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トウカとの話しからしばらく経つが、イオリは至って普通だ。不満のひとつも言わない。しかし何も言わない、何も変わらないのはイオリだけでイオリに対する不平不満は俺の耳にも届くようになっていた。
イオリが仕事をしていないのならイオリへ注意のひとつでもして終わりであったが、どうやらトウカの言う通り、ぽっと出てきたような存在が俺の側近だということが気に食わないような内容のものばかりだったためどうしようもない。さらにその不平不満の出所が俺の部隊の者たちを中心にしているらしく、やっていることはよくないが、気持ちもわからなくはないので無下にもしにくい。
せめてイオリが弱音でも吐いてくれたら楽だろうが……。
イオリを連れてきた当初とは全く別のことを思いながら、俺の髪にニコニコと櫛を通し整えているイオリに声をかける。
「イオリ、最近なにか変わったことはないか?」
「いえ、なにも?…リッカ様できました!今日も綺麗に結えたと思うのですがどうですか?」
…俺はべつに髪型はなんでもいい。好きにしてくれ。ニコニコと満足そうに感想を聞いてくるイオリにイライラし、その肩の怪我のことを聞いているんだと言外にわからせるために、イオリの右肩に手を置き、「そうか」と返事をしながらグッと力を込める。
「い、痛いです、リッカ様。」
笑顔を引き攣らせるイオリに何が言いたいかわかっているだろうと睨みつければ困ったような顔をして視線を逸らされる。
最近はこんな調子だ。当事者であるはずのイオリが自分のことに無関心すぎる。場内の、特に俺の部隊の雰囲気が悪いのも、俺としては好きにしてくれという感じだが仮にも責任者なのでそういうわけにも行かない。仕事を減らすためにイオリを連れてきたのに、面倒くさい仕事が増えてしまった。
「はぁ。」
朝食を食べながらため息をつく。
「リッカ様がため息なんて珍しいですね。最近は何かお悩みもあるみたいで、僕が力になれればいいんですが……。」
心配そうに声をかけてくるイオリに「お前のことだよ!」と怒鳴ってやりたかった。
俺はもう一度ため息をつくと、「行くぞ」と声をかけ朝食もそこそこに仕事へ向かうことにした。
いつものように俺とイオリが執務室へ入ると珍しくレオナがいた。イオリはレオナに気づくと隅で小さくなる。どうやら苦手なようだ。
「俺のとこまで噂が広がってるぞ。」
開口一番、レオナが興味無さそうに言ってきた。
「………あ~・・・。」
なんのことを言っているのか分かるだけに言葉に詰まる。目を逸らせてポリポリと頬を掻くことしかできない。
「別になぁ、リッカの部隊が荒れようがどうでもいいんだけど、そんなことはよくあるからな。ただ、イオリの出自を探ろうとする動きがあるのがなぁ。流石に奴隷市場で買ったは体裁が悪い。」
レオナにハッキリと言われる。俺としてはイオリが奴隷出身だということはいつまでも隠し通せるものでもないからあまり隠す気も無かったが……。黙っているとレオナが続けた。
「奴隷出身は別にいい。だがな、リッカが買ったっていうのがよくないなぁ。俺は奴隷売買を良しとはしてないからな。俺に使えるリッカが奴隷を買ったとなるとまた貴族の奴らがうるさくなるぞ。」
「…いつまでも隠し通せるものでもないだろう。俺はバレたらその時だと思うが?」
「それで?バレて貴族の奴らに弱みを見せて、それが事実だとしてリッカはどうするんだ?俺の側近、辞めるのか?…許さねぇぞ。」
レオナが怒気をはらんで言う。俺はこの仕事にそこまでの執着はない。仕事内容や待遇について不満はないがなぜ続けているのかと言われればレオナが頼んできた仕事であって、レオナが辞めることを許さないからだ。
「俺は別に。レオナも俺にこだわる必要はないだろう。」
こういうことを言うのは悪手な気がしたがつい口をついて出てしまった。レオナが目を細めて笑いかけてくる。これは…相当怒らせたか?
