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1章
8
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それから魔王様は、敗れたことが酷く悔しくて、より強い相手を求めてあちこちを飛び回ったが、あまり成果は得られなかった。
そこで、今まで戦ってきた相手から様々な物を強奪しており、この餌を使わない手は無いと思った。
「魔王城にはたくさんの宝があります。欲しい人は取りに来てください」
すると、魔王様が命を取らない事を知っている者達は次々に魔王様に挑むようになった。
数十年経った時、1人のまだ若い16歳ぐらいの端整な顔立ちをした少年が挑んできた。その人は「自分も強くなりたい」という理由で魔王城へやってきた。
「魔王様、私と戦ってください」
その少年はなかなかセンスが良く、みるみるうちに強くなったが、魔王様としては少し物足りなかった。
とはいえ、このまま強くなれば少しは手応えを感じるかもしれないと、魔王様も特別断ることはなかった。
毎日来たかと思えば、1ヶ月空けることもあった。まちまちではあったが通い続け、3年が経った。
剣と拳を交え終わり、いつもならすぐにこの少年は帰るところだが、この日は違った。
19歳になった少年は元より端正であったが、幼さが消えてより男前になっている。
「魔王様の名前を教えてもらえる?」
その日初めて、この少年は魔王様に興味を持ったようだった。魔王様は名乗ることがあっても、名前を聞かれることは殆どなかった。
「私の名前はリンドハイムです。知りませんでしたか?」
「それは後ろでしょ?前は?私はラン・シュエイシカ」
魔王様も初めてこの少年の名前を聞いた。魔王様にとっては名前よりも戦いの方に関心があるからだ。
とはいえ彼が名乗ったのであれば、自分も名乗らない選択肢は無い。
「私はレイ・リドハイムです」
「そう、それなら私のことはランシュエって呼んで」
何故ランシュエなのか?シュエイシカでは駄目なのか?と考えたところで、少年は続けた。
「私は魔王様のことをレイリンって呼ぶから」
「は……?」
「ぷっ」
魔王様は呆然となり、顔が少し赤くなった。恥からか怒りからかはわからない。
リタは笑いを堪えている様子だった。魔王様はリタの方を睨み、リタは咳をして誤魔化した。
「ダメです。そんなの絶対に許しません」
「何故?可愛い名前だよ」
可愛いという形容の仕方に、魔王様もどうするべきか悩んだ。だが、ここで引く魔王様ではない。
「可愛い?どうやらランシュエは私を可愛がってくれるようですね?」
妖艶な笑みを浮かべて少年へにじり寄った。少年がここへ通うようになった時、身長は魔王様の方が上だったが、今では少年の方が背が高くなってしまっていた。
魔王様は少し見上げ、少年の顎を掴んだ。
魔王様にとってこれはやり返したつもりだ。自分の容姿のことは自覚しているため、この少年が慌てたり、頬を染めたら面白いだろう、そう考えていた。
もし気持ち悪いと思ったのなら、それはそれで面白いだろうから構わない。
だが魔王様の予想と反して、少年は魔王様の腰を引き寄せてしまった。
「可愛がってほしいの?」
「…………」
これには魔王様もリタも何も返せなくなってしまった。と同時に、魔王様の唇に柔らかいものが触れた。
リタの面持ちは変わらないが、僅かに眉を上げた。
魔王様は、何が起こったか理解出来ていない様子だった。少年は自分の顎に触れていた魔王様の手を取った。
「続きはどうする?」
少年は優しく微笑みどこかへ連れて行こうとするが、ここで魔王様も正気に戻った。
「誰がしますか!」
かっと目を見開き、右手を振りほどき、そのまま振り上げて少年に殴りかかった。
「冗談だよ。また来るね」
軽く魔王様の拳を避けると、とてもとても良い笑顔で少年は魔王城から去っていった。
「リタ、これはどう言うことですか?」
「陛下は彼の気持ちに気づいていなかったのですか?」
彼の気持ち?何のこと?魔王様は頭の中がパニックになり、リタと第1回の緊急会議を茶室で行った。
魔王様はソファに座り、天を仰ぎながら眉間に皺を寄せている。
