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Q2 抱きついてくる行為に不埒な感情なんてないですよね?
しおりを挟む猛ダッシュで学校に向かった僕たちは、始業のチャイムになんとか間に合った。
僕たちは下駄箱で手を振って別れて、それぞれのクラスに入っていった。
そう。残念ながら僕たちはクラスが違うのだ。
うーん、こればっかりは本当に残念なんだけど、さきちゃんはあんまり勉強ができないのだ。
行きたい大学があるので、そこそこでいいから進学校に入りたい僕。
頑張って勉強しても、あんまり結果が出ないさきちゃん。
二人でどうしても同じ高校に行きたくて、どうにか方法がないか、中三の時は二人でいっぱい相談した。
それで見つけたのが今の高校だ。
僕たちが通う、三河谷高校は特進科と普通科に別れている。
A組だけが特進コースで、残りのB・C・D・E・F・G組は普通科だ。
クラスによって偏差値が変わる仕組みになっているので、これなら僕たちでも同じ学校に入れる! とこの学校を見つけた時は二人で喜びあった。
さきちゃんはこの学校に入るのにも成績が足りなくて最後の方はもう詰め込めるだけ詰め込んで、頑張って合格した。結構無理して勉強していたけれど、今ではいい思い出である。
試験の結果、僕はA組で、さきちゃんはF組なので授業もあまりかぶらないし、教室が遠くてなかなか会えない。
だけど、登下校は一緒に帰れるから、それだけでいっかな、と自分を納得させている。
おんなじクラスだったら、絶対楽しかったと思うんだけどな……。でも、絶対授業中にちょっかい出してくるから集中できないか。
僕は小さい頃から大好きな虫取りから生き物に興味を持って、将来は学芸員になりたいなと思っている。
そうすると大学に行ったほうがなりやすいので、今から勉強を結構頑張っている。
さきちゃんにはガリ勉って言われるけど。
教室に入って、自分の席につく。入学してすぐにあった席替えで、僕はラッキーなことに窓際の列の席をゲットすることができた。
五月の優しい風がカーテンを揺らしている。爽やかな風が真っ先に通ってくるから、窓際の席っていいよな。
カバンの中に入っている荷物を整理し、授業の準備を整えていると同じクラスの飛鳥が話しかけてくる。
「おはよーっす!夕日!
今日も相変わらず、F組ギャルの彼女と登校ですか~。
いや~、お熱いですねえ!
……羨ましい!うらめしい!!」
飛鳥は僕の肩に巻きつくようにしてグリグリと首を絞めてくる。……く、苦しい。
「離せっ!」
僕はついに耐えられなくなって、飛鳥の頭をバシバシ叩く。
……なんでいつも飛鳥は絡んでくるんだろう。
そんなに僕たちって目立つのかな?
飛鳥は特進科の中でも頭の良いほうだし、バスケ部にも、さわやかボーイなのだが、なぜかモテない。
稀に彼女ができても、思っていたのと違う、と言われてすぐに別れてしまう、残念系男子なのだ。
そんな彼は僕とさきちゃんの関係が気に食わないようで、いつも突っかかってくる。
「いや、夕日は特進科の中でも一番と言って良いほどのガリ勉じゃん? 休み時間もずーーーーっと勉強してるし。正直よくやるわと思うわ。……な・の・に・さ! なんで彼女いる訳⁉︎ ずるくない? なんかめっちゃくちゃずるくない⁉︎ なんかチートでも使ったんか!?」
「……使ってないよ」
チートってなんだよ。ファンタジー小説じゃないんだから。
さきちゃんと仲良くなるために、ズルとかしてないし。
さきちゃんと僕は、性別こそ違うけど清く正しく、誠実な人間関係を築けていると僕は自負しているけれど。
まあ、気が合う幼なじみが近所に住んでたっていうのは幸運だったけどね。
なんだかよくわからないが、飛鳥はズビズビ泣きながら、また僕にしがみついてくる。スキンシップがうざったい。
僕のお腹に腕を回して動かない。離れようとするともっと強くしめられてしまう。うっ、苦しい。内臓が出ちゃったら、どうするつもりなんだ……。
今日の朝、登校の時にさきちゃんに同じことされても、ムカつくことなんかちっともなかった。だけどむさ苦しい野郎に同じことをやられるのは、ただの罰ゲームでしかない。
「飛鳥はさきちゃんじゃないんだから、腕を腹に巻きつかせるのやめろ!」
「え?ギャル子ちゃん、こんなにひっついてくるの?」
飛鳥の腕から力が抜けて、やっと気持ち悪さから解放される。腕をペイッと投げて、飛鳥の顔を見るとなんだか血を失った白い顔で呆然としている。
「あーすかー? どうした? いきなり静かになると怖いぞ……」
飛鳥の首がグルンっと勢いよく僕の方を向く。
なんか顔、怖くない?目がいっちゃってるんだけど。
え? やだ、怖い。僕殺意向けられてる⁉︎
飛鳥はナイフでも突き刺してきそうな、恐ろしい顔をしている。
こんな怖い顔をしている飛鳥、初めてみた。
「お前@*¥血hぐい?」
「え?」
なんだ?早口すぎて聞こえなかったんだけど……。
飛鳥は顔を両手で覆いながら、床に崩れ落ちながら言った。
「お前そんなラッキースケベ毎日あんの!?」
「はあ~?」
僕は呆れから力の抜けた声を出してしまう。
「だって、ギャル子ちゃん、めっちゃおっぱいおっきいじゃん! Yシャツも第二ボタンまで開けちゃってさ~!ハーなんなん! あんな可愛い子のおっぱい毎日当てられてんの!?」
飛鳥……。お前そこしか見てないのか?
