼしているだけだもん。
この格好は男ウケは悪いけど、自分ウケは100%なんだから。好きな自分になるとテンション上がって毎日楽しいしね。
そんなアタシに向かって、ゆうちゃんは相変わらず、のんびりとした口調でいう。
「なんかさきちゃんはギャルっぽくなるにつれ、楽しそうになるね。自分のモチベーションのあげ方をちゃんとわかってるんだね」
もうほんとその通り、それな!
これをわかってくれるなんて、マジ菩薩。仏じゃね?
もう、ゆうちゃんマジヒーロー、世界一かっこいい。
こんな感じで、アタシはゆうちゃんが大好きだ。
心の底から愛してる!
だけど、ゆうちゃんめちゃ鈍だからアタシの好意には気がついてなさそー。
アタシたちは相変わらず色気もクソもないし、セミ爆弾でゲラゲラ笑ってしまう。
いつまで経っても感性が小学生とかヤバイな。
でもこの関係が楽しくて、壊したくないのも事実だ。もし、アタシが今告白して、振られるくらいならこの関係性の方がいい。
失いたくないものを持つと、どうして人はこんなに臆病になってしまうんだろう。
「ああ、来年も再来年も、こうやってたいな~」
とか素で言うくせにね! あーもうっ!無自覚で、揺さぶってくるゆうちゃんが憎い。もう憎い。ウガー‼︎
憎さでついゆうちゃんを強めに叩いてしまう。
ゆうちゃんは痛い……、痛い……って言ってるけどゆうちゃん細いなあ……。これ以上強く叩いたら飛んでっちゃいそう。
そういえばゆうちゃんは自分が身長があんまり高くないの気にしてるみたいだけど、高いところのものはアタシがとればよくね?どーでもいいけど。
鈍感ゆうちゃんにいきなり恋愛モード突入!はかわいそうだから、じっくり、じっくり、攻めるつもり。
今はまだ友達でいてあげる。
これから関係性は変化するかもしれない。
長期戦で行くからゆうちゃん覚悟しといてね!
……あ、でもゆうちゃんに変な女ができたらぜってえ潰す。確実に潰す。
それだけはマジで決めてるから!
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