「そもそも強くなるために陛下の所へ通うなんて変ではありませんか?」
「それは確かに変ですが、良い具合の手合いがいるのは良いことではありませんか?」
「さすが戦闘狂の陛下です」
ため息を吐きながらリタは魔王様にお茶を淹れた。
注がれたお茶を少し口に含んで、やっと魔王様は冷静になってきた。
「どこかで会ったことがあるとか、助けたことがあるとか、何かあるのではありませんか?」
魔王様はあちらこちらで暴れており、特に魔王と呼ばれるようになってからは積極的に争いごとに首を突っ込むようになった。何かしらそう言うことがあっても何も不思議なことではなかった。
「全然覚えていません」
だが魔王様は人の顔を覚える能力が欠落していた。
「いつからリタはそう感じていたのですか?」
「1年ぐらい前からです」
少年が魔王様に感情を向けるようになって1年も経っていた。それなのにやっと名前を聞いてくるとは相当の奥手だった。
「彼の挑戦を今後は断るのですか?」
「いや、それとこれとは別です」
魔王様は少年と戦う事が楽しみだった。そして成長していく様を見るのは更に楽しかった。彼からの感情のせいでそれが無くなるのは非常に惜しい。
「今後も普通に接する事にします」
魔王様の下した判断は、何もなかったかのように振る舞う事だった。
だが、そんな事とはお構いなしに少年の魔王様への接触は増え、次第にエスカレートしていった。そして2年が経過した時だった。
「ねぇレイリン。今日はもう暗いから魔王城に泊めてくれる?」
と、既に少年ではなく青年となった彼が、魔王城を宿代わりにしようとしていた。
「嫌です」
「何もしないから」
「何もとは何なのか、はっきりさせてください」
段々と面が厚くなっていく青年に、魔王様も半ば諦めており、普通に青年と話す事は魔王様にとっても楽しみになりつつあった。
「酷いことはしない」
だがこの時の青年はいつもと違っていた。何故酷いこと?酷くないこととは?そもそも具体的になっていない。
この時リタは夕食の準備をしており、茶室には魔王様と青年しかいなかった。魔王様はソファに座り、青年は向かいに座っていた。
「レイリンが嫌なことはしない。嫌って言ったらやめるから」
仔犬のような目をして嘆願してくる青年を見て、魔王様は少し言葉を詰まらせた。
既に5年成長を見守って来た為、多くの情が移ってしまっていた。それに、成長してこの人は確実にかっこよくなった。それは魔王様も認めるぐらいに。
それなのにこんな目で見つめてくるなんて、と魔王様は嘆きたくなった。
「そうじゃありません。夕食も寢床も用意しますから、これ以上無駄口を叩かないでください」
魔王様は頭の中を一度リセットして、青年をじっと睨んだ。青年は許可が出て嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうレイリン」
この青年はその名前を呼ぶのが好きなのか、事あるごとに呼んできた。
その呼ばれ方に魔王様も恥ずかしくなるが、いくら言っても直らないためそのまま放置していた。
食事も湯浴みも終わり、ベッドに入った魔王様は、ふと茶室での青年を思い出してしまった。
酷いこと?なんだ?殴り合うのか?魔王様は純粋でそれ以外のことを想像する事が出来なかった。
煽り煽られでそういった発言はあっても、実際に魔王様に手を出せる輩は居らず、殴って黙らせてきた。
悶々と考えていた時に、コンコンと小さなノックの音が部屋に響いた。
「レイリン、まだ起きてる?」
「ランシュエ?どうしたんですか?」
魔王様が返事をする前にギギッと扉を開けて青年は入ってきた。
「少し話がしたくて来ただけ」
青年は1つのロウソクが燈った燭台を持っており、淡い光によって普段より表情が柔らかく見えた。
「良いですよ、座ってください」
魔王様は上半身を起こして、右手で髪を耳にかけた。
そして、何の警戒心もなくベッドの隣に座るように手で叩いた。
青年は誘われるままに、丸机に燭台を置いて魔王様の隣に座った。
「そういえば、探したけれど魔王城に洗面所はないの?」
「洗面台なら湯浴みのところにありますよ?」
