幼なじみはギャルになったけど、僕らは何も変わらない(はず)

菜っぱ

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A3 そこがブラジルだったとしても秒で行くからな!

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 珍しくねちょがお昼を一緒に食べられないと言うので、今日は違うメンツでご飯を食べていた。

 どうしよっかなー、一人で食べてもつまんないしなーと思ってポツンとお弁当をひらいていたら、他のグループの子がちょいちょいと手招きして一緒に食べてくれたのだ。

 やっぱりこのクラスは優しい人が多くて好きー!

 F組の子は結構見た目が派手な子が多い気がする。多分世間様にはギャルって一まとめにされるんだと思うけど、見た目が派手でも中身は一人ずつ違う。

 今日一緒にご飯を食べた子は、韓国アイドルが好きな子と、ネイルに命かけてる子だった。
 いつも、ねちょと話していることは少し違った内容で盛り上がっている。
 話していると新しい知識が入ってくるのでとっても楽しい。
 
「さき、自分でお弁当作ってるの!? えらっ!」
「でも今日はただのサンドイッチだから、めちゃやる気ない飯だよ」
「いや、まずさ。作るのが偉いんよ!?」
「それな!?」

 素直に褒めてくれるみんなの優しさにアタシはちょっと照れ臭かったけど、心があったかくなった気がした。

 みんなと話していると、もう行きたい方向が決まってて、それに向かって突き進んでいるんだな、っていうのがめっちゃ伝わってくる。

「アタシはF組でよかったなー。Aとかだとめっちゃ勉強大変そうじゃん? 時間に余裕があるからネイルの勉強する時間があって助かる」
「まじで、それな! アタシも時間がないと好きなアイドルの動向追えないもん! 最近、ハングル勉強したから、インスタの書き込み追えるようになったから、時間がいくらあっても足りねーの!」
「まじで!? 執念じゃん! ヤバ! つえー!」

 わかる。愛は自分の限界をめっちゃ楽に超えさせる力があるよね。
 アタシも料理苦手だったけど、ゆうちゃんに食べてもらうって目標のためにめっちゃ練習したもん。
 
 二人はこのまま好きなものを追いかけるために、専門学校に行ったり、留学を考えたりしているらしい。もう進路が決まっているみたいだ。

 すごいなあ、みんな目標があってこの学校に入学してきたみたい。

 ……アタシそういうの全然ないんだよなあ。

 ゆうちゃんと一緒に居たくて、追いかけるようにこの学校に入ってきちゃったからみんなみたいに夢とか目標とかがちゃんとあるわけじゃない。みんながちょっとだけ羨ましくなる。

「みんなはいいなあ、将来の目標が決まってて。アタシそういうのないや」
「え? でもさきはあのA組の奴と一緒の高校に入りたくて、うちにきたんでしょ」
「うん、そうだけど」

 それがどうしたんだろう?

「それも一つの目標じゃん。一人の男を追いかけるってのも人生なんじゃね?」

 その視点は全然なかった。アタシは驚きのあまり、そう言った彼女のことをめっちゃ凝視してしまった。

「その意見、神だわ! アタシの人生に採用する!」
「よかったじゃーん‼︎」

 そんなふうに笑いあっていたら、いろんなモヤが少しづつ晴れてきた気がする。夢とか目標とか、その形は自分次第なんだな。

 アタシが嬉しい気持ちでご飯を食べ進めていると、何やら廊下から騒がしい音が聞こえてくる。誰かが猛スピードで走っているみたいだ。
 その人影は走り込みながらうちの教室に駆け込んでくる。

 入ってきたのは、ねちょと敦也だった。
 二人ともどうしたんだろ?

「え? 何? どうしたん?」

 二人は相当急いで走ってきたようで、息を切らしている。少し時間をかけて息を整えたあと、堰き止めていたものが溢れ出るような勢いでアタシに話し始めた。

「さき! ゆうちゃん落とすの逆にめっちゃむずいのかも」
「アイツ死ぬほど鈍いぞ!」

 二人は捲し立てるように話し始める。
 え? 何を今更? 
 てか、敦也、誰の許可とってゆうちゃんと話してんの? アタシは敦也にガンつけた。

「何? ゆうちゃんになんかしたの? 迷惑かけたら、マジで裏の沼に突き落とすからな!」

 うちの学校の裏には、竹藪に囲まれた沼がある。自殺の名称としてちょっと有名で、中を覗き込むと車が一台丸々落ちていたりするので、突き落とされたら、テンション下がるだけじゃ済まないだろう。

 マジでゆうちゃんに危害加えたらやるからな!

「え!?  何それ! めっちゃ嫌なんですけど!
 絶対やめろよ! うわあ、さき。目が座ってる。マジで怖っ!」
「あ、さき。大丈夫だよ。敦也なんもやってないから。睨みつけたくらいだから」
「やってんじゃねーか! テメエ、表に出ろ!」
「やってません! やってませんから!」

 ギャイギャイ、うるさく言ってんのはいいけど、どんどん本題からずれてきている気がする……。

「え? てか、なんだっけ?」
「え? あ、そうそう。アタシらちょっと購買行くときに”ゆうちゃん”を 見つけてさ。話してみたんよ」

 二人とも最初からそれが目当てで、ご飯一緒に食べなかったんだな?

「そしたらさー……。あいつ、さきからの好意に全然気づいてねーの」
「……それはアタシだってとっくの昔に気がついてるよ」

 ゆうちゃんは鈍い。めちゃくちゃ鈍い。アタシにも、高校生になれば周りがきっと囃し立ててくれるし、ほっといてもお互い意識して、どうにかなるんじゃない? って言う甘い夢を見ていた時期がありましたよ。

 高校生くらいからみんな本格的に恋愛モードに入る子多いじゃん!?