「俺はリッカを離すつもりはないぞ。切るならイオリを切る。………ま、俺もイオリのことはいずれバレるとは思ってるからな。それにしても今はまだ都合のいい言い訳が揃ってないから時期が早い。リッカ、お前の部隊が落ち着けばそれでいい話なんだよ。部隊の奴らと話つけるか、イオリを手放すか、どっちかだな。」
上手くやれよと去り際にレオナが耳打ちしてくる。「わかってるよ。」と小さく言えば満足したように手をヒラヒラとさせ執務室を出て行った。
レオナが怒るとどうにも圧がすごい。「はぁ。」とため息をついているとトウカが入ってきた。
「さっきレオナとすれ違ったけど。なに、レオナに怒られたのリッカ。可哀想~。ちゃんと俺があらかじめ教えといてあげたのに。」
俺の様子を見るなり楽しそうにトウカが言ってくる。わかってたならもっと強く言ってくれ。茶化してくるトウカにげんなりする。
ふとイオリの方を見れば青ざめてこっちを見ている。初めて見るイオリの青ざめてる様子が面白くてつい笑いながら「気にすんな」と声をかける。
そんな俺とイオリを見ながらトウカが「リッカの笑った顔、久しぶりに見た。」と感心したように呟いた。
イオリが仕事をしていないのならイオリへ注意のひとつでもして終わりであったが、どうやらトウカの言う通り、ぽっと出てきたような存在が俺の側近だということが気に食わないような内容のものばかりだったためどうしようもない。さらにその不平不満の出所が俺の部隊の者たちを中心にしているらしく、やっていることはよくないが、気持ちもわからなくはないので無下にもしにくい。
せめてイオリが弱音でも吐いてくれたら楽だろうが……。
イオリを連れてきた当初とは全く別のことを思いながら、俺の髪にニコニコと櫛を通し整えているイオリに声をかける。
「イオリ、最近なにか変わったことはないか?」
「いえ、なにも?…リッカ様できました!今日も綺麗に結えたと思うのですがどうですか?」
…俺はべつに髪型はなんでもいい。好きにしてくれ。ニコニコと満足そうに感想を聞いてくるイオリにイライラし、その肩の怪我のことを聞いているんだと言外にわからせるために、イオリの右肩に手を置き、「そうか」と返事をしながらグッと力を込める。
「い、痛いです、リッカ様。」
笑顔を引き攣らせるイオリに何が言いたいかわかっているだろうと睨みつければ困ったような顔をして視線を逸らされる。
最近はこんな調子だ。当事者であるはずのイオリが自分のことに無関心すぎる。場内の、特に俺の部隊の雰囲気が悪いのも、俺としては好きにしてくれという感じだが仮にも責任者なのでそういうわけにも行かない。仕事を減らすためにイオリを連れてきたのに、面倒くさい仕事が増えてしまった。
「はぁ。」
朝食を食べながらため息をつく。
「リッカ様がため息なんて珍しいですね。最近は何かお悩みもあるみたいで、僕が力になれればいいんですが……。」
心配そうに声をかけてくるイオリに「お前のことだよ!」と怒鳴ってやりたかった。
俺はもう一度ため息をつくと、「行くぞ」と声をかけ朝食もそこそこに仕事へ向かうことにした。
いつものように俺とイオリが執務室へ入ると珍しくレオナがいた。イオリはレオナに気づくと隅で小さくなる。どうやら苦手なようだ。
「俺のとこまで噂が広がってるぞ。」
開口一番、レオナが興味無さそうに言ってきた。
「………あ~・・・。」
なんのことを言っているのか分かるだけに言葉に詰まる。目を逸らせてポリポリと頬を掻くことしかできない。
「別になぁ、リッカの部隊が荒れようがどうでもいいんだけど、そんなことはよくあるからな。ただ、イオリの出自を探ろうとする動きがあるのがなぁ。流石に奴隷市場で買ったは体裁が悪い。」
レオナにハッキリと言われる。俺としてはイオリが奴隷出身だということはいつまでも隠し通せるものでもないからあまり隠す気も無かったが……。黙っているとレオナが続けた。
「奴隷出身は別にいい。だがな、リッカが買ったっていうのがよくないなぁ。俺は奴隷売買を良しとはしてないからな。俺に使えるリッカが奴隷を買ったとなるとまた貴族の奴らがうるさくなるぞ。」
「…いつまでも隠し通せるものでもないだろう。俺はバレたらその時だと思うが?」
「それで?バレて貴族の奴らに弱みを見せて、それが事実だとしてリッカはどうするんだ?俺の側近、辞めるのか?…許さねぇぞ。」
レオナが怒気をはらんで言う。俺はこの仕事にそこまでの執着はない。仕事内容や待遇について不満はないがなぜ続けているのかと言われればレオナが頼んできた仕事であって、レオナが辞めることを許さないからだ。
「俺は別に。レオナも俺にこだわる必要はないだろう。」
こういうことを言うのは悪手な気がしたがつい口をついて出てしまった。レオナが目を細めて笑いかけてくる。これは…相当怒らせたか?
「俺はリッカを離すつもりはないぞ。切るならイオリを切る。………ま、俺もイオリのことはいずれバレるとは思ってるからな。それにしても今はまだ都合のいい言い訳が揃ってないから時期が早い。リッカ、お前の部隊が落ち着けばそれでいい話なんだよ。部隊の奴らと話つけるか、イオリを手放すか、どっちかだな。」
上手くやれよと去り際にレオナが耳打ちしてくる。「わかってるよ。」と小さく言えば満足したように手をヒラヒラとさせ執務室を出て行った。
レオナが怒るとどうにも圧がすごい。「はぁ。」とため息をついているとトウカが入ってきた。
「さっきレオナとすれ違ったけど。なに、レオナに怒られたのリッカ。可哀想~。ちゃんと俺があらかじめ教えといてあげたのに。」
俺の様子を見るなり楽しそうにトウカが言ってくる。わかってたならもっと強く言ってくれ。茶化してくるトウカにげんなりする。
ふとイオリの方を見れば青ざめてこっちを見ている。初めて見るイオリの青ざめてる様子が面白くてつい笑いながら「気にすんな」と声をかける。
そんな俺とイオリを見ながらトウカが「リッカの笑った顔、久しぶりに見た。」と感心したように呟いた。
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