青年が言いたいであろう事を魔王様は察することができなかった。
「排泄しないの?」
そのため直接的な表現をするしかなかった。
魔王様は眉を上げた後、すぐに下ろした。
「私は魔族ですから魔力で何とでも出来ます。でもランシュエには必要ですよね」
そうなのか、と軽く青年は相槌を打った。
魔王様が「すぐに用意します」と立ちあがろうとしたところで、「後で良いよ」と呟きながら、勇者はすっと魔王様の太腿に手を乗せて止めた。
「ランシュエ?最近スキンシップが過剰ではありませんか?」
魔王様はその手を払い除けず、敢えて自分も青年の太腿の上に手を置いた。魔王様の頭は、やられたらやり返すが基本だった。
青年は少し驚いたようだが、すっと目を閉じた。
「レイリン、これで自覚していないなんて罪だよ」
最後の方はそっと耳元で囁き、身体を使って魔王様を押し倒した。
この突然の行動に魔王様は反応しきれず、自分が殺されるのかと思ったが、青年からは殺気が全くなかった。
「ランシュエ?どうしたんですか?」
「どう、しようか?」
青年の困惑した顔を見て、困っているのは自分なのにと魔王様も同じ表情をした。
青年の三つ編みが肩から落ち、魔王様の頬へと伝った。代わりに魔王様は腕を上げて青年の頬を触った。
魔王様にとってこの行動は、子供をあやすようなものだった。
「レイリン……ごめん」
ただ、青年にとってその行動は違うものだったかもしれない。魔王様の目を見ず、何も話せないように唇を唇で塞いだ。
魔王様も驚き、慌てて両腕で力一杯青年を押し退けた。
「嫌だった?」
魔王様は自分の唇に触れ、この青年が自分に好意を持っており、2人きりになるべきではなかったとことを思い出した。
最近は、せいぜい触れてくる程度だったが、キスをされてやっと痛感した。
だが気分が悪くなるどころか、心臓が早く鳴り響き、下半身が反応していることに気づいてしまったので、もう取り返しがつかない。
しかもその膨らみは、しっかりと青年にも見られてしまった。
「レイリンも反応しているの?」
嬉しそうに目を細め、青年はにじり寄る。
これは魔王様にとって非常にまずい事態だった。
だが、魔王様は結局のところ青年には甘く、身体は素直で、流されてしまったのだった。
そこで、今まで戦ってきた相手から様々な物を強奪しており、この餌を使わない手は無いと思った。
「魔王城にはたくさんの宝があります。欲しい人は取りに来てください」
すると、魔王様が命を取らない事を知っている者達は次々に魔王様に挑むようになった。
数十年経った時、1人のまだ若い16歳ぐらいの端整な顔立ちをした少年が挑んできた。その人は「自分も強くなりたい」という理由で魔王城へやってきた。
「魔王様、私と戦ってください」
その少年はなかなかセンスが良く、みるみるうちに強くなったが、魔王様としては少し物足りなかった。
とはいえ、このまま強くなれば少しは手応えを感じるかもしれないと、魔王様も特別断ることはなかった。
毎日来たかと思えば、1ヶ月空けることもあった。まちまちではあったが通い続け、3年が経った。
剣と拳を交え終わり、いつもならすぐにこの少年は帰るところだが、この日は違った。
19歳になった少年は元より端正であったが、幼さが消えてより男前になっている。
「魔王様の名前を教えてもらえる?」
その日初めて、この少年は魔王様に興味を持ったようだった。魔王様は名乗ることがあっても、名前を聞かれることは殆どなかった。
「私の名前はリンドハイムです。知りませんでしたか?」
「それは後ろでしょ?前は?私はラン・シュエイシカ」
魔王様も初めてこの少年の名前を聞いた。魔王様にとっては名前よりも戦いの方に関心があるからだ。
とはいえ彼が名乗ったのであれば、自分も名乗らない選択肢は無い。
「私はレイ・リドハイムです」
「そう、それなら私のことはランシュエって呼んで」
何故ランシュエなのか?シュエイシカでは駄目なのか?と考えたところで、少年は続けた。
「私は魔王様のことをレイリンって呼ぶから」
「は……?」
「ぷっ」
魔王様は呆然となり、顔が少し赤くなった。恥からか怒りからかはわからない。
リタは笑いを堪えている様子だった。魔王様はリタの方を睨み、リタは咳をして誤魔化した。