 でもゆうちゃんは違うの。あくまで幼なじみの関係性を壊さずにいるつもりなの!
 それを分かりきっていながら、あえて他人から言われると自覚が強くなって辛いもんがあるわー。マジムリ。

「もう、ムリとツラ」

 あ、ぐりとぐらみたいになっちゃった。

「え? 森でパンケーキ焼く?」

 あ、ねちょには伝わった。さすが国民的リス。

「え? パンケーキ食べ行くの!? 俺めっちゃデート向きなかわいい店知ってる!」

 どうしてこの話題からパンケーキになっちゃったんだろう。敦也とはぜってえ、行かねーからな。
 あ、でもゆうちゃんが甘いもの結構好きだから、店名だけは教えてもらおう。あとでゆうちゃんと一緒に行きたい。

 店名教えて、と言ったら敦也は快く教えてくれた。意外と学校に近いところにあったから今度ゆうちゃんと寄ろう。
 今日は良い情報に免じて許してやろう。




「てかさー、さきめっちゃ愛されてんじゃん」
「え? 何が?」

 話の流れを変えるようにねちょがそう切り出した時、アタシはちょっとどきっとした。
 ねちょはいったい、どの部分にそう感じるところがあったんだろう。

「ゆうちゃん、ブラジル行くとこだったんでしょ?」
「え?」

 アタシは多分一瞬で大量の冷や汗をかいたと思う。絶対今日の朝、念入りに時間をかけてぬったファンデと下地、全部どっかいった。
 瞬きしすぎて、つけまも飛んでった気がする。

「そんなの初耳なんだけど……」
「さきには言ってないって言ってたもんね。」

 ねちょはさっきゆうちゃんから、聞いた情報をこと細かく説明してくれる。

 どうやら、ゆうちゃんのとーちゃんとかーちゃんはブラジルの研究所に行くことになったらしい。やべえ。
 あー、そういえば最近、ゆうちゃんのとーちゃんとかーちゃん見てないわあ。アタシはゆうちゃんにそっくりなメガネ姿の二人の顔を頭に思い浮かべる。

 二人はめっちゃ頭良くて、きっとアタシとは話が合わないだろうに、アタシの話をよく聞いてくれる、めっちゃ優しい大人たちだ。ゆうちゃんちに行くと、いつも夕日と遊んでくれてありがとね、と朗らかに含みなく言ってくれる。

 アタシはいつも百パー下心満載なんだけど、そんなの全く気づいてなさそうなんだよね。多分ゆうちゃんが鈍いのはあの二人の遺伝だ。まさかブラジルに行ってたなんて思いもしなかった。





 アタシはゆうちゃんがどっか行っちゃう可能性があるなんて、ちっとも考えてなかった。
 ゆうちゃんが隣にいない毎日を想像してみる。

 登校時も、下校時も、夕ご飯のときも、週末も、ゆうちゃんがいない。
 勉強に困った時だって、変なやつに追いかけられた時だって、寂しくって消えちゃいそうな時だって……。

 考えているだけで寂しくて堪らなくなる。そんなの無理だ。絶対耐えられない。

 考えていると、涙がダバダバ出てしまった。
 きっと、目元はひどいパンダ目になってるに違いない。

「あああ! さき、泣かないでぇ!」
「だ、大丈夫だよ! さき! あいつがどこに行ってもさきは絶対追いかけるだろ?」

 そう言われて、ハッと気がつく。

 そうか、世界の果てまで追いかければいいんだ。
 どこにゆうちゃんが居ようと関係がない。アタシの居場所はゆうちゃんのいるところだ。
 そこにたどり着くためなら、どんな努力だってしてやる。

 例えそこが、ブラジルだとしても!

「ありがとう‼︎ 二人とも! アタシめっちゃ元気出てきた!」
「大丈夫? さき、テンションの上がり下がりが激しくない? 日経平均株価かよ。いや、全然知らんけど」

 敦也が上手いこと言おうとして自爆しているのは放っておこう。アタシは今めっちゃ、テンション乱高下中だから構ってる余裕がないのだ。

「とりま、便所で顔直してきなー!」

 ねちょが優しいお姉さんの顔でアタシに言ってくれる。やっぱ顔やばいんだ。
 ぐちゃぐちゃな顔面をこれ以上晒すのはアタシの美学に反する。

 アタシは片手でやっと持てるくらいのでかいドピンクの化粧ポーチをぐわしっと握り締めた。(ゆうちゃんに昔、重すぎて武器でも入ってるの? と真顔で聞かれたことのある逸品だ)

「そうする!」

 トイレで化粧直しをすれば、赤くなった目元も少しはマシに隠せると思う。今よりもかわいい顔で、放課後はゆうちゃんの前に立つんだ。
 




 放課後、授業が終わったら、荷物を秒でつめて、ゆうちゃんのクラスにバビュンと向かい、ゆうちゃんを確保した。

 アタシの手元からゆうちゃんがどっかいかないように力を込めて、ゆうちゃんの体をぎゅうぎゅうに抱きしめる。

「え? どうしたの?」
「ゆうちゃんは今からブラジル行っちゃったりしない?」

 アタシは念のために心配だったことを聞いてみる。

「行かないよ。ここにいるよ」

 そう笑った、ゆうちゃんの答えはどれだけアタシの心を安心させただろう。
 でもこれからゆうちゃんがどこかに行ってしまっても、アタシはどこまでもついていく。

 ブラジルでも、秒で行ってやる。
 
「あの……。さきちゃん、く、苦しい……」

 ギュッと抱きしめたゆうちゃんが、なんだかだんだん白っぽくなって気がするけど、見てないことにする。
 だって話したらゆうちゃんどっか行っちゃう気がするんだもん。




 絶対に逃さない!

 

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