確かに……。さきちゃんは胸は大きいかもしれないけど、大切なのはそこじゃないんだ。
さきちゃんは寂しくなるとくっついてくるだけなんだよ。
そこに気心のしれた無害な僕が、ちょうどよくいるから抱きついているだけだ。彼女にとって僕は枕元に並んでいるキティーちゃんのぬいぐるみと同じ。そんな不埒なこと考えちゃいけないんだ。
不意に、さきちゃんの感触が頭を過ぎる。
僕とは違う女の子の柔らかい質感の肌、去年さきちゃんママがクリスマスにプレゼントしていた、クリスチャンディオールの香水の甘くてどこか懐かしく、記憶をくすぐる優美な香り。
情景が頭の中でリフレインするように何度も甦る。一応、健全な男子校生である、僕の頭はそれで埋め尽くされてしまう。
__忘れろ。今すぐ忘れろ‼︎
……僕はおっぱいのことなんて考えていない。考えてない、考えてない、考えてない‼︎
……はぁーーー。
僕は一瞬崩れた表情を立て直し、飛鳥を睨み付ける。
きっと顔が赤くなったのは、バレていないはずだ。
そういうこと考えて、口に出しちゃうから飛鳥はモテないんだよ。
「あのな、飛鳥。さきちゃんは人肌が恋しくて……」
「ひっ、ヒトハダァーー⁉︎ 何言っちゃってんの夕日、エロッ‼︎」
「もう黙ってくれるぅーーー⁉︎」
じたじたじたじた。飛鳥はまだ何か不埒なことを言っている。……もう付き合いたくない。
もうだめだ。疲れた。
僕をこの男から解放してくれ……。頼む。
話が全く通じないんだ……。
……もう飛鳥と絡むのヤメタイ。
もう我慢ならなくなった僕は飛鳥の襟をガッと掴む。
自分の中で、一番広角の上がった状態の笑顔を作り、彼に向ける。
「飛鳥」
「んん~? お前、自分がどんだけ恵まれたラッキースケ」
「黙れ」
「ひゃい……」
ドスのきいた声で言い放つと、飛鳥はやっと静かになった。
いくら特進クラスの生徒で学力が高い人間だとしても、人の話を聞かない奴は、人間として駄目だ。ほんとに。
人間関係に必要なのは学力じゃない。相手の気持ちを慮る気持ちだ。
まだ遠くの方で「俺だってギャル子ちゃんと話したいよー!」とか言う、みっともない誰かさんの声がする。
死んでもお前なんかと大切なさきちゃんを会わせねーよ、バーカ。
やっと飛鳥から逃れられた僕は朝学習の時間の準備を始める。
今日はどこを復讐……、おっと間違えた。復習しようかな。
飛鳥と絡みすぎて、ブラックな思考がまだ払拭できていない。
A組の朝学習の時間は自分の好きな教科を自分で選んで、勉強して良いことになっている。
さきちゃんのクラスは担任が毎日プリントを作ってくれて、それをやらされるから嫌いって言ってたけど、そうでもしないとさきちゃんは勉強しなさそうだから、僕はありがたく思っている。
さきちゃんはちょっと無理してうちの学校に入ったから、在学中は勉強を頑張らなくちゃいけない。
ちゃんと無事に卒業させると、僕はさきちゃんママと約束をしているのから、頑張らなくちゃ。
僕がテキストを開き、集中しはじめたと思った時。
「ねえねえ」
と肩を叩かれた。
叩かれた方向を向くと、斜め後ろに飛鳥が座っている。
……なんでこいつと席近いんだ。くじ運ないわー。
「何?」
またドスのきいた声で簡潔に二文字を放つ。
飛鳥はしょぼくれた、申し訳なさそうな顔をしている。
「さっきは悪かったよ……いじりすぎた」
飛鳥も流石に気にしていたのか、先ほどの非礼をボソボソとした声で詫びる。
……ったく。じゃあ最初からやるなよ。
「別に。良いから」
「いや、ほんと悪かったって。俺はなんつうか、その……。あんなにカワイイ彼女がいる夕日が羨ましくてさ……。お前ら正反対なのにめちゃくちゃ仲いいじゃん」
仲が良さそうに見えるのか。嬉しいこと言ってくれるじゃん。飛鳥のくせに。
……でも一点だけ、彼の認識が間違っている部分がある。訂正が必要だ。
「僕とさきちゃんは付き合ってないから。幼なじみなだけ」
一瞬、空気が静まる。
さっきまでざわついていた教室から一気に音が消え去って、静寂が広がっている。
飛鳥の呼吸音がうるさく感じてしまうくらいには静かだ。
なんでだ? クラス全員が動きを止めている。
まるで、僕らの話を聞き耳立てて聞いて、その答えに驚いたみたいに……。
飛鳥が僕の両方を掴むように叩いてくる。
「夕日……」
なんか、むかつく表情をしていやがる。……なんだその顔。
飛鳥はまるで同情をしたかのような、やさしい微笑みで片方の口角を上げている。
「お前も俺と同じくモテない連盟の会員なんだなっ!」
いたずらで楽しそうにはずんた、スカッタートを含んだ口調で飛鳥が笑う。
わなわな怒りが湧いてくる。
「お前と、一緒にするなぁーーーー!!」
大きな声で叫んでしまったからか、クラスメイトの視線が僕に集中している。
教室中のクラスメイトがニヨニヨとした、むかつく笑顔と、同情で埋め尽くされている気がする。
僕はそれに気が付きたくなくて、机にダン!と音を立てて、勢いよく突っ伏した。
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