「ダメです。そんなの絶対に許しません」
「何故?可愛い名前だよ」
可愛いという形容の仕方に、魔王様もどうするべきか悩んだ。だが、ここで引く魔王様ではない。
「可愛い?どうやらランシュエは私を可愛がってくれるようですね?」
妖艶な笑みを浮かべて少年へにじり寄った。少年がここへ通うようになった時、身長は魔王様の方が上だったが、今では少年の方が背が高くなってしまっていた。
魔王様は少し見上げ、少年の顎を掴んだ。
魔王様にとってこれはやり返したつもりだ。自分の容姿のことは自覚しているため、この少年が慌てたり、頬を染めたら面白いだろう、そう考えていた。
もし気持ち悪いと思ったのなら、それはそれで面白いだろうから構わない。
だが魔王様の予想と反して、少年は魔王様の腰を引き寄せてしまった。
「可愛がってほしいの?」
「…………」
これには魔王様もリタも何も返せなくなってしまった。と同時に、魔王様の唇に柔らかいものが触れた。
リタの面持ちは変わらないが、僅かに眉を上げた。
魔王様は、何が起こったか理解出来ていない様子だった。少年は自分の顎に触れていた魔王様の手を取った。
「続きはどうする?」
少年は優しく微笑みどこかへ連れて行こうとするが、ここで魔王様も正気に戻った。
「誰がしますか!」
かっと目を見開き、右手を振りほどき、そのまま振り上げて少年に殴りかかった。
「冗談だよ。また来るね」
軽く魔王様の拳を避けると、とてもとても良い笑顔で少年は魔王城から去っていった。
「リタ、これはどう言うことですか?」
「陛下は彼の気持ちに気づいていなかったのですか?」
彼の気持ち?何のこと?魔王様は頭の中がパニックになり、リタと第1回の緊急会議を茶室で行った。
魔王様はソファに座り、天を仰ぎながら眉間に皺を寄せている。
「そもそも強くなるために陛下の所へ通うなんて変ではありませんか?」
「それは確かに変ですが、良い具合の手合いがいるのは良いことではありませんか?」
「さすが戦闘狂の陛下です」
ため息を吐きながらリタは魔王様にお茶を淹れた。
注がれたお茶を少し口に含んで、やっと魔王様は冷静になってきた。
「どこかで会ったことがあるとか、助けたことがあるとか、何かあるのではありませんか?」
魔王様はあちらこちらで暴れており、特に魔王と呼ばれるようになってからは積極的に争いごとに首を突っ込むようになった。何かしらそう言うことがあっても何も不思議なことではなかった。
「全然覚えていません」
だが魔王様は人の顔を覚える能力が欠落していた。
「いつからリタはそう感じていたのですか?」
「1年ぐらい前からです」
少年が魔王様に感情を向けるようになって1年も経っていた。それなのにやっと名前を聞いてくるとは相当の奥手だった。
「彼の挑戦を今後は断るのですか?」
「いや、それとこれとは別です」
魔王様は少年と戦う事が楽しみだった。そして成長していく様を見るのは更に楽しかった。彼からの感情のせいでそれが無くなるのは非常に惜しい。
「今後も普通に接する事にします」
魔王様の下した判断は、何もなかったかのように振る舞う事だった。
だが、そんな事とはお構いなしに少年の魔王様への接触は増え、次第にエスカレートしていった。そして2年が経過した時だった。
「ねぇレイリン。今日はもう暗いから魔王城に泊めてくれる?」
と、既に少年ではなく青年となった彼が、魔王城を宿代わりにしようとしていた。
「嫌です」
「何もしないから」
「何もとは何なのか、はっきりさせてください」
段々と面が厚くなっていく青年に、魔王様も半ば諦めており、普通に青年と話す事は魔王様にとっても楽しみになりつつあった。
「酷いことはしない」
だがこの時の青年はいつもと違っていた。何故酷いこと?酷くないこととは?そもそも具体的になっていない。
この時リタは夕食の準備をしており、茶室には魔王様と青年しかいなかった。魔王様はソファに座り、青年は向かいに座っていた。
「レイリンが嫌なことはしない。嫌って言ったらやめるから」
仔犬のような目をして嘆願してくる青年を見て、魔王様は少し言葉を詰まらせた。
既に5年成長を見守って来た為、多くの情が移ってしまっていた。それに、成長してこの人は確実にかっこよくなった。それは魔王様も認めるぐらいに。
それなのにこんな目で見つめてくるなんて、と魔王様は嘆きたくなった。
「そうじゃありません。夕食も寢床も用意しますから、これ以上無駄口を叩かないでください」
魔王様は頭の中を一度リセットして、青年をじっと睨んだ。青年は許可が出て嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうレイリン」
この青年はその名前を呼ぶのが好きなのか、事あるごとに呼んできた。
その呼ばれ方に魔王様も恥ずかしくなるが、いくら言っても直らないためそのまま放置していた。
食事も湯浴みも終わり、ベッドに入った魔王様は、ふと茶室での青年を思い出してしまった。
酷いこと?なんだ?殴り合うのか?魔王様は純粋でそれ以外のことを想像する事が出来なかった。
煽り煽られでそういった発言はあっても、実際に魔王様に手を出せる輩は居らず、殴って黙らせてきた。
悶々と考えていた時に、コンコンと小さなノックの音が部屋に響いた。
「レイリン、まだ起きてる?」
「ランシュエ?どうしたんですか?」
魔王様が返事をする前にギギッと扉を開けて青年は入ってきた。
「少し話がしたくて来ただけ」
青年は1つのロウソクが燈った燭台を持っており、淡い光によって普段より表情が柔らかく見えた。
「良いですよ、座ってください」
魔王様は上半身を起こして、右手で髪を耳にかけた。
そして、何の警戒心もなくベッドの隣に座るように手で叩いた。
青年は誘われるままに、丸机に燭台を置いて魔王様の隣に座った。
「そういえば、探したけれど魔王城に洗面所はないの?」
「洗面台なら湯浴みのところにありますよ?」
青年が言いたいであろう事を魔王様は察することができなかった。
「排泄しないの?」
そのため直接的な表現をするしかなかった。
魔王様は眉を上げた後、すぐに下ろした。
「私は魔族ですから魔力で何とでも出来ます。でもランシュエには必要ですよね」
そうなのか、と軽く青年は相槌を打った。
魔王様が「すぐに用意します」と立ちあがろうとしたところで、「後で良いよ」と呟きながら、勇者はすっと魔王様の太腿に手を乗せて止めた。
「ランシュエ?最近スキンシップが過剰ではありませんか?」
魔王様はその手を払い除けず、敢えて自分も青年の太腿の上に手を置いた。魔王様の頭は、やられたらやり返すが基本だった。
青年は少し驚いたようだが、すっと目を閉じた。
「レイリン、これで自覚していないなんて罪だよ」
最後の方はそっと耳元で囁き、身体を使って魔王様を押し倒した。
この突然の行動に魔王様は反応しきれず、自分が殺されるのかと思ったが、青年からは殺気が全くなかった。
「ランシュエ?どうしたんですか?」
「どう、しようか?」
青年の困惑した顔を見て、困っているのは自分なのにと魔王様も同じ表情をした。
青年の三つ編みが肩から落ち、魔王様の頬へと伝った。代わりに魔王様は腕を上げて青年の頬を触った。
魔王様にとってこの行動は、子供をあやすようなものだった。
「レイリン……ごめん」
ただ、青年にとってその行動は違うものだったかもしれない。魔王様の目を見ず、何も話せないように唇を唇で塞いだ。
魔王様も驚き、慌てて両腕で力一杯青年を押し退けた。
「嫌だった?」
魔王様は自分の唇に触れ、この青年が自分に好意を持っており、2人きりになるべきではなかったとことを思い出した。
最近は、せいぜい触れてくる程度だったが、キスをされてやっと痛感した。
だが気分が悪くなるどころか、心臓が早く鳴り響き、下半身が反応していることに気づいてしまったので、もう取り返しがつかない。
しかもその膨らみは、しっかりと青年にも見られてしまった。
「レイリンも反応しているの?」
嬉しそうに目を細め、青年はにじり寄る。
これは魔王様にとって非常にまずい事態だった。
だが、魔王様は結局のところ青年には甘く、身体は素直で、流されてしまったのだった。
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